021話 銀の閃光 ― 灰に沈む眼
『ゼロバレット』の世界観やキャラ画像はこちら ↓
作者X(Twitter)で公開中!
https://x.com/MizunekoZeroB
――低空飛行のヘリが、灰の雲を抜けた。
風がない。音がない。
ただ、機体を擦る砂の感触だけが、耳にまとわりつく。
カリナが計器を覗き込む。
「高度、500。ノイズ濃度80%……これ、マジで通信入らないわね。」
ノアは静かに外を見ていた。
「……灰が、空気を殺してる。」
機体が揺れ、カインの声が割り込む。
『降下ポイント、あと三分! 地上は完全に電波死んでるぞ、気を付けろ!』
「了解、ありがとうカイン。」
カリナが返すが、ノアは無言のままだ。
彼の視線は、灰の雲の下――
まるで“世界の音が消える”境界を見つめていた。
◆同時刻・拠点・情報班
ネオンがホログラムに映る波形を指差す。
『ほらこれ。弾道の軌跡が“記録されてない”の。』
ルアンが眉を寄せる。
「……どういう意味だ。」
『通常なら弾丸が空気を裂く衝撃波で“空間ノイズ”が発生するはず。
でも、アシュレイ・ケインの射線だけは、空気そのものが消えてるの。』
「真空……か?」
ネロがぼそりと呟く。
ネオンは頷き、数式を映し出す。
『正確には、“摩擦除去型弾道場”。
彼は狙撃の瞬間、空気分子の抵抗値を打ち消す波動を発してる。
だから弾が“空間を通らない”の。』
ソフィアが静かに言った。
「……まるで、存在そのものを削除する弾丸ね。」
ルアンは唇を噛む。
「まさに“秤の外側”の存在。……ランカーの中でも異質だ。」
◆現地 ― ヴァルミア灰域
ヘリが滑り込み、砂を巻き上げて着陸した。
灰の匂いと、焦げた鉄の臭い。
ノアとカリナが降り立つと、すぐに風が止んだ。
まるで、誰かが世界のスイッチを切ったようだった。
「……音、なくなったな。」
カリナがつぶやく。
ノアは頷き、耳を澄ませる。
「呼吸すら重くなる……圧力が変わってる。
ここはもう、“生き物の領域”じゃない。」
二人は廃墟を抜け、灰に覆われた道路を進む。
倒壊したタンクローリー。
弾痕の残る壁。
だが、血は一滴もない。
「なぁノア、ほんとに人間の仕業だと思う?」
「……まだわからない。」
カリナが軽口を叩こうとしたが、
ノアの表情を見てやめた。
彼の瞳が、わずかに光を宿していた。
――共鳴感覚。
周囲の“振動”を読むノア特有の戦場知覚。
風の粒、砂の跳ね方、空気の揺れ。
その全てが、彼に“異物”を知らせていた。
「……上だ。」
ノアが小さく言った瞬間、
カリナが本能で身を屈める。
パァン――と閃光。
だが音はない。
ただ、地面が“抉れて”いた。
「なにこれ、銃声が……しない!?」
カリナが叫ぶ。
ノアは周囲を見渡しながら呟く。
「風の流れが、一瞬止まった。……あの瞬間、空気が“削ぎ落とされた”。」
カリナが息を呑む。
「ってことは、もう見られてる?」
「……ああ。観測されてる。」
ノアの指がわずかに震える。
胸の刻印《蒼白の天秤》が、微かに光った。
「こっちの秤が、傾いたな。」
カリナは深呼吸し、短剣を構える。
「いいわよ。なら――揺り戻してやろう。」
ノアは銃を構え、灰色の空を睨む。
そこには何もいない。
ただ、“何かがこちらを見ている”気配だけがあった。
「……アシュレイ・ケイン。銀弾の狩人。
――見つけた。」
風が止み、灰が凍りつく。
世界が、再び“無音”に沈む。
――次回更新:明日17:30公開予定
ブクマ・評価・感想が励みになります。
『ゼロバレット』続編、022話「無音の弾丸 ― 0.02秒の死」――
をお楽しみに!




