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ゼロバレット  作者: 水猫
ーー交錯する意志と取引ーー
20/74

020話 灰の戦地 ― 残響

『ゼロバレット』の世界観やキャラ画像はこちら ↓


作者X(Twitter)で公開中!


https://x.com/MizunekoZeroB

――灰が降っていた。


白でも黒でもない、

金属のように冷たい灰。


風もなく、鳥の声もない。

ただ、空が沈黙している。


ラザロは、焼け落ちた建物の屋上で双眼鏡を覗いていた。

視界の向こうには、

瓦礫と鉄骨と、凍りついた戦車の群れ。


「……まるで死んだ街だな。」

彼の声が空気に溶ける。

だが、音が返ってこない。


その異常に気づいたのは、ほんの数秒後だった。


「……おい、ダリオ。応答あるか?」


無線を叩いても、ノイズひとつ返らない。


「電波障害か……?」

彼は眉をひそめる。


だが、次の瞬間――

灰の中で、“ひとつの線”が走った。


音はない。

ただ、視界の中に“空間が裂けた”ような錯覚。


ラザロが反射的に身を屈めた瞬間、

後方の通信塔の上部がスパッと切断された。


切断面は滑らか。

まるで、光の刃で斬られたようだった。


「……チッ、何だ今の……!」


すぐさま遮蔽物に身を潜め、

スコープを覗く――

が、そこには何も映らない。


風も、影も、光も。


「クソッ……。おいダリオ、どこに──」


――コンッ。


乾いた音。

その方向を振り向いた瞬間、

ビルの壁に小さな穴が空いた。


煙もない。

破片もない。

ただ、灰が一粒、ゆっくりと宙を漂う。


ラザロは息を呑む。

その穴の向こうには、誰もいない。

だが次の瞬間、無線がわずかにノイズを拾った。


『……ザ……ロ、聞こえるか?』


「ダリオ!? おい、どこだ!」


『……上を……見るな……音が、……消える……』


「は?」


――その言葉と同時に、

視界の上端を、何かがかすめた。


弾丸でも、光でもない。

“線”だ。


空間が“縫われた”。

その瞬間、屋上の隅で火花が散り、

ダリオの位置を示すビーコンが消えた。


「……っ! ダリオ!!」


無線は沈黙。


焦げた灰の匂い。

熱も、風も、音もない。


ただ、ラザロは理解した。


――狙撃されている。

 それも、“音の存在しない狙撃”に。


 


「……チッ……見つけたぞ、お化け野郎。」


ラザロはライフルを構え、

灰の向こうを狙う。


だが、スコープの中で映ったのは――

鏡のように歪む空気の揺らめき。


その中心で、

何かがこちらを“見返した”。


目ではない。

スコープ越しの、意識の焦点。


「……ははっ、なるほど。これが“世界ランカー”か。」

ラザロが苦笑した瞬間、

胸の天秤が淡く光を放つ。


ブロンズの紋章が脈動する。


「死んでも、商売は手放さねぇ。」


彼はトリガーを引く――


だが、撃鉄が落ちる音はしなかった。


世界が“止まった”ように静まり返る。


次に聞こえたのは、

心臓の音。


ドクン。


一発の弾丸が、ラザロの胸を貫いた。


煙は上がらず、血の飛沫もない。

ただ、灰が舞うだけだった。


ラザロは笑みを浮かべたまま、

ゆっくりと崩れ落ちた。


「……商売……成立、だ……」


灰が降る。

死も、沈黙も、すべてが灰色に溶けていく。


そしてその遠く離れた丘の上で、

ひとりの狙撃手が、銃口をわずかに下げた。


白い外套。

銀の髪。

無表情の横顔。


その手の中で、

長銃《Silverline》が淡く光を帯びている。


「……風速、0.2。誤差、許容内。」


狙撃手はゆっくりと息を吐いた。

「次は、もう少し近くまで来い。“空白”。」


――Ashley Kane。

世界ランク11位。

二つ名《銀弾の狩人》。


その存在が、戦場を“無音の墓標”へと変えていく。

――次回更新:明日17:30公開予定


ブクマ・評価・感想が励みになります。


『ゼロバレット』続編、021話「銀の閃光 ― 灰に沈む眼」――


をお楽しみに!


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