020話 灰の戦地 ― 残響
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――灰が降っていた。
白でも黒でもない、
金属のように冷たい灰。
風もなく、鳥の声もない。
ただ、空が沈黙している。
ラザロは、焼け落ちた建物の屋上で双眼鏡を覗いていた。
視界の向こうには、
瓦礫と鉄骨と、凍りついた戦車の群れ。
「……まるで死んだ街だな。」
彼の声が空気に溶ける。
だが、音が返ってこない。
その異常に気づいたのは、ほんの数秒後だった。
「……おい、ダリオ。応答あるか?」
無線を叩いても、ノイズひとつ返らない。
「電波障害か……?」
彼は眉をひそめる。
だが、次の瞬間――
灰の中で、“ひとつの線”が走った。
音はない。
ただ、視界の中に“空間が裂けた”ような錯覚。
ラザロが反射的に身を屈めた瞬間、
後方の通信塔の上部がスパッと切断された。
切断面は滑らか。
まるで、光の刃で斬られたようだった。
「……チッ、何だ今の……!」
すぐさま遮蔽物に身を潜め、
スコープを覗く――
が、そこには何も映らない。
風も、影も、光も。
「クソッ……。おいダリオ、どこに──」
――コンッ。
乾いた音。
その方向を振り向いた瞬間、
ビルの壁に小さな穴が空いた。
煙もない。
破片もない。
ただ、灰が一粒、ゆっくりと宙を漂う。
ラザロは息を呑む。
その穴の向こうには、誰もいない。
だが次の瞬間、無線がわずかにノイズを拾った。
『……ザ……ロ、聞こえるか?』
「ダリオ!? おい、どこだ!」
『……上を……見るな……音が、……消える……』
「は?」
――その言葉と同時に、
視界の上端を、何かがかすめた。
弾丸でも、光でもない。
“線”だ。
空間が“縫われた”。
その瞬間、屋上の隅で火花が散り、
ダリオの位置を示すビーコンが消えた。
「……っ! ダリオ!!」
無線は沈黙。
焦げた灰の匂い。
熱も、風も、音もない。
ただ、ラザロは理解した。
――狙撃されている。
それも、“音の存在しない狙撃”に。
「……チッ……見つけたぞ、お化け野郎。」
ラザロはライフルを構え、
灰の向こうを狙う。
だが、スコープの中で映ったのは――
鏡のように歪む空気の揺らめき。
その中心で、
何かがこちらを“見返した”。
目ではない。
スコープ越しの、意識の焦点。
「……ははっ、なるほど。これが“世界ランカー”か。」
ラザロが苦笑した瞬間、
胸の天秤が淡く光を放つ。
ブロンズの紋章が脈動する。
「死んでも、商売は手放さねぇ。」
彼はトリガーを引く――
だが、撃鉄が落ちる音はしなかった。
世界が“止まった”ように静まり返る。
次に聞こえたのは、
心臓の音。
ドクン。
一発の弾丸が、ラザロの胸を貫いた。
煙は上がらず、血の飛沫もない。
ただ、灰が舞うだけだった。
ラザロは笑みを浮かべたまま、
ゆっくりと崩れ落ちた。
「……商売……成立、だ……」
灰が降る。
死も、沈黙も、すべてが灰色に溶けていく。
そしてその遠く離れた丘の上で、
ひとりの狙撃手が、銃口をわずかに下げた。
白い外套。
銀の髪。
無表情の横顔。
その手の中で、
長銃《Silverline》が淡く光を帯びている。
「……風速、0.2。誤差、許容内。」
狙撃手はゆっくりと息を吐いた。
「次は、もう少し近くまで来い。“空白”。」
――Ashley Kane。
世界ランク11位。
二つ名《銀弾の狩人》。
その存在が、戦場を“無音の墓標”へと変えていく。
――次回更新:明日17:30公開予定
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『ゼロバレット』続編、021話「銀の閃光 ― 灰に沈む眼」――
をお楽しみに!




