017話 刻まれし秤 ― 魂の色
前書き
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――溶鉱炉のうなりが響く。
地下工房。
硝煙と油の匂いが混じり合う中、ルアンの指先が火花を散らしていた。
厚い防音壁に囲まれたその空間は、ゼロバレットの心臓部でもある。
テーブルの上には二つの設計図。
一つはノア専用の銃。
そしてもう一つは、彼のために新たに鍛えられる刃――《ブランク・リッジ》。
「……ようやく形になったか」
ネロが煙草を指先で転がしながら呟く。
「まだ“仕上げ”が残ってるわ」
ソフィアが言い、焼き上がったばかりのブレードを覗き込む。
淡く蒼白い筋が金属の表面を走っていた。
「綺麗ね。まるで、空そのものを封じ込めたみたい。」
ルアンは無言で頷き、溶接機を置いた。
「素材はラザロが拾った“戦場の欠片”だ。
バルディア戦線で溶けた戦車装甲。その残滓を再鍛造した。」
ノアがブレードを手に取る。
その瞬間、微かに空気が鳴った。
カン……と、どこからともなく反響する金属音。
「……聞こえる?」
リリスが息をのむ。
「刃が……音を返してる。」
ノアは静かに頷く。
「振動の波が伝わってくる。……これなら、音のない場所でも“見える”。」
「ブランク・リッジ。空白を分ける稜線――あなたに相応しい名だわ。」
ソフィアが微笑んだ。
――
やがて、ルアンが別の金属台を引き寄せる。
そこには、十個の焼印が整然と並んでいた。
それぞれに天秤の紋章が刻まれ、色と光が異なる。
「……刻む時だな。」
ルアンの声が、低く工房に響いた。
ノアは黙って上着を脱ぎ、左胸を出した。
「ここでいい。」
ソフィアが静かに頷く。
「心臓の上。あなたの“均衡”はここにある。」
ルアンが焼印を炉に沈める。
白い光が走り、空気が震えた。
――ジュッ。
金属が肌に触れ、蒼白の光が弾ける。
ノアの胸に、天秤が刻まれていく。
熱ではなく、鼓動が焼きついていくような感覚。
「……痛くないの?」
リリスが問う。
「いや。……ただ、重くなる。」
ノアの声は静かだった。
ソフィアがそっと手を当てる。
蒼白の紋が淡く脈打ち、ノアの鼓動に呼応して光る。
「これであなたも、ゼロバレットの一員。
もう、“空白”じゃない。」
ノアは短く頷いた。
「了解。俺の均衡はここにある。」
――
工房の明かりがゆっくりと落ちる。
銃と刃が並び、
蒼白の天秤がその中心で静かに光を放っていた。
「魂の色は髪に宿り、天秤に刻まれる。
そしてその秤が、我らを“均衡”へ導く。」
ルアンの声が響く。
ソフィアがその言葉を引き取るように呟いた。
「――ゼロバレットは、ただの傭兵団じゃない。
世界の秤を支える、影の均衡。」
ノアは無言で《ブランク・リッジ》を握る。
刃がかすかに鳴き、胸の刻印と共鳴するように光を返した。
「この刃は、命と罪の境を断ち切るもの。
……空白を埋める線だ。」
その蒼白の光が消えるまで、誰も言葉を発さなかった。
――次回更新:明日17:30公開予定
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『ゼロバレット』続編、018話「秤に誓う ― 刻印の義」――
をお楽しみに!




