012話 硝煙のあとで
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――コトン。
グラスがぶつかる軽い音。
拠点のホールに、陽気な声と笑いが満ちていた。
壁には酒瓶の並ぶ棚、机の上には皿とパン。
肉の焼ける香ばしい匂いと、アルコールの甘い刺激。
戦場の熱気とは違う、**“生の匂い”**がそこにあった。
「乾杯!」
カインが声を上げると、全員がグラスを掲げた。
琥珀色の液体がランプの光に反射して揺れる。
「ノアの初任務、完遂! 死者ゼロ、報酬15億円! よくやったな!」
「おおーっ!」
ネロはだるそうに座りながらも、グラスを軽く掲げる。
「15億だってよ……これでようやくマトモな飯が食えるな。」
「それはあなたが食費を酒に変えてるだけでしょ。」
カサンドラが冷たく言い放つ。
カインが笑いながら肩を組む。
「ま、今日はいいじゃねぇか。勝ったんだし!」
リリスはワイングラスを揺らしながら、
ソファに座るノアを見つめて微笑む。
「ふふ……あなた、やっぱり不思議な子ね。」
「ん?」
「血の匂いがしないのよ。……なのに、不思議と“あたたかい”。」
ノアは小さく笑った。
「それ、初めて言われたかも。」
リリスは軽くグラスをノアのグラスに合わせた。――チン。
――
カインが裸エプロンのまま立ち上がり、胸を張る。
「裸で肉を焼けば旨さは二倍! これ、俺の持論な!」
「ふふ、よく言うわ」
リリスが艶やかに笑いながら、カインの尻を容赦なくモミモミ。
「やめろ! 調味料増えるだろ!」
笑いが弾けた。
「おーい! 次、特製スパイス煮込みいくぞ! 俺の畑で作ったハーブ入りだ!」
「え、それ絶対美味しいやつじゃん!」
カリナの声に、皆がよだれを垂らしそうになる。
ネオンの声がスピーカーから聞こえる。
『おいおい、リモートで参加してる私も飲みたいんだけど! AIは酒禁止とか納得いかない!』
「データが酔ってバグったら困るからよ」
ソフィアが笑いながら返す。
部屋の奥では、カサンドラがピアノを弾いていた。
音色は静かで、戦場の記憶を慰めるように優しい。
――
やがて、ソフィアがワイングラスを片手に立ち上がる。
「さて。今日の主役――ノア・“空白”・バレット。」
全員の視線がノアに向く。
ソフィアは穏やかに笑いながら言葉を紡いだ。
「あなたがここに来てから、ゼロバレットはひとつ階段を上がった。
今日から正式に、“第十一席”として登録するわ。」
「第十一席?」
ノアが問い返す。
ソフィアは頷き、ゆっくりと説明した。
「ゼロバレットは、私を“第一席”として――
ネロ、ルアン、リリス、カサンドラ、カリナ、ラザロ、ネオン、ダリオ、カイン。
そしてあなたで“十一席”。
ほとんどは結成当初のメンバーだけど……あなたは、最後の一席として加わる特別な存在よ。」
一瞬、場の空気が変わる。
誰もがその重みを感じ取っていた。
ネロが口笛を鳴らす。
「へぇ……最年少で十一席。やるじゃねぇか、“空白”。」
「おめでとう、ノア!」
カリナがグラスを掲げる。
「これで正式に仲間ね。」
ノアは静かに頷き、グラスを掲げた。
「……ありがとう。十一席か……悪くない響きだ。」
その言葉に、場の空気が一瞬だけ引き締まる。
だが次の瞬間、再び笑いと歓声が戻った。
グラスの音、火の音、そして誰かの歌声が響く。
――
夜も更け、焚き火のような明かりの下。
ソフィアはベランダで風にあたりながら、ワインを揺らしていた。
隣に立つカサンドラが、ぽつりと聞く。
「……楽しそうね。」
「ええ。彼らが笑ってるのを見るのが、私の“報酬”だから。」
ソフィアはそう言って微笑んだ。
その瞳の奥では、すでに次の戦場が始まっている。
ノアがベランダに出てきて、隣に立つ。
「……これが、平和ってやつ?」
「ええ。ほんの一夜限りのね。」
ノアは空を見上げた。
「……この静けさが、長く続けばいいのに。」
風が吹き抜け、グラスの赤い液体が揺れた。
それが、戦士たちのわずかな“安息の音”だった。
――次回更新:明日17:30公開予定
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『ゼロバレット』続編、013話「嵐の前の静寂」――
をお楽しみに。




