011話 白い取引と黒い影
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――カツ、カツ、カツ。
磨かれた大理石の廊下に、ソフィアのヒールの音が響いていた。
白のスーツ、金のピアス、そして薄手の革手袋。
その背中には、冷たい威厳と“戦場で生き残ってきた者の匂い”が宿っている。
後ろを歩くのは、ノア、ネロ、カサンドラ。
全員が無言。
今日の任務は――戦後の取引と報酬の受け取り。
だが、“戦場”が終わったわけではなかった。
場所は、中立都市。
戦争の傷跡がまだ残る都市でありながら、
裏社会では「世界一高額な契約が交わされる街」と呼ばれている。
「……静かね」
カサンドラが呟く。
「復興都市って言葉が虚しいわね。
歩いてるの、兵士上がりか傭兵ばかり。」
ネロが煙草をくわえ、鼻で笑った。
「金と血の匂いが混ざった街は、どこも似たようなもんさ。」
ノアは一言も発さず、周囲を見渡す。
通路の天井、監視カメラの死角、窓枠の角度――
その全てを“戦場”として計算していた。
その時、耳元のイヤーピースがかすかに鳴る。
『こちらルアン。全域スキャン完了。……あー、嫌な反応だ。』
ルアンの声は冷静だが、どこか楽しげでもある。
『南西ビル屋上、距離六百三十メートル。狙撃手二名。
スコープ角度、ソフィアの心臓直線上。』
ネロが舌打ちした。
「チッ、やっぱり仕掛けてやがったか。」
『安心して。撃たれる前に撃つ――それがうちの流儀でしょ?』
ルアンの指が、遠隔制御端末を軽く叩く。
一拍、静寂。
画面に浮かぶ赤い熱源が、ゆっくりと揺れる。
照準完了。
――ピピッ……ドゴォンッ!!
数百メートル離れた屋上で閃光。
狙撃銃が爆散し、影が宙に吹き飛ぶ。
煙が揺らめき、熱源がゼロに落ちる。
『排除完了。データ消去済み。』
ソフィアは微動だにせず、笑みを浮かべた。
「……上出来よ、ルアン。予定通り進めて。」
――
会議室。
高層ホテルの最上階、豪奢なシャンデリアが揺れる。
テーブルの向こうに座るのは――武器商人。
権力と金の臭いを纏った男。
その笑顔の裏には、無数の死体が積まれている。
「いやぁ、ソフィア・ヴァレンタイン。
また君の“お仲間”が市場を荒らしてくれたじゃないか。」
デュランはワインを掲げ、薄笑いを浮かべた。
「市場を“荒らした”んじゃないわ。整えただけ。」
ソフィアは柔らかく返す。
「……そして、整えた分の報酬を受け取る。それだけのこと。」
彼女は契約書を机に置く。
黒い革の表紙には、金の刻印――「ZB CONTRACT」。
一枚の紙に、莫大な血の値段が記されている。
「報酬額、予定通り“7億5,000万”。」
指先で軽く叩く。
「……ただし、裏切りの代償は倍。――15億、即金でお願い。」
デュランの笑みが消えた。
「な、なにを――」
「あなたの狙撃手、先ほど処理したわ。」
ソフィアはワインを一口含み、涼しく微笑む。
「こちらの損害はゼロ。でもあなたは信用を失った。
今、生きているだけでも幸運よ。契約通り、二倍。」
沈黙。
空気が固まる。
やがてデュランは青ざめた顔でペンを握り、震える手で署名した。
――シャリ、シャリ。
ペン先の音だけが響く。
ネロが腕を組んで言う。
「やっぱ女って怖ぇな……。」
「黙って」カサンドラが一言で制す。
署名を終えると、ソフィアは満足げに立ち上がった。
「いい取引だったわ、マリオ。
あなたのような男には、“恐怖”が一番効くのね。」
「……悪魔め。」
デュランが吐き捨てる。
「ええ、褒め言葉として受け取るわ。」
ソフィアは微笑みながら、扉へと歩き出す。
イヤーピースから、ルアンの声。
『全データ確保完了。裏切りの証拠音声も保存済み。』
「ありがとう。おかげで取引が“穏便”に済んだわ。」
――
帰還中の車内。
ネロが煙草をくわえ、ため息をつく。
「交渉ってのは戦場より神経削るな……。」
カサンドラは端末を見ながら言った。
「報酬入金確認。総額15億円。……“一日で国家予算ね”。」
ソフィアは窓の外に目を向け、
沈みゆくサロネアの街を見つめる。
「……血を流すより、ペンを走らせる方が怖いのよ。」
ノアが静かに問う。
「……これも、戦いなのか。」
ソフィアは微笑む。
その笑みは、砂漠の夜風のように冷たい。
「ええ。
戦場は、銃を置いてからが本番よ。」
――
その夜、
《マリオ・デュラン》の私邸が爆発炎上したというニュースが流れた。
証拠は一切なし。
だが、誰も真相を追う者はいなかった。
なぜなら、サロネアの裏通りで囁かれていたからだ。
「あの夜、“ゼロバレット”が通ったらしい――」
夜風が街の明かりを揺らし、
どこかで一発、銃声が響いた。
そして世界はまた一つ、
“見えない戦争”を学んだ。
――次回更新:明日17:30公開予定
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『ゼロバレット』続編、012話「硝煙のあとで」――
をお楽しみに。




