102話 天秤の刻印
――第一拠点・最深部。
厚い石扉が閉まる。
外界の音は消え、
残るのは静寂と、中央に据えられた黒い石台。
岩壁には巨大な天秤。
左右は、わずかに傾いている。
完璧ではない。
均衡とは、揺れ続けるものだからだ。
◆◆◆
ゼロバレット全員が揃っていた。
ネロ。
カサンドラ。
ラザロ。
ダリオ。
ネオン。
リリス。
カイン。
カリナ。
ルアン。
そしてノア。
誰一人欠けていない。
今日ここに立つのは、
組織そのものだ。
◆◆◆
アシュレイが中央へ進む。
コートを脱ぎ、
シャツを脱ぐ。
左下の脇腹。
心臓の少し下。
命を抱える位置。
ソフィアが静かに告げる。
「刻印は、ここに入れる」
「撃つ腕でも、歩く足でもない」
「守る場所よ」
アシュレイは短く頷く。
◆◆◆
リリスが熱源を起動する。
銀の焼印が、ゆっくり赤く染まる。
左右非対称の天秤。
完全ではない。
だが、意思がある。
◆◆◆
ソフィアが問う。
「理解している?」
「これは栄誉ではない」
「責任よ」
ネロが言う。
「都市が崩れれば、お前の責任だ」
カサンドラ。
「誤算が出れば、私たち全員の責任」
ラザロ。
「物流が止まれば」
ダリオ。
「噂が暴走すれば」
カイン。
「仲間が倒れれば」
カリナ。
「背負うのは、お前もだ」
ルアン。
「均衡は常に揺れる」
静寂。
ソフィアが最後に問う。
「それでも、立つ?」
アシュレイは迷わない。
「立つ」
◆◆◆
焼印が、左脇腹に触れる。
皮膚が焼ける匂いが、わずかに立つ。
声は出ない。
逃げない。
視線も逸らさない。
数秒。
やがて、焼印が離れる。
◆◆◆
最初は赤い痕。
だが――
そこに、光が宿る。
深い黒に近い緑。
夜の森の色。
その中央を、細い銀の線が走る。
未完成の天秤。
揺れながらも、確かに均衡を取る印。
ネオンが小さく呟く。
「……濃いな」
ダリオが笑う。
「荒っぽい色だ」
カインが頷く。
「似合ってる」
ノアが静かに見る。
「……重い色だ」
◆◆◆
ソフィアが一歩前に出る。
「本日をもって」
一拍。
「アシュレイは、ゼロバレット正式構成員」
空気が変わる。
重さが、温度を帯びる。
◆◆◆
ネロが最初に手を伸ばす。
「これからよろしくな」
カサンドラが小さく頷く。
「期待しているわ」
ラザロ。
「任せる場面は増える」
ダリオ。
「噂はもう流した」
ネオン。
「登録完了、正式認証済み」
リリス。
「怪我はしないでください」
カインが肩を叩く。
「飯は作ってやる」
カリナが笑う。
「死ぬなよ」
ルアンが短く言う。
「共に均衡を」
◆◆◆
最後に、ノアが近づく。
刻印を見つめる。
「……隠せる場所だな」
アシュレイが笑う。
「見せるもんじゃねぇ」
ノアは頷く。
「これからよろしく」
短い言葉。
だが、本心だった。
◆◆◆
ソフィアが全員を見る。
「力を持つ者は、戦場を選ぶ」
「だが」
「天秤を刻まれた者は、世界の重さを受け止める」
照明が落ちる。
壁の天秤と、アシュレイの脇腹の天秤が、同じ色で微かに光る。
もう外側ではない。
同じ側だ。
ゼロバレットは、また一段、格を上げた。
そして今。
アシュレイは――
完全に、ゼロバレットの仲間だ。
――次回更新:3月11日17:30公開予定
ブクマ・評価・感想が励みになります。
『ゼロバレット』続編、103話「 」――
をお楽しみに!




