010話 弾丸の値札
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――ゴォォォォ……。
乾いた砂を巻き上げながら、ヘリがゆっくりと降下していく。
赤茶けた地面の上には、焼けた車両と崩れた建物の影。
陽炎が揺らめき、硝煙の匂いがまだ大気を焦がしていた。
ノアは静かにヘリから降り立ち、荒野を見渡した。
背後ではカリナが帽子を外し、汗を拭っている。
「……終わったな」
「終わりよ。とりあえずね」
カリナの言葉に、ノアは小さく頷く。
遠くで砂を蹴る音――第2班のヘリが接近していた。
――ドドドドド……ッ!
機体が降下し、ネロとカサンドラが姿を現す。
白いスーツとシャツには血と灰の跡が残っていたが、
二人とも戦場帰りとは思えぬほど落ち着いていた。
「おーい、派手にやったな」
ネロが笑いながら片手を上げる。
「七十人、相手したんだって? 俺なら三日はかかるわ」
カサンドラが横でため息をつく。
「仲間がいるのに、一人でやろうとしないの!」
軽口の応酬に、ノアは苦笑を漏らす。
だがその表情は、戦いの緊張が抜けきらぬまま硬い。
ネロが肩をすくめ、ぼそりと呟く。
「……早く変態のメシ食って、風呂入って寝てぇなぁ」
その言葉に、全員が同時に頷いた。
風が吹き抜け、瓦礫を転がす音が乾いた空気に混じる。
――
拠点・本部。
壁一面のスクリーンには、二つの班の戦闘データが流れていた。
ノア、カリナ、ネロ、カサンドラ――全員、無事帰還。
ソフィアはデスクに肘をつき、報告書を眺めながら呟く。
「全任務、完遂。死者ゼロ。……理想的ね。」
帰還直後の作戦室では、仲間たちの声が響いていた。
「なぁ、見た!? ノアの動き!」
カリナがテーブルを叩いて笑う。
「あいつ、敵が撃つより先に殺してたわ! 反則でしょ!」
「見た見た。弾丸の神経が通ってるみたいだ」
カインが肉を頬張りながら笑う。
「しかも余裕の顔でだぞ? 普通の奴なら腰抜かすって!」
ネロはソファに深く腰を落とし、煙草に火をつけた。
「戦場で笑ってられる奴はほんの一握りだ。
……だがあのガキ、まるで“戦いが呼吸”って感じだったな」
リリスがグラスを傾け、目を細める。
「ふふっ……あの子の鼓動、ずっと見てたけど、まったく乱れてなかったの。
ねぇソフィア、彼は何者なの?」
その問いに答えるように、後方のモニターにホログラムが浮かぶ。
透き通るような少女の声――ネオンだ。
『はい。データ解析完了。……ただし、一つ異常値があります』
「異常?」
ソフィアが眉を寄せる。
ネオンは指を動かし、空中に数字を並べた。
――命中率、99.7%。
――反応速度、0.13秒。
――撃墜数、70。
――被弾、ゼロ。
――作戦時間、わずか48分。
『……人間の限界値を、明確に超えてます』
ソフィア・ヴァレンタインは椅子の背にもたれ、
静かにワイングラスを傾けた。
「ふふ……やっぱり、次元違うわね」
彼女はグラスを置き、リモコンを操作する。
室内の照明が落ち、壁一面に青白い光が広がった。
そこに浮かび上がったのは、裏社会の懸賞金リスト。
ネオンがもう一つのファイルを開く。
タイトルは――WORLD BOUNTY LIST。
スクリーンに、淡い赤で名前が浮かび上がる。
Rank:12 コードネーム “空白(Blank)”=NOAH
懸賞金:10億円
活動範囲:中東・北方・旧ルグス領
作戦成功率:100%
生存確認件数:0(接触者、生還記録なし)
危険度:SSS級(単独戦域制圧可能)
備考:
・ガリレア砂漠戦線「無音の夜」事件の実行者
・バルディア鉱山奪還作戦で通信を完全遮断
・リスボニア自治区反乱を単独で終結
・ナラク・ストリート抗争、ヴァルハラ橋事件、トロヤ紛争終焉に関与
・生還率100%/出撃記録消失率100%
裏社会評:
“彼が現れる場所では、歴史が途切れる。”
“彼が帰る場所では、何も残らない。”
室内が一瞬、凍りついた。
「……十億?」
カリナの声が震える。
「ちょっと待って、ランカー!?」
「あいつが世界ランキング入りしてるのか?」
カインが半ば冗談のように言うが、その顔は青ざめていた。
ルアンが画面を見つめ、低く呟く。
「――“空白”。国家が戦場データを封印した名だな。」
リリスは唇に笑みを浮かべる。
「ふふ……そういうこと。あの瞳、ただの子供じゃないと思ってた♡」
ネロは煙を吐きながら言った。
「トロヤ紛争……死者四千を超えた悪夢だろ。
まさか片付けたのがこいつとはな。」
一瞬、静寂。
ノアは表情を崩さず、ただモニターを見つめていた。
「……俺は、命令されたからやった。ただそれだけだ。」
その言葉に、誰も返さなかった。
彼の声には、誇りも後悔もない。
ただ、事実だけがあった。
ソフィアが立ち上がる。
その瞳は静かに光り、確信に満ちていた。
「……そう。だから言ったでしょ。ノアはただの傭兵じゃない。
――“世界が恐れる存在”よ。」
彼女はワイングラスを指先で回し、赤い液面に揺れる光を見つめる。
「今まで私たちは、どんなに強くても“大きな組織”には踏み込めなかった。
そこには必ず世界ランカーか、Autokratorがいたから。」
ルアンが頷く。
「秩序の守護者、あるいは絶対的戦力……。
我々はこれまで、戦争を“観察する側”だった。」
カインが笑う。
「でも、今は違う。“空白”がいる。
どんな組織だろうが、正面から殴りに行けるってことだろ?」
「ええ」
ソフィアは笑う。
「――私たちは、もう売るだけの商人じゃない。
戦争そのものを“作る側”に立てる。」
部屋に、短い沈黙。
窓の外では夕陽が拠点の壁を赤く染めていた。
ノアは窓越しの光を見つめ、
ゆっくりとポケットの中で弾丸をひとつ転がす。
その指先の感触は、砂丘で拾った石のように冷たく、
けれど確かだった。
乾いた風が通り、ブラインドがカタリと鳴った。
それが、世界が“空白”を本当に認識した最初の音だった。
――次回更新:明日17:30公開予定
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『ゼロバレット』続編、011話「白い取引と黒い影」――
をお楽しみに。




