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異世界転生したけどスキルも職業もなくて無職追放されたので草むしり係やってます  作者: Y.K
第7部

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聖女ミレイユ登場! 無職、信仰国家の聖女に絡まれる

宰相が姿を消した後も、広場にはまだざわめきが残っていた。

兵士たちは顔を見合わせ、民衆は「無職ばんざい」と叫ぶ者と「異端かも……」と不安げに呟く者に割れている。


そんな中――鐘の音が響いた。

清らかで透き通るような音色に、場の空気が一気に変わる。


白い衣をまとった少女が、ゆっくりと門から姿を現した。

淡い金髪が光を受けてきらめき、青い瞳は迷いなく真っ直ぐ前を見据えている。

その足取りに合わせ、民衆は次々と膝をついた。


「……あれは……」

セレーネが驚きに目を見開いた。

「クロニカの聖女――ミレイユ……!」


聖女は俺の前に立ち止まり、微笑みを浮かべる。

「あなたが……無職の英雄ユウマですね?」


「……いや、無職だけでいいんだけど」

思わず即答してしまう。


すると聖女はくすりと笑った。

「無職でありながら未来を救う……まるで神の奇跡のようです」


「奇跡っていうか、便所掃除と草むしりなんだけどな」

俺が肩をすくめると、周囲からくすくす笑い声が漏れた。


しかしミレイユの瞳は真剣そのものだった。

「どうか……このクロニカで、あなたの力を見せてください。

記録の秩序を乱すのか、それとも救うのか……私自身の目で確かめたいのです」


聖女ミレイユの言葉に、民衆はどよめいた。

「聖女様が無職を試すのか……?」

「でも英雄だって聞いたのに……」

期待と不安が入り混じった視線が、一斉に俺に注がれる。


「……試練って言ったな」

俺は鍬を肩に担ぎ直し、眉をひそめた。

「便所掃除競争とかじゃねぇだろうな」


「ふふ、それも面白そうですが……」

ミレイユは小さく笑い、両手を胸の前で組んだ。

「私が望むのは、“記録に残らぬ行い”を見せていただくことです」


「記録に残らねぇ……?」


聖女は広場の端を指さした。

そこでは、貧しい服を着た母子が倒れた荷車の前で困り果てていた。

中には食料が山ほど詰まっている。

兵士たちは見て見ぬふりをし、誰も助けようとしない。


「彼らは記録に名を残さぬ庶民。

だからこそ、誰も助けません。

もしあなたが本当に“記録を超える者”なら――記録に刻まれぬその行いを示してください」


ざわっ、と民衆が揺れた。

「記録に残らぬ行い……」「それは無駄では……」

兵士たちも怪訝そうにこちらを見ている。


俺は鼻で笑った。

「はん。そんなの、俺の仕事じゃねぇか」


セレーネが目を丸くし、リオンが苦笑する。

「やっぱり雑用魂だな」


俺は鍬を握りしめ、倒れた荷車へと歩き出した。


荷車のそばに近づくと、母親が必死に子供をかばいながら、必死に食料袋を抱えていた。

「だ、大丈夫ですか?」

「……すみません……でも兵士様に頼んでも、記録に残らぬ庶民は助けられぬと……」


その言葉に、俺は思わず眉をひそめた。

「記録に残らなきゃ助けねぇ? ふざけんな」


鍬を構え、荷車の下に差し込む。

「せーのっ!」

ギギギ、と木材がきしみ、荷車が持ち上がった。

母親と子供を抱え出すと、民衆から息を呑む声が広がった。


「すごい……! 無職なのに……」

「いや、無職だからこそ、か……?」


俺は荷車の中の袋をひょいと持ち上げ、整えてやった。

「ほら、これでまた食えるだろ。……落とさねぇように気をつけな」


母親は涙を流し、深々と頭を下げる。

「……ありがとう、ございます……!」


その瞬間、胸にじんわりと温もりが広がった。

これはどんな記録にも残らない。

けど確かに、誰かの中に刻まれる“ありがとう”だ。


俺は振り返り、聖女を見据えた。

「どうだよ。記録なんかにならなくても、人は助けられるし、感謝は残るんだ」


民衆がざわざわと揺れ始めた。

「……記録に残らぬ英雄……」

「ありがとうを残す無職……?」


聖女ミレイユの瞳が強く輝き、俺をまっすぐに見つめていた。


「……見事です、ユウマ殿」

聖女ミレイユが静かに口を開いた。

その声は澄み切っていて、広場にいる全員の耳に自然と届いた。


「記録に残らぬ行いで、確かに人を救い、感謝を刻んだ……。

まさにあなたの言う通り、“ありがとう”は未来を照らす力なのでしょう」


彼女は微笑みながらも、ふっとその笑みを消した。

「ですが……」


民衆が息をのむ。


「記録と記憶が常に同じ道を歩むとは限りません。

記録は冷徹に事実を刻み、記憶は人の心で揺らぐ。

あなたの力が記録を超えるのなら、いずれ――その矛盾が、大きな災厄を呼ぶでしょう」


空気が一瞬で重くなった。


「……また災厄かよ」

俺は頭をかき、苦笑する。

「便所掃除してりゃ、だいたい水路が詰まるんだよ。

なら、詰まったらまた掃除すりゃいいだけだろ」


リオンが吹き出し、セレーネも小さく微笑んだ。

民衆からも、張り詰めていた空気がほぐれるように笑い声が広がっていく。


聖女はそんな俺を見つめ、再び微笑んだ。

「……ええ。あなたはきっと、そうやって掃除を続けるのでしょうね。

その姿を、このクロニカで見届けさせていただきます」


そう宣言した瞬間、民衆から大きな拍手が巻き起こった。

「無職の英雄だ!」

「記録より強い、ありがとうの人だ!」


――こうして俺は、クロニカ王国に正式に迎え入れられることになった。

だが同時に、“記録と記憶の矛盾”という新たな不穏の種が蒔かれたのだった。

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