無職の帰還! 英雄と呼ばれても草むしり係
魔王領の試練を終え、俺たちは王都へ戻ってきた。
城門をくぐった瞬間、待っていたのは――無数の人々の歓声だった。
「ユウマさま万歳ーっ!!」
「魔王を倒した無職英雄だーっ!」
……いや、なんかおかしくね?
「おいおい、“無職”を大声で叫ぶなって! もっとこう、“救世主”とかあるだろ!」
だが民衆は止まらない。
「便所掃除の英雄!」
「草むしりの救世主!」
「ありがとう、無職さまーっ!」
「ちょっと盛り上がり方に悪意ねぇか!?」
俺が頭を抱える横で、兵士たちは苦笑しつつも敬礼していた。
王城の広場に案内されると、王と大臣たちが出迎えていた。
荘厳な声が響く。
「……無職のユウマよ。よくぞ均衡を守り、魔王を討ち果たした」
「ちょ、王様まで“無職”を強調するんすか!?」
俺は思わずツッコミを入れるが、周囲は拍手喝采だ。
やがて王は真剣な顔で続けた。
「だが、均衡はまだ揺らいでいる。諸国の王たちが集い、“世界会議”が開かれることになった」
世界会議――なんかすげぇ響きだ。
でも次の言葉で一気に空気が変わった。
「ユウマよ。お前にも出席してもらう。英雄として、無職として」
「……いや、最後の肩書きいらなくね!?」
「……俺が、世界会議に出席?」
思わず耳を疑った。
王は重々しく頷く。
「そうだ。魔王を退け、均衡を繋いだのは他でもないお前だ。
諸国の王たちが集う場で、均衡の“維持者”としてお前に意見を求めたいのだ」
「……いやいやいや。俺、無職っすよ? 職歴ゼロっすよ?
履歴書に“便所掃除、草むしり、あと鍬でちょっと魔王撃退”って書けるだけだぞ!?」
隣の兵士が口を挟んだ。
「ユウマさま、すでに“世界を救った無職”として名が広まっております。
各国の使者が“無職とは何か”と真剣に議論しているほどに……」
「議論すんなよ!? 無職って議題にすんなよ!?」
俺は頭を抱えた。
だが王は容赦なく続ける。
「すでに決定事項だ。会議は一月後、各国の王都の中央都市で開かれる。
ユウマ、お前は我が王国の代表として、堂々と“無職”を名乗るのだ」
「無職を国の代表にすんなって!!」
周囲の兵士や大臣たちは深刻な顔をしているのに、どう考えても茶番にしか聞こえない。
俺は鍬を肩に担ぎ、ため息をついた。
「……まぁ、断ってもどうせ押し付けられるんだろ」
「理解が早くて助かる」
「くそっ……! また雑用魂が悪い方向で役立っちまった!」
こうして俺は――まさかの“世界会議の代表”を任されることになったのだった。
会議の準備が進むにつれ、王都には次々と使者がやってきた。
豪奢な馬車から降り立つのは、異国の騎士や貴族たち。
その視線は、一様に俺へと向けられた。
「……あれが“無職の英雄”か」
「鍬を持っているぞ……あれが武器か?」
「本当に世界を救った者なのか?」
うわ、めちゃくちゃ品定めされてる。
しかも鍬を武器認定された。いや、まぁ武器でもあるけど!
さらに翌日、謁見の間に呼ばれると――異国の姫騎士が待っていた。
銀髪を揺らし、凛とした眼差しで俺を見据える。
「あなたが……無職英雄ユウマ殿ですね」
「えっと……そうですけど。肩書きの前半と後半の相性が最悪なんすよね」
彼女は真剣そのものだった。
「ぜひ我が国へ来てください。あなたの力を借りたいのです」
「いやいやいや! 勘弁してくれ! 俺は便所掃除と草むしりしかできねぇって!」
「その雑用魂こそ、今の我が国に必要なのです!」
「……マジかよ。雑用が外交カードになる世界とか嫌すぎる!」
兵士たちは顔を見合わせ、ひそひそと囁き合っている。
「姫騎士殿があそこまで真剣に頼むとは……」
「やはりユウマさまはただ者では……」
「いやいや、ただの無職だって!?」
俺の叫びは虚しく、広間に響き渡った。
「私はセレーネ=グラシア。隣国グラシア公国の王女であり、第一騎士隊の隊長です」
彼女は片膝をつき、俺に頭を下げた。
「どうか我が国を救ってください。
あなたの“無職の力”が必要なのです」
「……無職の力ってなんだよ!? 響きだけ聞いたら完全に呪いのアイテムだぞ!」
俺が全力でツッコむが、セレーネは真剣そのものだった。
王も大臣も顔を見合わせ、頷き合っている。
「……やはり無職ユウマを中心に据えるべきか」
「世界会議での発言力も増すでしょうな」
「ちょっと待て! なんで俺が外交の中心人物みたいな流れになってんだよ!?」
だが流れは止まらなかった。
各国の使者が次々に名乗りを上げる。
「我が国でも草むしりを……!」
「いや、便所掃除を頼むべきだ!」
「いやなんで草むしりと便所掃除が外交カード化してんだよ!?
もっと普通に剣とか魔法とか頼めよ!!」
広間は大混乱。
俺は頭を抱えながらため息をついた。
「……結局、どこ行っても無職は無職か……」
それでも――胸の奥の【忘却】は静かに脈動していた。
まるで、新しい仕事の予兆を告げるように。
こうして俺は、世界会議という舞台に――“無職代表”として放り込まれることになったのだった。