ギルド再挑戦したけど、また無職追放されました
翌朝。
俺は畑の藁小屋で目を覚ました。昨日は一日中草むしりをして泥だらけで倒れ込んだが、村人から「助かった」と感謝され、なんだか悪い気はしない。
だが――胸の奥に残っている。あの屈辱の二文字が。
【無職】。
そうだ、俺は異世界に転生したというのに、いきなり「無職追放」を食らった。
しかも、追放された先で草むしりをやってるとか……悲しすぎる。
「……よし!」
俺は寝床から跳ね起き、拳を握った。
昨日の草むしりでわかった。俺には仕事ができる。村を救う力がある。つまり、俺は本当は有能なんだ!
「今度こそギルドに認めさせてやる!」
勢いよく畑を飛び出し、再び街へ向かう。
石畳を駆け抜け、冒険者ギルドの扉を開いた。
中では昨日と同じように冒険者たちが群れ、酒を飲み、依頼をこなそうと準備している。
受付嬢は相変わらず眩しい笑顔を振りまいていた。
「昨日の……無職の方ですね?」
「いや、その呼び方やめて!? 今日は違う! 昨日はただ調子が悪かっただけなんだ! もう一度、もう一度鑑定してくれ!」
俺は必死に訴える。
周囲の冒険者たちは「また来たぞ」「あの無職、しつこいな」とクスクス笑っている。
受付嬢は困惑しつつも、水晶玉を差し出した。
「……わかりました。では、もう一度」
俺はドンと手を置き、胸を張った。
今度こそ、勇者とか、剣聖とか、かっこいい職業が出るはずだ!
水晶玉が再び光を放ち、ギルド内がしんと静まり返る。
冒険者たちの視線が集中し、誰もが息をのんで結果を待っていた。
受付嬢は数秒間、水晶玉を見つめ――やがて口を開いた。
「……職業:なし。スキル:【忘却】」
「…………」
俺は耳を疑った。
「……いやいやいや! ちょっと待て! 昨日と全く同じ結果じゃねえか!」
受付嬢は苦笑いを浮かべて首をすくめる。
「すみません。鑑定結果は絶対なので……」
「絶対!? そんなバカな! 俺、昨日よりは絶対強くなってるぞ! 草むしりしたし!」
ギルドの奥からまたしても大柄なギルドマスターが現れた。
「またお前か、無職!」
「いや、昨日よりは草むしり係だから! 無職じゃなくて雑草ハンターくらいにはなってるから!」
「うるさい! ここは冒険者ギルドだ。草むしり係に用はない! 追放だ!」
ガシッと両脇をつかまれ、俺は再び外へ引きずり出される。
「いやいやいや! 二日連続で追放とかある!? そもそも追放ってそんな気軽に連発する単語じゃないだろ!」
周囲の冒険者たちは大爆笑。
「無職二日連続ww」「新しい伝説が生まれたな」
……くそ、俺は異世界に来て、転生勇者どころか「無職追放芸人」になってしまったらしい。
ギルドの扉がバタンと閉まり、俺は再び石畳に転がった。
地面に寝そべったまま、天を見上げて呟く。
「……俺の異世界ライフ、草むしりから動かないんじゃないか?」
結局その日も俺は、村の畑に戻ってきていた。
ギルドから二日連続で追放された異世界転生者の末路――草むしり。
地面にしゃがみ込み、キュッ、ブチッと雑草を引き抜く音だけが辺りに響く。
「……これ、俺ほんとに転生主人公なんだよな?」
思わず手を止めて空を仰ぐ。
あの女神の「新しい人生を与えます!」というキラキラした声が虚しく頭をよぎった。
忘却スキル? 無職? ……どこが新しい人生だよ。
だが、村の子供たちは嬉しそうに駆け寄ってくる。
「お兄ちゃん! 昨日に続いて今日も畑がきれいだ!」
「草むしり勇者だ!」
「やめろ、その称号はダサいから!」
俺が慌てて否定すると、横から農夫のオッサンがドカドカと歩いてきた。
「助かるよ兄ちゃん。草を抜いたおかげで、この畑に棲みついてた“根喰いイモムシ”が退治できたんだ」
「え、ただの草じゃなかったの!?」
「いやぁ、あれは放っておくと魔力を吸って作物を枯らす厄介な魔虫でな。兄ちゃんのおかげで被害が広がらずに済んだ」
――まただ。
俺はただ草を抜いただけなのに、結果的に村を救っていた。
「……なぁ俺って、実はすごいんじゃ?」
胸を張りかけた瞬間、オッサンはあっさり言った。
「でも報酬は草むしりの分だからな。今日も一日分のパンだけだ」
「安ッ!!」
異世界の現実はやはり厳しい。
だがその晩、草むしりの最中に偶然拾った“妙な光を放つ雑草”が、俺の運命をまた少しだけ狂わせることになる――。
夜。
草むしりでくたびれた俺は、村の広場でパンをかじっていた。
そのとき、腰袋の中からぼんやりと光が漏れているのに気づいた。
「……ん? これ、昼間抜いた雑草か?」
取り出してみると、それは鮮やかな緑に光を帯びた一本の草だった。
普通の雑草のはずが、触れると温かく脈打つように震えている。
「なんか……RPGでよくある“クエストアイテム”っぽいんだけど」
農夫のオッサンがやって来て目を丸くした。
「おい兄ちゃん! そりゃ“聖草”じゃねえか! 千年に一度だけ芽吹くと言われる奇跡の草だ!」
「……え、そんなレアアイテム俺が?」
「村の守り神に奉納すれば、豊作と加護がもたらされるって言い伝えがあるんだ。兄ちゃん、やっぱりただ者じゃねえな!」
周囲の村人たちも集まってきて、口々に称賛を浴びせてくる。
「草むしり勇者様だ!」
「聖草を引き当てるとは!」
「いやいや、俺はただ草をむしってただけなんだけど!?」
結局その晩、村人たちは小さなお祭り騒ぎになり、俺はすっかり“村の英雄”扱いを受けた。
だが俺の胸中は複雑だった。
「……これでまたギルド行ったら、今度こそ認められるんじゃ?」
希望と不安を胸に、俺は夜空を見上げた。
――無職追放から始まった俺の異世界ライフ。
次は“聖草”が、俺をどこへ連れて行くのか。