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異世界転生したけどスキルも職業もなくて無職追放されたので草むしり係やってます  作者: Y.K
第2部

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決戦! 母根の核と“忘却”の真価

母根の幹に走った亀裂から、真っ黒な瘴気が噴き出していた。

その奥で、異様な光が脈動している。

「……あれが“核”か」


鍬を握り直し、俺は一歩踏み込む。

だが次の瞬間、母根の根が一斉に暴れ出し、地面ごと俺を飲み込もうとした。


「くっ……動けねぇ!」

全身を絡め取られ、締め付けられる。

肺が潰れそうな圧力に、視界が暗くなっていく。


その時だった。

――頭の中で声が響く。


『……忘れろ……』


「……え?」


胸元が熱くなり、ステータスに表示されていた“忘却”スキルが淡く光を放った。

【忘却:レベル不明 → 発動】


次の瞬間、俺を絡め取っていた黒い根がピタリと動きを止めた。

まるで、自分が俺を締め付けていたことを“忘れて”しまったかのように。


「お、おい……今の、まさか……」


母根が震え、さらに禍々しい唸りをあげる。

だが、俺の体を拘束していた根は次々に緩み、地面に崩れ落ちていく。


「……“忘却”って、そういう使い方があったのかよ……!?」


俺の中で、長らくネタにされてきた無能スキルが、初めて牙を剥いた瞬間だった。


「……行ける!」

俺は鍬を構え直し、母根の核へ突っ込んだ。


だがその瞬間、再び頭の奥で声が響いた。

『――忘れろ……すべて忘れろ……』


視界がぐらりと揺れ、俺の中の記憶が抜け落ちていく。

昨日、王都の子供たちが笑顔で草むすびを渡してくれたこと――

仲間と井戸掃除をしたこと――

勇者に勝った時の歓声――


「や、やべぇ……! 俺まで忘れそうになってる!?」


腰袋の聖草が強く光り、必死に俺の意識を引き戻した。

『無職よ、抗え! 忘れるな!』


「お、おう! 雑用は覚えてるぞ!! 便所掃除まで鮮明に思い出せる!!」

「……いやそこは忘れていいだろ俺ぇぇぇ!!!」


だが、“忘却”の力は確かに母根へ作用していた。

根の一部が自分の存在意義を忘れたかのように動きを止め、核を守る鎧が一枚剥がれる。


「……効いてる。けど、このままだと……!」


再び頭の中で、今度はもっと強い“忘却の波”が走った。

一瞬、俺は自分の名前すら忘れかける。


「俺は……だ、誰だ……?」


聖草の光が再び瞬き、子供たちの声が脳裏に響いた。

「ユウマさま!」

「雑用勇者!」


「……そうだ、俺はユウマ! 無職で雑用で、草むしり係だッ!!」


母根の瘴気がざわめく。

忘却スキルは呪いを食い破りながら、暴走寸前で俺の中に留まっていた。


「……チャンスだ。この力、制御できれば……!」


「……よし、落ち着け俺。忘却に振り回されるんじゃなくて、俺が振り回してやるんだ」


深呼吸をして意識を集中させる。

頭の奥でざわめく声が再び響いた。

『忘れろ……命を……誇りを……名を……』


「命も誇りも忘れねぇ! 忘れるのは――お前の呪いだけだ!!」


そう叫ぶと同時に、“忘却”の力を一点に叩きつけるイメージを描いた。

鍬を振り下ろすと、刃から光が走り、母根の幹に突き刺さる。


ズバァァァァン!!

呪いの瘴気が弾け飛び、根の一部が一瞬で灰に変わった。


「……効いた!」

確かに“忘却”が、呪いそのものを“なかったこと”にしていた。


母根が苦悶の声をあげる。

『グゥゥゥ……わが呪いを……忘却するなど……!』


俺は歯を食いしばり、さらに力を込める。

「まだだ……もっと深く、奥まで削る!」


鍬を突き立てたまま、“忘却”を送り込む。

黒い幹の奥で、禍々しい脈動が一つ、二つと消えていく。

呪いが剥がれ落ち、やがて――核の一部が露わになった。


淡く光を放つ、禍々しい球体。

それは瘴気の中心であり、母根を動かす心臓そのものだった。


「……見えたぞ。これが、てめぇの核か!」


母根は怒りに震え、無数の根を一斉に振り上げた。

『許さぬ……無職ごときがァァァ!!』


俺は鍬を握り直し、全身に力を込めた。

「――仕上げは俺の雑用魂でぶっ壊す!!!」


母根の無数の根が、嵐のように振り下ろされる。

「うおおおおおっ!!」

俺は鍬を振るい、迫る根を次々に叩き払った。

だが数が多すぎる。押し潰されるのは時間の問題だ。


その時――頭の中で再び声がした。

『……忘れろ……』


俺は歯を食いしばり、叫んだ。

「いいだろ! 一緒にやろうぜ、“忘却”!!」


鍬を両手で握り締める。

便所掃除で培った腕力、落ち葉拾いで磨いた集中力、草むしりで鍛えた根気――

全部ひとつに重ねていく。


「草むしり奥義――“忘却掃討ルート・リセット”ッ!!」


鍬が眩く光り、振り下ろされた瞬間、核から噴き出す呪いが一気に掻き消えた。

まるで存在そのものが“忘れ去られた”かのように、瘴気が霧散していく。


『グアアアアア――!? 我ガ名ハ……何……?』

母根の悲鳴が谷に響き渡る。

核の表面に深いヒビが走り、今にも砕け散ろうとしていた。


俺は肩で息をしながら、最後の力を込める。

「終わりだ……! 無職でも、雑用でも、俺は全部抜き切る!」


ズガァァァァァン!!!


核が爆ぜ、眩い光が谷全体を包み込む。

母根の根は崩れ落ち、大地は静寂を取り戻していった。


――だがその光の中、確かに聞こえた。

『……忘却の器……次ハ……お前ガ……』


「……今の、なんだ……?」

俺の胸に、不穏な言葉だけが深く突き刺さった。


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