草むしり隊、王都を壊滅させる(草的な意味で)
王様から「魔王領の草をむしれ」と任命された翌日。
俺は頭を抱えていた。
「……どうすんだよ俺。国家公務員草むしり官とか重すぎるんだけど」
玉座の間を出たばかりだというのに、すでに背後から子供たちの声が響いてきた。
「ユウマさまーっ! 草むしり隊、王都に参上ーっ!」
「……は?」
振り向けば、村から勝手に王都までついてきていた草むしり隊の子供たちが、元気いっぱいに広場を駆け回っていた。
「さあ、今日も草をむしろう!」
「目標! 王都の草をゼロにすること!」
「ちょっ……お前ら待て! 王都には芝生とか花壇とか“抜いちゃいけない草”もあるんだぞ!」
だが、子供たちのテンションは爆発していた。
「よーし! 雑草討伐開始ーっ!」
ズボッ! ブチブチッ!
次々に花壇のチューリップが抜かれ、庭園の観賞用ハーブが根こそぎ引っこ抜かれていく。
「いやそれ観賞用だからあああああ!!!」
通りすがりの王都民が悲鳴を上げた。
「わああ! 庭が丸裸に!」
「誰か止めろーっ!」
……こうして俺が止める前に、草むしり隊の暴走は始まってしまった。
「目標は街路樹だーっ!」
「次は噴水広場だーっ!」
子供たちは掛け声をあげながら、王都の中心へと雪崩れ込んでいった。
――ズボッ! バキッ!
噴水の周囲に植えられた美しいバラの花壇が、一瞬で根こそぎ消滅する。
石畳の隙間から覗く苔も、草むしり隊の手にかかれば一片も残らない。
「待てぇぇぇ!! それは王都景観事業の一部だぁぁぁ!!!」
俺が必死に叫ぶが、子供たちは聞いちゃいない。
ついに衛兵たちが駆けつけた。
「やめろ! 王都の財産を破壊するな!」
だが子供たちはキラキラした目で衛兵に言う。
「おじちゃんたちも一緒に草むしりしようよ!」
「え、あ、ああ……?」
次の瞬間、衛兵たちの手にはスコップと鍬が握られていた。
「いやなんで参加してんだよぉぉぉ!!!」
さらに事態を聞きつけた大臣が広場に駆け込んでくる。
「何事だ!? 王都の庭園が丸裸になっておるではないか!!」
そこへ子供の一人が得意げに叫んだ。
「ユウマさま直伝の“根絶やし一閃”を練習してるんだ!」
「勝手に俺の必殺技を伝授すんなぁぁぁ!!!」
大臣は額を押さえ、青ざめた顔で呟いた。
「……このままでは王都が更地になる……」
「次はどこ行くーっ!?」
「よーし、あっちの大きな庭に行こう!」
草むしり隊の子供たちが指差した先――それは王城の裏庭、王様ご自慢の王宮庭園だった。
四季折々の花々が咲き誇り、希少な薬草や果樹まで育てられている、まさに王国の宝。
「やめろぉぉぉぉ! そこは絶対に抜いちゃダメな草しかないぃぃぃ!!!」
俺は必死に走って止めに入ったが、子供たちの目は獲物を狙う鷹のように輝いていた。
「雑草かどうかは抜いてから判断だ!」
「勇者ユウマさま方式だーっ!」
「そんな方式教えてねぇぇぇ!!!」
――ズボッ! バリッ!
庭園の入口に植えられた高価な観賞用ハーブが、一瞬で根こそぎ消えた。
庭師たちの悲鳴が響く。
「わああ! 十年かけて育てた薬草がぁぁ!」
「この子たち、手際が良すぎる!」
そこへ慌てて駆けつけた大臣が顔を真っ赤にして叫んだ。
「ユウマ殿! 早く止めるのだ! このままでは王宮庭園が土だけになる!」
「止めたいよ!? でもあいつら、俺の言うこと聞かねぇんだよ!!」
子供たちはさらに奥へ突撃し、ついに王の専用エリア――金色に輝くバラ園の前に到達した。
「おお! なんか高級そうな草がいっぱいあるぞ!」
「全部抜けーっ!!」
「それ花ぁぁぁぁ!!!」
広間から王様の怒鳴り声が轟いた。
「何事じゃぁぁぁ!!!」
「何事じゃあああああ!!!」
雷鳴のような声とともに、王様が庭園に姿を現した。
顔は真っ赤、頭には血管が浮き上がっている。
「わ、王様!? こ、これはその……」
俺が弁解しようとした瞬間――。
「勇者ユウマ! そなたの率いる草むしり軍が、わしの庭園を壊滅させたではないか!!」
「いや違う違う! 率いてない! 勝手に来ただけぇぇぇ!!!」
だが子供たちは無邪気に笑いながら声を揃えた。
「ユウマさま直伝! 根絶やし一閃の成果です!」
「余計なこと言うなぁぁぁ!!!」
王様の髭がわなわなと震える。
「……王宮庭園は我が宝! そなたはそれを土に変えたのだ! どう責任を取るつもりか!」
「だから俺じゃないってぇぇぇ!!!」
兵士、大臣、庭師、そして町の人々までが一斉にユウマに視線を向ける。
「やっぱりユウマ様が指導したんだな」
「子供たちの草むしりスキル、完璧だったし」
「……完全に俺のせいにされてるぅぅぅ!!!」
その時、王様は重々しく言い放った。
「ユウマよ。そなたに与える新たな任務を決めたぞ」
「え、ちょ、今の流れで任務!?」
「魔王領へ行く前に――王宮庭園を元に戻せ!」
「無理ゲーきたぁぁぁぁ!!!」
こうして俺の異世界ライフは、国家レベルの除草から国家レベルのガーデニングへと強制シフトさせられるのだった。