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王様に呼ばれた無職、ついに玉座へ

「ユウマ殿、王城より正式な召喚状です!」


ギルド職員が胸を張って俺に差し出したのは、やたら豪華な封筒だった。

金色の封蝋、王国の紋章、そして大きく書かれた文言――


『草むしり勇者ユウマを王城へ召喚する』


「……いや、もうその肩書きが公式化してんの!?」


兵士たちに囲まれ、俺は王都の中心にそびえる王城へと連れて行かれた。

城門が開かれると、両脇には整列した兵士たち。

その全員が胸に手を当て、口を揃えて叫んだ。


「草むしり勇者ユウマ様、万歳!!」


「だから勇者じゃねぇって!!!」


必死に否定する俺をよそに、行進は続く。

煌びやかな廊下を抜け、やがて玉座の間にたどり着いた。


高い天井、赤い絨毯。奥の玉座には豪華な衣を纏った王様が座っていた。

髭をたくわえ、重厚な声を響かせる。


「……そなたが“草むしり勇者ユウマ”か」


「やめろ、その呼び方やめてくれ王様!!!」


だが王様はにやりと笑った。

「よい、近う寄れ」


――ついに無職の俺が、王様と対面する時が来た。


赤い絨毯を進み、玉座の前に跪かされた俺。

緊張で喉がカラカラになり、つい小声で呟く。

「……俺、ただの無職なんだけどなぁ」


だが王様は堂々と声を響かせた。

「ユウマよ! そなたの功績、確かに見届けた! 王都を覆いし魔草を討ち、民を救った勇気は、真の英雄にも勝る!」


「いや草むしりしただけなんですけど!?」


すると大臣が巻物を開き、声高らかに読み上げる。

「よって、王国は“草むしり勇者ユウマ”に、最大の褒美を与えることとする!」


おお……ついに来た!

異世界転生お約束の“褒美イベント”!

これは金貨の山か、はたまた伝説の武具か、それともお姫様との婚約か……!?


ごくりと唾を飲む俺の前で、王様が高らかに告げた。


「褒美は――王都周辺の雑草駆除の専属任命である!!!」


「……え?」


「今後一年間、そなたに雑草管理を一任する! 草むしりは国防の要! 王国にとって欠かせぬ大役だ!」


「やっぱり草むしりかよぉぉぉぉ!!!」


広間に響く俺の絶叫。

兵士も貴族も一斉に拍手し、口々に叫ぶ。

「勇者ユウマ万歳!」

「雑草駆除の英雄に栄光あれ!」


……俺の褒美、完全に“公務員草むしりライフ”なんだけど!?


「王国はユウマをただの草むしり人足として扱うつもりはない!」

王様の言葉に広間がざわめいた。


……おお? ついに逆転展開か?


「そなたには称号を授ける!」

王様が杖を掲げ、荘厳な声で響かせる。


「その名も――《大除草官》である!」


「いやダサッ!? 官職かよ!? しかも響きが役所臭い!!」


兵士や貴族たちは一斉に歓声を上げる。

「大除草官万歳!」

「これで王都の草も安泰だ!」


俺は両手で顔を覆った。……どうして俺、異世界で“雑草省トップ”になってんだよ。


だが王様は満足げにうなずき、さらに言葉を続けた。

「そして――褒美はもう一つある」


ごくり、と息を呑む俺。

まさかここで……お姫様との婚約とか!?


「王宮庭園の専属管理人としても任命する!」


「庭師かよぉぉぉぉぉ!!!」


広間は拍手喝采。

「さすがユウマ様!」

「庭園の草花もこれで安泰だ!」


俺の頭の中に浮かぶ未来図は――

王宮で延々と草を抜き続ける俺の姿だった。


「……転生してまで、結局は草に支配されるのか」

涙目でつぶやいた声は、誰にも届かなかった。


「王宮庭園の管理……それだけではない!」

王様の声が再び広間に響いた。


「そなたには――“魔王領の草原”の除草も任せたい!」


「はぁぁぁぁ!? 領域またぎの雑草担当ぉぉぉ!?」


大臣が得意げに地図を広げた。

そこには王国と魔王領の境界に広がる、途方もない草原が描かれている。

「ここは数百年来、雑草が繁茂しすぎて人も魔物も近づけぬ危険地帯……」


「いやそれただの荒れ地じゃん!? そんなもん俺ひとりで抜けるかぁぁぁ!」


だが兵士も貴族も口を揃えて言った。

「ユウマ殿ならできる!」

「草むしり勇者様なら必ずや!」


そして王様が満面の笑みで言い放つ。

「さぁ、ユウマよ! 魔王領へ赴き、草を根絶やしにして参れ!」


……王の命令は絶対。

広間が大歓声に包まれる中、俺は両手で顔を覆って崩れ落ちた。


「異世界転生……なんで俺、勇者じゃなくて出張除草業者なんだよぉ……!」


こうして“無職の草むしり勇者”は、国家を越えた除草任務に巻き込まれていくのだった。

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