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GRSI-01 サファイア・エクスプレス号の影  作者: やた


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27.新たな嵐の予兆

 サファイア・エクスプレス号での激闘から一夜が明けた。


 セントラル・オービタルにある銀河鉄道株式会社本社に隣接する、GRSI本部のチームYの執務室。壁一面に広がる巨大なホログラムモニターには、クレイン議員殺害事件を報じるニュース速報が映し出されていた。


『昨晩、サファイア・エクスプレス号の車内で発生した、和平推進派の重鎮、アルヴァンド・クレイン議員の殺害事件。捜査当局は、容疑者として貿易会社のビジネスマン、エドワード・ヴァンスを逮捕しました。彼は、裏社会で『影の職人』と呼ばれる暗殺者であり、その犯行は、惑星連邦議会の強硬覇権派、中でも『スターフォージ・アライアンス』が企てた陰謀であったことが明らかになりました』


 アナウンサーの声が、沈黙に包まれた執務室に響く。イヴァンは腕を組み、モニターを睨みつけていた。


「チッ、ふざけた野郎どもだぜ。人の復讐心を利用しやがって…」


「事件の全容が明らかになり、世論は強硬覇権派、特にスターフォージ・アライアンスへの批判で沸騰している。彼らのこれまでの権威主義的な言動も、この事件によって完全に裏付けられたと見なされた」


 ノアが、自身の端末でリアルタイムの世論調査結果を表示しながら言った。


「当然よ。自分たちの目的のためなら、暗殺という手段さえ厭わない。そんな勢力に、銀河の未来を託せるわけがないわ」


 エミリーが冷ややかに続けた。


 しかし、ニュースは強硬覇権派だけを標的にしてはいなかった。モニターの映像は、クレインが所属していた和平推進派の問題へと移り変わっていく。


『一方で、クレイン議員が主導していた和平政策についても、様々な問題が明るみに出ました。強引な移民政策の拡大による一部地域での治安悪化や、利権を巡る一部議員による利益独占など、和平推進派の理想主義の裏に隠された、暗部が次々と報じられています』


 ミリアムが、心配そうな表情でモニターを見つめた。


「クレインさんたちは、本当に平和を願っていたんだよね?どうして、そんな裏の部分があったの…?」


「エドワードが『影の職人』となった原因であるヴァロリアの悲劇も、再調査が進められている」


 ノアが、さらに情報を付け加えた。


「当時の軍事報告書が再評価され、クレイン議員が推し進めた政策の裏で、多くの人々が犠牲になっていたことが明らかになった」


 カケルは、ただ黙ってモニターを見つめていた。事件の真相を解明することはできたが、その結果が、銀河の政治にこれほど大きな波紋を呼ぶとは、彼も予想していなかった。


「つまり、強硬覇権派も、和平推進派も、どちらも正義を名乗りながら、その実態は利権と権力争いにまみれていた、ということか」


 イヴァンが、苛立ちを隠せない様子で言った。


「結局、どっちもどっちってことだろ」


「ああ、この事件によって、これまで銀河を二分してきた二大勢力の両方が、世論の信頼を失った」


 ノアが、淡々と分析する。


「惑星連邦議会に対する市民の目は、これまでにないほど厳しいものになっている。そして、先ほど速報が入った。この混乱を収拾するため、惑星連邦は、解散総選挙を行うことを決定した、と」


 カケルは、静かに椅子から立ち上がった。この事件は、一人の政治家の死に留まらず、銀河の未来を大きく変えることになる。


「俺たちは、この事件の真相を解明した。しかし、それによって生まれた混乱は、俺たちの想像をはるかに超えるものだったな」


「私たちは、正しいことをしたのよ。エドワードを捕まえ、真実を明らかにした。それが、結果的に政治の闇を暴くことに繋がったんだわ」


 エミリーは、カケルの不安を察したように言った。


 カケルは、モニターに映るエドワードの憔悴しきった顔を思い浮かべた。彼の復讐心が、結果的に強硬覇権派の陰謀と、和平推進派の偽善を暴くことになった。しかし、その代償として、彼は『影の職人』として、重い罪を背負うことになった。


「正義とは、一体何なんだろうね…」


 ミリアムが、消え入るような声で呟いた。


「俺たちは、与えられた任務を遂行するだけだ」


 カケルは、ミリアムの言葉に、力強く答えた。


「それが、どんな結果を招いたとしても、俺たちは俺たちの信じる道を突き進むしかない」


 その時、執務室のドアが開いた。入ってきたのは、GRSI局長のアラン・フォードだった。彼は、いつものように冷静な表情をしていたが、その瞳の奥には、チームYへの確かな信頼と、誇りが宿っているように見えた。


「よくやった、チームY」


 アラン局長は、静かに、しかし力強く言った。


「君たちの活躍は、銀河鉄道株式会社の安全保障本部、ひいてはGRSIの名を、宇宙全体に轟かせた。今回の功績は、我々の存在意義を証明するものとなった」


「ありがとうございます、局長」カケルが答えた。


「しかし、我々の戦いは、これで終わりではない。むしろ、これから本番だ」


 アラン局長は、モニターに映る、混乱した惑星連邦議会の映像を一瞥した。


「銀河の秩序が揺らいでいる今、銀河鉄道の治安を守るという君たちの使命は、これまで以上に重要なものとなる」


 アラン局長は、カケルたちに、データパッドを渡した。データパッドには、銀河鉄道の安全に関する様々な情報や、宇宙全体の治安についてのニュースが載っていた。


 カケルは、データパッドを受け取り、その内容を読み込んだ。ミリアム、イヴァン、エミリー、ノアも、それぞれに眺めている。


 直接的な脅威になり得そうなものは少なかったが、混迷する宇宙情勢から、銀河鉄道が無条件に平和である保障はどこにもなかった。


「いつ、次の事件が発生するかはわからない。まずは各自ゆっくり身体を休め、その時に備えるように」


 アラン局長は重く言った。


「了解!」


 チームYはその言葉の意味を噛みしめて、次なる任務へと備えた。


『正義とは何か、平和とは何か』


 クレイン議員殺害事件は、彼らに重い問いを投げかけた。しかし、彼らは、その答えを探し求めるために、立ち止まることはない。銀河の平和と正義を守るという彼らの信念は、この事件を経て、さらに強固なものとなっていた。


 銀河鉄道の列車は、今日もまた、星々の間を走り抜けていく。その列車が向かう先には、まだ見ぬ謎と、新たな冒険が待ち受けているのだ。

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