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第46話 交わされる絆 笑みと共に

 ほどなくして、月影騎士団の訓練場へと一同は案内された。

 淡い魔光に照らされた屋内式の空間は、床の材質も特殊な反響防止加工がされており、音の響きが柔らかい。


「ふぅん、静かで、品のある訓練場って感じだな」


 グライヴが腕を回しながら言う。

 その対面には、銀茶の髪をひとつに束ねたエリオット・ミレアが、すでに模擬用の細身の剣を手にして立っていた。


「……準備はいいですか?」


「上等。派手にやろうぜ、優雅な剣士さんよ」


 号令などなく、次の瞬間には火花が走っていた。


 エリオットの剣は、まるで舞踏のような動きで滑る。細剣が旋回し、風を裂いた。

 対するグライヴの双剣は、まるで本能だけで動いているかのように鋭い。

 二人の攻防は、あくまで「試すように」続いていた。


 観戦する騎士たちは息を呑む。だが、当の本人たちはどこか余裕すら漂わせている。


「なかなか、やるじゃないか」


「貴方こそ。……ちょっとした余興のつもりでしたが、思ったより面白い」


 交差する剣。だが、打ち合いの瞬間、互いの動きがふと止まる。


 ピタリと両者が構えを引いた。


「……おあいこってとこか」


「そうですね。これ以上は“模擬”の域を越えそうですから」


 両者は笑みを浮かべ、剣を納める。

 勝敗はつかなかった。だが、だからこそ、次の機会を約束するような――そんな余韻だけが残った。


---


 一方その頃。訓練場の別区画では、フェイとリィが数名の月影騎士団員と向き合っていた。


「……この方たちが?」


「うん、軽く動ける人たち。……怪我させないように」


 セリスの淡い一言で、模擬戦は静かに始まった。


 フェイの剣は、無駄がない。一本の線のような動きで、相手の剣を受け、払う。今は模擬剣を使用しているが、それを思わせない扱いなのがわかる。

 一見すると“攻めていない”ように見えるのに、なぜか相手は動きを止めざるを得なくなる。


 「っ、今の……!」


 月影騎士のひとりが驚愕する。

 フェイはただ微笑んで、静かに構え直す。


 そして、リィ――


 その動きは異質だった。


 大きな躯体が、獣のように地を滑る。

 一度前脚が地面を叩いたかと思えば、次の瞬間には別の騎士の懐に入り込んでいた。


「ぐっ……!」


 宙に浮いた剣が落ち、模擬戦はそこで終了した。


 「すご……あいつって、あんな動きするのか……」


 誰かがぽつりと呟く。


 リィは、ただ静かにその場に座り込んで、相手が立ち上がるのを待っていた。相手を気遣う優しさが、余裕の程を示していた。


---


――朧月と赤き細剣の交差


 「……一手、交えませんか?」


 訓練後、静かに立つセリスに向かって、エヴァがそう声をかけた。


 月影騎士団の団員たちがざわつく中、セリスはほんの少しだけ眉を上げた。


「……いいの?」


「はい。せっかくの機会ですし、私も“確かめたい”ですから」


 その言葉に、セリスは頷く。

 そしてふたりは、簡易な訓練場の中央に向かい合った。


 エヴァの細剣が抜かれると、光を反射して紅を帯びる。

 対してセリスは、白銀の細身の双剣――まるで月光を写したような剣を静かに構える。


 「始め」


 フェイの声で、模擬戦が始まった。


 初撃は、エヴァ。

 踏み込みと同時に、重心がぶれない。フェイの教えが、芯となって剣筋を支えていた。


 だが。


 「……っ!」


 セリスの動きは、まるで空気と一体だった。

 斬りかかる刃を、舞うような身のこなしでかわし、逆に踏み込む。


 交差する瞬間、ふたりの剣がわずかに火花を散らした。


 (この動き――ただの剣技じゃない)


 エヴァは思う。セリスの動きは剣士というより、舞手。

 だが、決して「軽い」のではない。


 ひと振り、ひと閃。全てが、“斬るための舞”だった。


 一方、セリスの視線にも、わずかに驚きが宿っていた。


 (芯が……整っている。前見た時より、ずっと)


 以前、どこかで彼女の訓練しているところ覗いたことがあった。

 その頃のエヴァと、今の彼女は明らかに違っていた。


 刹那。


 互いの剣がすれ違い、静かに距離を取る。


 「……ここまで、ですか」


 エヴァが息を整えながら言うと、セリスも静かに剣を収めた。


 「……十分、わかった。あなた、いい」


 その言葉に、エヴァは目を見開く。そして、そっと微笑んだ。


 「光栄です、団長」


 「名前で呼んで。……今日は、お茶の席で」


---


 戦いのあとの茶会は、第七団の応接室で開かれた。

 家具は月光を意識した淡い銀と藍の色調で統一され、どこか幻想的な雰囲気を纏っている。

 テーブルの上には、優雅な茶器と、ふわりと甘い香りを放つ焼き菓子が並んでいた。

 ただし、グライヴの姿はそこになかった。ゆるい雰囲気はごめんとばかりに、そそくさと姿を消したに違いない。


「改めて、今日はありがとうございました。セリス団長」


 エヴァが丁寧に頭を下げると、セリスはカップを手にしたまま、少しだけ眉を寄せた。


「……“団長”いらない。さっき……そう言った」


「え?」


「セリス、でいい。」


 一瞬、沈黙が流れる。


 エヴァは、目を見開いたあと、ゆっくりと笑った。


「……わかりました。セリス、ですね」


「うん」


 セリスは頷く。それだけでまた少し沈黙が戻るが、どこか心地よい静けさだった。


「……これ、美味しい」


 セリスがぽそりと呟く。

 カップを持つ手も、焼き菓子に伸ばす動作も、どこかたどたどしい。


「ふふっ。実は、私も最初ここで食べたとき、びっくりしたんです。お菓子にこんな深みがあるなんて」


 エヴァが笑うと、セリスは一瞬、きょとんとしたように彼女を見てから――


「……たまには、こういうのもいい」


「嗜好品は大事ですから」


「ん。次からは常備品に検討する」


 セリスは、手元のカップを見つめながら言った。

 その横では、フェイが黙って紅茶を口にしている。

 向かいの席には、微笑を浮かべたままのエリオットがいる。


 その目と、フェイの青く深まった目が、一瞬交錯した。


(隠し通せるなら、それでいい。……だが)


 フェイの心の奥に、誰にも届かない声がひとつ落ちた。


(君がその“血”を誇れる日が来るといい)


 何も言わず、何も表情を変えず――それでも、エリオットは一瞬、視線を少しだけ逸らした。


 まるで、心のどこかがわずかに震えたかのように。


 茶会の終盤、淡い陽光が、セリスの銀の髪をゆらりと照らしている。


「……団長?」


 エヴァが隣に立つと、セリスはふと目線を上げた。少しだけ口元に笑みを残して言った。


「……今日、誘ったのは、“確かめたかった”から」


「確かめる……ですか?」


「うん。……あなたたちが、ただ“戦える”人たちなのか、それとも、“信じられる”人たちなのか」


 静かな言葉だったが、エヴァの胸にはしっかり届いた。


「……そんな風に思っていただけて、光栄です」


「……まだ完全に、わかりきったわけじゃない。けど」


 そこで、セリスは少しだけエヴァに視線を向ける。


「“似てる”って、やっぱり思った」


「……私と?」


「うん。……多分、他の誰かじゃなくて、あなたならって」


 その言葉に、エヴァはゆっくりと頷いた。

 セリスの言葉は不器用だ。でも、誤魔化しのない温度がある。


「……また、来て」


「はい……お願いします。次は別のお菓子を持参しますね」


「……いい提案」


 それは、今日二度目の“笑み”だった。

挿絵(By みてみん)

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