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第28話 はじまりの午後とお茶

挿絵(By みてみん)

午後の陽が、帝都の空に穏やかに傾きはじめていた。

街の喧騒から少し離れた裏路地に、小さなカフェが佇んでいる。

木々に囲まれたテラス席では、風に揺れる白いカーテンと、陽光にきらめくティーカップが、静かな午後を彩っていた。


そこに座るのは、三人の女性。

そのうちの一人が、ひとつ笑みを浮かべて口を開いた。


「どう? ここのハーブティ。落ち着くでしょ?」


カップを指先で転がすようにして笑ったのは、第三騎士団副団長――レーナ・ファン・ルナ。

淡金の長髪が、風に乗って柔らかく揺れている。口調は軽く、どこか茶目っ気がある。


「……ええ。とても、香りが穏やかです。落ち着きます」


そう静かに返したのは、第十三騎士団の新団長、エヴァ・ムーンカルザ。

緊張を含みながらも、どこか誇らしげにティーカップを両手で包んでいた。


「ようやく本来の顔つきに戻ってきたわね」


「……恐縮です」


エヴァは小さく頭を下げる。その言葉に照れて、口元をほころばせた。


「あなたはもともと芯が通っていましたから。任されるのも、自然なことだったのだと思います」


そう言って、やや遅れて合流した三人目が席に腰を下ろす。

第三騎士団・団長、クレア・ヴェリティ。エルフ特有の長い耳と、整った顔立ち。

腰まである金の髪を編み込んだ今日の装いは、普段よりややラフだが、それでも品の良さがにじみ出ていた。


「クレア団長……お忙しい中、ありがとうございます」


「こちらこそ。今日は私のほうが呼びたかったの。第十三団のこと、少し話したかったから」


クレアがカップを手にしながら視線を和らげると、エヴァの背筋がまたわずかに正される。


「え、ちょっと待って、またお茶会で仕事の話する気?」


レーナが苦笑しながら、皿に手を伸ばし、白い粉糖のかかったフィンガービスケットを一つ摘んだ。


「……これ、騎士団の“甘味番長”が激推ししてたやつよ。見た目に反して、めっちゃ美味しいの」


「甘味番長って、誰ですか……?」


「第七団のアストラよ。あの子、任務の合間に新作スイーツ探してるから」


「……業務に支障は?」


「ないない。むしろ気力が充填されるって、主張してるわ」


そんなやり取りに、クレアがふっと笑みを浮かべる。


「アストラらしいわね。……でも、確かに、美味しい」


クレアも一つ口に含み、紅茶で味を整えると、ちらりとエヴァに目を向けた。


「それにしても、あなたの表情、以前より柔らかくなったわ」


「……自分では、あまり意識していませんが……そうでしょうか?」


「ええ。騎士の顔ではなく、“一人の人”としての顔も見えるようになった気がします」


その言葉に、エヴァは一瞬だけ視線を落とし、頬をかすかに染めた。


(……声が素敵なのよね)


クレアの言葉には、どこか冷静な観察眼と、優しい配慮が共存している。

だからこそ、緊張しつつも、心のどこかで“見ていてほしい”と願ってしまうのかもしれなかった。


「そういえば」


ふと、エヴァが口を開いた。


「レーナさんは、フェイについて……何か、思うところはありますか?」


その名に、テーブルの空気が一瞬止まったような気がした。


レーナはお菓子をくるくると回しながら、にやりと笑う。


「なに? いまさら気になるの?」


「気になるといいますか、あの強さも、判断力も、どこか……私たちとは異なる気がして」


「異なるのは事実でしょ。あれ、戦いの場にいても一切ぶれないじゃない。

私も見せてもらったけど……たぶん、もう何段階か上にいる感じ」


「……それは、私も感じています」


エヴァが言葉を選びながら呟くと、今度はクレアが静かにティーカップを置いた。


「彼については……そうね、私も“ある程度は知っている”かしら」


「……!」


エヴァの目が、かすかに揺れた。

けれどクレアは、それ以上は語らなかった。ただ、言葉に穏やかな間を持たせたまま、視線だけで続きを封じた。


「でも、大事なのは、あなたが彼とこれからどう向き合うか。

知っているかどうかなんて、きっと些細なことよ」


その一言に、エヴァはしっかりと頷いた。


(……私は、私の責務を果たすだけ)


クレアはふっと笑い、手元の小箱を開いた。

中から取り出したのは、小さなブローチの見本のようなもの。


「ところで、第十三団って、まだ象徴になるような“印”がないでしょう?」


「……そうですね。全く、考えてもいませんでした」


「肩章でも、胸元の飾りでもいい。小さなものでいいから……“第十三”だと誇れるもの、考えてみない?」


「……団としての、絆ということですね」


「ええ。形式じゃなく、想いとして」


「いいじゃない、それ。ぜひやってみたらいいと思うわ」


レーナがそう言いながら茶をすすった。


「ぜひ考えてみます」


三人の間に、ひときわ柔らかな風が吹き抜けた。

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