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八話

 アロンはクレーを連れ立って、王都の外れにある訓練場に赴いた。ここはその名の通り、騎士や冒険者などが誰でも訓練に使える場所で、冒険者の試験に使われたり、技を磨いたり、仲間内の賭けに使ったりなどに用いられている。


 アロンは使用料金を支払い、クレーを攻撃魔法の的の前に


「早速テストだ。期待されていた魔術師という触れ込みだが、お前が嘘をついてないか確かめさせてもらう。あの的を撃て。威力を数値化して出してくれる」


「……」


「どうした? 撃て」


「は、はい……」


 クレーは観念したかのように、魔法の杖を的に向かって突き出す。彼女が目を閉じ、術式を唱えると、杖の先端に青白い強烈な光が生まれる。見るからに強力そうな光に、アロンはごくりと唾を呑んだ。そして、それが放たれ、的に――命中しなかった。

 的から逸れた後ろ壁を焼いたのだ。


「は?」


「も、もう一度やらせてください!」


 クレーは再度魔法を放つが、今度はさらに外れた。次はもっと、その次は――。


「もういい」


 アロンはため息と共に試験の打ち切りを宣言した。


 ◇


 二人は喫茶店に場所を移した。

 クレーはアロンと目を合わせることが出来ず、目を机へと伏せていた。が、アロンはそんな様子にも拘らず、事前に入手していたクレーの個人情報をペラペラと読み上げる。


「……郊外のサイノハテ村という田舎で生まれたクレーという少女は類まれな魔術の才能を持っていた。彼女は村民たちの期待を一身に受け、王都クロムウェルへ上京。さっそくA級パーティのスカウトを受けたらしい、きっと数年後には伝説級のS級冒険者となり、サイノハテ村の栄光の象徴となるだろう。


 これがボスの集めたお前さんについての新聞だ。で、次が俺が使い走りに冒険者ギルドで聞いて来させた話だ」


 クレーは肩をびくりと震わせる。


「期待外れ、それがお前の評価だ。入れてもらったA旧パーティの初の依頼で大ポカをやらかし、二度目の依頼の時にはさっきみたいにまるで攻撃が当たらなくなっていた。それでお前は追放された。大方、村の期待を背負っていたから、帰るに帰れず、金も尽きて、闇ギルドの依頼にたどり着いたんだろう」


 どうやら図星だったらしく、クレーはとうとうすすり泣いてしまった。アロンはため息をついた。まだ、人身売買の調査の一歩も踏んでいないのに、早速、躓いてしまったのだ。

 しかし、クレーにも言いたいことがあったのか、彼女は涙声で反論した。


「私だって……最初からA級パーティに入る気なんてなかった……!」


 彼女はC級といった低級パーティから堅実にキャリヤをスタートさせようとした。しかし、彼女の故郷の村人たちが張り切ってしまい、王都の冒険者ギルドに直談判し、無理やり、A級に入れ込んだのだ。そして、彼女がA級パーティで通用せず、恥を晒していると知ると、大激高した。


「ふっ、俺たちの期待を裏切りやがって、か。余計なお世話だろそんなの」


 アロンは一笑に付したが、クレーにとってそれは絶望だったらしい。

 しかし、アロンには関係のない話だった。彼は席を立つと、彼女を見下ろした。


「おい、付いてこい」


 ◇


 アロンはクレーを、ファッション通りに連れ出した。

 クロムウェルのファッション街は、流行りもの好きの若者たちの憩いの場だ。ショッピング・ウィンドウには、マネキンがおしゃれに着飾っている。クレーは此処に連れ出されたことに困惑しつつも、表情の隅に何処かわくわくとした雰囲気が出ている。

 が、何かに気づいたのか、彼女は顔を暗くした。


「分かりました。王都から追い出す前に、私に華やかな舞台を見せつけたんですね……。

 お前には縁のない世界だったんだぞって」


「闇ギルド員じゃなくて、陰湿ギルド員か俺は」


 クレーのネガティブな考えに、アロンは呆れながら、懐から紙幣を取り出した。


「え?」


「うちの仕事をやるんだったら、まずその野暮ったい髪の毛をどうにかしろ。それから、その薄汚い……とまではいかないが、そのローブと洋服も新調して来い。俺たちの世界では、格好が大事なんだ。

 早く、行け」


 アロンに急かされたクレーは慌てて、目に入った美容院に駆け込んだ。アロンはため息をつき、ショッピング街の壁に身を委ね、考えを巡らせる。


(あの女、クレーの魔法は制御はクソだったが、魔力自体は強力そうに見えた。どうせ雇い金は大した額じゃない、もう少しチャンスを与えてもいいだろう。それまでは雑用としてこき使ってやろう)



 アロンが脳内作戦会議を繰り広げること、2時間。


「お、お待たせしました」


 アロンの元に少女がやってきた。

 肩口で揃えられたショートボブは艶やかに揺れて、前髪はすっきりと斜めに流され、片目が覗いていた。

 その瞳は、透き通るように淡い青灰色をしていた。

 漆黒と群青を基調としたローブは、魔術学園に通う優等生を思わせた。


「ど、どうでしょうか?」


「誰だ、お前は?」


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