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六話

「どうするの、ゲイブ!?」


「どうするって……死にぞこないはぶち殺すだけだろうが!

 うぉぉぉぉぉぉぉ!」


 ゲイブは自慢の武器である大斧を振りかざした。

 屈強な魔物を一刀両断する鋭利な刃、だが、それがアロンに振りかざされる前に天井に引っ掛かった。


「クソ、なんだこの!?」


 急いで引っこ抜こうとするが、アロンが間合いに迫っていた。

 アロンは躊躇なく、小刀をゲイブの出張った脇腹に突き刺した。


「ぐぶぉ!? 」


「ち、贅肉が太いな」


 どうやら、小刀は致命傷には至らなかったようだ。

 ゲイブは引き抜いた斧を、横払いに振り回そうとするが、今度は廃墟の柱に引っ掛かる。

 これがアロンが廃墟というフィールドを選んだ理由だ。


「何をぼーっとしてやがる、早く回復を!」


「わかったから!」


 バーバラの回復魔法を受け、ゲイブの脇腹の血が止まる。

 アロンはその様子を見て、舌打ちする。

 長期戦になれば、こちらが不利だ。


 堅物よりも、後ろから狙った方が得策か。


 ゲイブが再びアロンに振りかざした斧をものともせず、アロンは走る。

 遅い――カジマの攻撃と比べれば、鈍すぎる。

 頭上に振ってきた斧を、アロンはひらりと避ける。


 そのまま、ゲイブの横を通り過ぎると、バーバラの眼前に立った。


「来ないでぇ!」


「あの時、アンタが目を治療していてくれていればな」


 そして、腹に刃を突き立てた。


「がはっ、ああ……きゃああああああああああああああああ!?」


「バーバラ!? この野郎!」


 ゲイブが振りかざした斧を、アロンは両手の小刀をクロスさせて、その中心で受け止める。

 腐ってもB級冒険者だ、斧の圧力は凄まじい。

 アロンは衝撃を分散させるように、刃を鍔迫り合いながら、社交ダンスのようにくるくる回る。


「どうなってる、どうしてこんな奴とまともに戦わなきゃならなくなってるんだ!?

 ゴブリンに負けた雑魚なんかに、俺が……!」


「人を置き去りにしておいて良く言う。

 それに、俺は言っていただろう?

 前衛なら俺は活躍できるって、人のいうことには耳を傾けるべきだったな!」


「うるせぇ! うおおおおお!」


 ゲイブが怒りに任せ、闇雲に力を入れた瞬間、アロンは逆に力を抜き、蝶のようにひらりと身を翻し、後ろに飛び退いた。


「あ?」


「いやあああああああああ! 私の為に死んでええええええええええ!」


 次の瞬間、錯乱したバーバラが残った魔力を使ってありったけの攻撃魔法を繰り出した。

 自分が助かるのならば、ゲイブ諸共アロンを葬ろうとした攻撃だった。

 しかし、射線上にアロンは既にいなく、そこにはゲイブの背中だけがあった。


「ぐぎゃあああああああああ!?」


 特大の攻撃魔法を食らったゲイブは黒焦げとなり、バーバラも血と魔力を無くし、その場に倒れた。


「こ、こんなの嘘よ……誰か」


「ありえねぇ、何かの間違いだ……」


 二人が事切れる寸前、そんなことを呟いてき、アロンは思わず立ち止まる。

 本来ならば、すぐさま現場から離れるべきだったが、こう言わざるを得なかった。


「ああ。間違いに気が付いたか?」


 二人の命を奪っておいて、アロンの目には狂気じみた喜びの光があった。


 ◇


 後日、ギルドの中はにわかに騒がしかった。


「鷹の爪の二人が殺されたってマジなのか?」


「魔物に襲われたとかじゃなく、殺しだったらしい」


「あいつら金関係でトラブルがあったって話だけど」


「ジェフも最近見なくなったわね」


 冒険者にはいざこざが絶えず、そういう騒ぎも華の一つだった。

 しかし、殺しはさすがに滅多にない。

 そして、こういう時、どうしても容疑者探しが始まってしまうものだ。


「ねぇ、ゴブリンに負けた片目の負け犬。

 あいつがやったんじゃない?」


「確か、前日、右目に眼帯をつけた怪しい男が来たって話だったな」


「無理無理、どうやって、B級二人を相手にするんだよ!」


 冒険者たちが大笑いした時、彼らの集うテーブルを柔らかな手が叩いた。


「アロン君はそんなことをしません!」


 声を上げたのはギルド嬢、リサだった。


「なんだよ、随分、あいつの肩を持つじゃないか?」


「い、いいえ……。

 あてずっぽうな詮索で、ギルドを不要な混乱に陥れないでくださいと言っているのです」


「でもよぉ」



「おい、皆こっちに来てくれ!」



 その時、一人の冒険者が騒ぎ出した。

 皆が彼のところに集まると、そこにはテーブルの上に古びた剣があった。


「おい、これって」


「この星の刻印……これアロン君の、剣だわ」


「い、一体どういうことなんだよ、これは!?」


 リサが絶望の声を漏らし、誰かが叫ぶと、ギルドの中は騒然とし始めた。

 騒ぎを聞き、駆け付けたギルドマスターは皆を集めると、こう宣言した。


「どういう手段を使ったか知らぬが、疑わしきは罰せよ、だ! 

 当ギルドから、鷹の爪所属だったアロンを永久追放とする!

 懸賞金もかける!

 なお、この情報は他ギルドにも通達する!」


 ギルドマスターの力強い宣言に、人々が歓声と拳を突き上げる。

 それを外から、アロンが密かに見つめていた。

 俯いているリサに、目礼をした後、静かに呟いた。


「さようなら」


 冒険者ギルドではなく、ありとあらゆる組合に指名手配として情報が乗ったアロンは表舞台からドロップアウトした。


 ◇


 三日後、アロンは郊外の倉庫街に訪れていた。

 労働者たちがあせくせ働き、誰もアロンのことなんて気に留めない。

 アロンはそこの近くの、古びたベンチに座り、人を待った。


 しばらくすると、音もなく、背中側のベンチに紳士が座った。


「誰かと思ったぜ。

 男を上げたな」


 男、カジマはニヤリと笑うと、自然な動作でアロンにボストンバッグを手渡した。

 アロンがファスナーを開けると、そこには見たことのない大金が詰まっていた。


「ま、それだけあれば、別の国で新しい人生を始められるだろう。

 じゃあな」


「待ってください」


 立ち上がろうとしたカジマに、アロンは声をかけた。


「俺は取り立ての追っ手二人を返り討ちにして、ギルドを騙して、B級冒険者二人をやった。

 頭を使って、裏から連中を翻弄してやった。


 ――俺は役に立ちますよ」


「自分を売り込む気か?

 覚悟あるんだろうな? 」


 アロンは答える代わりに笑みを浮かべた。

 まるで、就職面接の時の面接官に好印象を与える笑みのように、けれども、その目は次なるチャンスを望んで、血走っていた。


「とんだ狂犬に骨を与えちまったみたいだ。


 表側にさよならはすませたか?」


「ええ」


「ようこそ、裏側(ブラック・オプス)へ」











一章完です。

本格的に続くのは、別の自作品が完結後となるのでご了承下さい。

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