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十二話

 翌日、場所、王都、西部第三地区。

 王都の外れ、一見、街並みは整備され、石畳が敷き詰められた整然とした街並みに見えるが、小路地の奥は暗闇で見えない。


「成程、夢を捨てきれない冒険者の餓鬼が行きつきそうな場所だな」

「……そうですね」


 クレーはどうにも落ち着きがない。

 恐らく、彼女の魔力感知がこの町に潜む魔力を察知しているのだろう。

 魔力は攻撃の時はもちろん、身構えている時にも、自然と高鳴るものだ。要するにこの町には常時、得物を狙っている者たちがいる。


「実は昨日情報屋に調べさせた。どうにも、怪しいリクルーターがいるらしい。

 落ちこぼれの冒険者に声を掛け、君の才能は見過ごされている、才能を評価してくれる人のところに連れていこうってな」

「人の心に漬け込む、悪党ですね」

「まぁ、俺たちも悪党なんだがな、ほれ」


 アロンはクレーに情報屋が寄越した資料を突き出す。クレーはそれを眺めた後、絶句する。


「こ、この人は故郷の」

「そう。お前の故郷のクソ田舎の英雄。A級冒険者ジャン」

「信じられません! 故郷にも何度か、顔を出してくれて……私はこの人に憧れて、この人の様な冒険者になれって皆に」

「だろうな。A級って言ったら地元じゃあ英雄だ。

 でもな、王都で見ればA級なんて山ほどいる。確かに名声はあるかもしれないが、一生食っていける程稼げる保証はない。副業さ」


 顔を青ざめさせ、呆然自失とするクレーがそのままとぼとぼと歩こうとし、アロンは首根っこを掴み、路地に連れ込む。


「えっ、えっ?」

「馬鹿、前を見て歩け。 むこうの広場を見ろ、詐欺師ジャンだ」


 クレーが物陰から覗き込み、はっと声を上げる。

 人当たりのよさそうなハンサムな男が、広場の噴水のところで風に吹かれている。

 一見すると、物思いにふけるクールな男に見えるが、よく見ると、その目は彷徨っている。


「ターゲットを物色中って奴か。今日は不漁のようだな。よし、お前、行ってきてやれ」

「え」

「潜入捜査って奴だ。俺も尾行して、近くに居といてやる。ヤバくなったら、その魔力を暴発させろ。制御できなくても、それくらいはできるだろ……さぁ行け!」


 アロンは、路地からクレーを弾き飛ばした。

 彼女はそのままつんのめりそうになりながらも、何とかこらえて、落ち着きなく歩き始めた。

 明らかに挙動不審だが、その様子は見るからに、当てもなく彷徨う冒険者のようだった。


 そして、案の定、クレーに気づいたジャンが彼女に声を掛ける。


「さ、どう転ぶかな」


 路地の暗闇の中、アロンは愉快そうな笑み浮かべていた。


 ◇


 3時間後、クレーが連れていかれた建物の横の寂れた酒場でアロンは暇をつぶしていた。


「帰って来たか」


 クレーはアロンの姿を見つけ出し、おずおずと目の前の席に座った。


「どうよ、同郷の憧れの先輩とあった気分は?」

「それが……記憶の通りのジャンさんでした」


 クレーは言いづらそう切り出した。

 彼女曰く。

 ジャンはクレーのことを覚えていて、親身になって話を聞いてくれた。

 冒険者で上手くなかったことを伝えると、深く悲しみ、同情してくれた。

 そして、思い切ったことに、クレーはジャンに行方不明者のことを尋ねた。すると、彼はこう言った。


「正直、この町ではそういう輩もいる。僕のことが信用できなくても仕方ないとジャンさんは言いました。 だから、急いでこの町から出ていって、冒険者としてやり直すんだとも」

「ふぅん」

「あの、ジャンさんは本当に悪者なんでしょうか? 私にはわかりません……」


 クレーがうるうるとした瞳で見てきて、アロンは内心ため息をつく。こいつは本当に馬鹿だと。

 此処に居てはいけない、冒険者としてもう一度やり直せ、そうジャンは言ったそうだ。

 じゃあ、何故、そういうお前はこの町にいるのだ。

 仮に、クレーが言われた通りにしようとする。絶対に上手く行かない、

 この王都は一度失敗した者に厳しく、セカンドチャンスを与えない。それはアロン自身が身を以って体験したことだ。

 そして、宛てを失ったクレーは以前優しく接してくれたジャンに縋る。



 これこそが、ジャンの狙いだ。


 だが、クレーが騙されるというのはアロンにとって想定内だった。

 純粋無垢の彼女に演技ができるとは到底思えない。

 逆に、その純粋無垢のお陰でジャンの手の内を知ることができた。


(さて、お次は)


 アロンは、揺れるクレーの瞳を見据えた。




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