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グラントゥギア 転生聖女放浪編  作者: ジャックス・R・ドンブリ
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第 94 話 

 テラー、旅館深愛、庭。

 旅館の美しく手入れされた庭でわたしは書物を広げて研究に勤しんでいる。

「ミューゼ、お茶っ、あ、いないんだった。」

 図書館のあの日以来、わたしたちはいろいろ準備をし始めた。

 元々予定していた資料探しなどは一緒に行ってたりしたが、今日は普通の旅の必需品の買い出しなので、ミューゼが外出して、わたしは旅館に残って研究を続けることになった。

 正直、ミューゼ一人を外出させるのはめちゃくちゃ心配だ、噂の生娘を狙った犯罪者も未だつかまっていないし、この間の大衆食堂での騒ぎもこの町はそんな平和な町ではないことを示している。

 しかし、ミューゼはなかなか頑固で譲らず、結局護身用の魔道具の携帯と何かあったらすぐ連絡するという条件で外出させた。

「はあ、無理矢理でもついて行ったほうがよかったのかな。」

 そうつぶやきつつ、机の上に散らかった資料をすこし片付け、自分でお茶を取ってこようと立とうとした。

「お客さま、お茶です。」

 だが、この時後ろから突然声がした。

 振り返るといつの間にか後ろに旅館のオーナーのローレンが立っていた。

「これは、オーナー直々の接客とは珍しいですわね。」

 すごく平静を装って対応しているけど、正直かなり驚いた。

 まったく警戒してなかったとはいえ、喋る直前まで気付かれずにこんな近くまで接近できるとは、ますますこのオーナーはただ者ではないと感じさせられた。

「そうでもございませんよ、確かに最近はいろいろ忙しくてできていませんが、すこし前まではわりと接客もしています。」

「そうですか。」

 机に置かれたお茶を手に取り、できるだけ自然に対応するように努める。

「ええ、わたくしこうして直接お客さまと向き合うのが好きですので。」

「なるほど。」

 こっちはいきなり後ろから出て来られてたまったもんじゃないけどな。

 内心ツッコミを入れつつ、お茶をすすって心を落ち着かせる。

「すみません、お客さま、勝手に拝見して大変申し訳ございませんが、先ほどちらっとだけ見えまして、もしかして精神に関する研究をなさっていますか?」

 ちらっと見ただけ何の研究か分かるってどんだけだよ。

「ああ、別に見ても構いませんわよ、すこし弱った魂を別の肉体に移して延命を図るという研究をしてまして、もしなにか知見をもらえばありがたいですわ。」

「では、失礼いたしまして。」

 テーブルに置かれたわたしの研究ノートを手に取り、ローレンは読み始めた。

「これは、なるほど、拝見した限り、今お悩みになっている問題は魂と新しい肉体の適応問題といったところでしょうか?」

「ええ。」

「残念ながら、わたくしがこの問題についてあんまり研究したことなかったため、これと言った見解はありません。」

「そうですか・・・」

 まあ、フロリナの時と違って、ざっくりとした考えではなく、具体的な問題解決となると、さすがに深く研究したことないなら答えようがないからな。

「しかし、延命というのは古くから研究されてきた課題ですので、わたくしも学院にいたごろではたくさん目にした記憶がございます。」

「それでは。。。」

「期待をさせたところ申し訳ございませんが、その研究者たちに大した成果もあげられずに亡くなられた方がほとんどですので、正直お客様の研究をみて驚いたところです、わたくしの愚考でも魂と肉体の剥離や魂の体外維持などの課題がたくさん考えられます、それらの課題が一体いかにして解決なさったんでしょうか?」

「いえ、それは。。。」

 そこらへんは研究してないというか、延命したい魂の持ち主が解決してくれたというか。

「あっ、大変失礼いたしました、大事な研究成果を無闇に聞くなんて、大変申し訳ございません。」

 わたしの沈黙を拒絶として捉えたのか、ローレンはすぐ謝罪した。

「いやっ。」

 この世界で魔術師の研究を根掘り葉掘り聞くのは確かにタブーだが、大した研究してなかったし、もともと自分から聞いたのでむしろ聞いといて隠し事して申し訳ないぐらいだ。

「大変興味深い研究でしたので、つい調子に乗ってしまいまして誠に申し訳ございません。」

「いえ、それは別に」

「お詫びに、うーん、少々お待ちください。」

「ちょっ。」

 わたしの制止もむなしく、ローレンの姿はめっちゃ早いスピードで庭から消えた。

「ま、いいか。」

 むかしからこういう人間関係の応酬が苦手というかだるいたちなので、さっそく説明するのあきらめた。

 お茶に戻ること数分、ローレンがまた戻ってきた。

「お客さま、お詫びとしては何ですが、こちらを。」

 そういって、ローレンは一つの封筒を渡してきた。

「これは一体?」

 まさか金一封とかじゃないよなとワクワクしつつ受け取る。

「精霊王国王立魔術学院の紹介状でございます、先ほど学院でお客さまがなさっている研究の資料をたくさん目にしたと言及したのを覚えてらっしゃいますか?もしかしたらお役に立てるかと思い、紹介状を書かせていただいた次第です。」

 正直本当に金一封とかだったら別に金に困ってないから断ったが、これはさすがに渡りに船が過ぎるので断れない。

「これはありがたい、感謝しますわ」

「いえいえ、お役に立てれば幸いです、ではわたくしはこれで。」

 ローレンを見送り、わたしは紹介状をしまって研究を続けた。


 夜。

「準備はできたか?」

「はい!」

「ユナに代わってもらわなくていいのか?」

「着いてからにしようと思ってます。」

「なるほど、じゃ行こうか。」

 帰って来れなかった時のために一通の書置きを部屋のテーブルに置き、わたしとミューゼは部屋を出た。

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