第 93 話
テラー魔術学院。
フロリナが上機嫌で鼻歌を歌いながら道を歩いている。
「こっちかな~」
彼女がこのように上機嫌なのは当然例の人絡みである、実は図書館でエレスと会ったあの日、彼女は彼から新しい護衛依頼の連絡が来ていた、それで行くかどうかで悩んでいるところエレスに出会い、相談して今意を決して依頼を受けることにしたわけだ。
まあ、正直なところ、たとえエレスとの会話がなかったとしても同じ結果にはなっていたでしょう。
そもそもフロリナが図書館を通い始めたのも彼に出あったあとのことだ。
魔術学院にいたごろから感覚派で、自分のやり方の説明を求められた時、理論派はもとより、一般の人も意味不明だと言われるのが常だった、当然あの時も図書館など一回も行ったことないし、学院を出たあとはなおさらだ。
恋のために、行ったこともない図書館を通って、ずっとやってたナンパを辞めて、言葉遣いさえ気をつけるようになって、そんな人が簡単に意中の人から離れられるわけがない。
「ふーん、ふーん、ここかな。」
周りの目も気にせず軽いスキップをしながら、フロリナは研究室にたどり着いた。
髪や服とか身たしなみを細かく整えたあと、彼女は最高の笑顔で研究室のドアをノックした。
そして十数秒後、研究室のドアが開かれ、中から現れた人を見た瞬間、フロリナの笑顔は収まった。
原因は当然現れたのはあの人ではなかったからである。
「何の御用で?」
研究室の中から現れた青年の言葉でフロリナは失望による沈黙から抜け出した。
「エドアルドさんいますか?」
「エド...アルド、今日は見てないですね...」
「今日エドアルドさんとここで会う予定ですが...」
「うーん、ちょっと聞いてきます。」
すこし迷ったあと、青年はそう言って、研究室の中に戻った。
数分後。
研究室のドアが再び開かれた。
「あのう、すみません、今日は来てなかったみたいです、エドアルド。」
「そうですか...あのう、中で待っても...」
度重なる失望ですでにテンションだだ下がりのフロリナはダメもとで聞いてみた。
「すみません、研究室は部外者立ち入り禁止でして...」
当たり前だが、どこの馬の骨も知らない人を研究室に入れるわけがない。
「じゃここで待っても?」
「それは別に構いませんが、寒いですよ。」
まるでこんな室外と変わらない開放廊下でしかもこの冬の時期でいつ来るかわからない人を待つの正気ですかって問いてるような表情で青年は言った。
「わたしは大丈夫です。」
「うーん、ならお好きにどうぞ。」
そう言って、フロリナの頑固な態度にすこし呆れた青年は研究室に戻り、フロリナは壁に寄りかかって、魔導器をいじり始めた。
二時間後。
壁に寄りかかっていただけのフロリナはすでに地面に体育座りしていて、完全に暗いオーラを漂わせている。
ガチャ。
「あのう。」
研究室のドアが中から開かれ、さっきの青年が上半身を乗り出して、横で座っているフロリナに声かけた。
「あっ、はい。」
「エドアルドのことなんですけど、実はさっきこちらからも連絡してみたんですが、まったくつかなくて、さすがにすこし心配なので今から寮のほうに行ってみようと思っているんですが、そちらどうしますか?」
「あたっ、わたしもいきます!」
そう言って、フロリナは素早く立ち上がり、服についたホコリを軽くはたいて、魔導器をしまった。
「では、行きましょうか。」
先頭を歩く青年の後ろについて、数分歩いたところでフロリナはすこし古めの白い建て物の前に到着した。
「ここで待っててください。」
フロリナを室外に残して、青年は建て物のなかに入った。
そして残されたフロリナはすっかり落ち着きを無くし、徘徊したり、服や髪を無意識にいじり始めた。
彼の身に一体何があったのか、事故?それともただ自分のことが嫌いになって会いたくないだけなのか、いろんな思いを巡らせているうちに、青年は戻ってきた。
「どうですか?」
「さっき管理員と話してみたんですが、エドアルドは昨日の夕方ごろ出かけたあと戻って来ていないらしい。」
青年の言葉を聞いて、まるで鋭い剣に心臓をつつかれたように、フロリナの全身の筋肉が一瞬で強張った。
「それってどういう意味だ?!」
敬語とかも忘れ、フロリナは両手で青年の肩を強く掴んだ。
「ちょ、いた、はなしっ。」
同じ魔術師とは言え、近接系で上級魔術師のフロリナの力に青年がかなうはずもなく、あんまりの痛みで顔を歪ませた。
「あっ、すまない。」
腐ってても上級魔術師、我を失うのも一瞬、フロリナはすぐ手を離し、ついでに軽い治療魔術を施した。
「エドアルドとどういう関係なのかわかりませんが、とにかく落ち着いてください、今管理員に直接部屋に確認してもらっているので...」
「管理員ってもしかしてあのおじさんか?」
フロリナが指を建て物の入り口の方に指しながら青年の言葉を遮った。
青年が振り返るとちょうど管理員が入り口から出てきているところが見えた。
「ええ、そうっうわぁ!」
肯定をした瞬間、青年は後ろ首が強い力に掴まれ、そして次の瞬間、目の前には管理員がいた。
「コホ、コホっ、はっ、は。」
「だ、大丈夫ですか?!」
突然首を掴まれたことで咳き込み始める青年を管理員は心配の言葉をかけた。
「そんなことより、エドアルドは?!」
が、フロリナはそんなことお構いなしに、管理員の前に立ってエドアルドのことを聞いた。
「いない。」
道を塞がれた管理員は怒ることもなく、ただゆっくり首を振った。
「クソ!どういうことだ!」
まるで天国から地獄へ落ちたよう感じでフロリナは頭が混乱し始めた。
「コホ、は、とりあえず治安局と学院に通報して、あとは待つしかないでしょう。」
フロリナの取り乱しぶりとは正反対に、青年は落ち着いて方針を決めた。
「はあ?待ってらっれかよ!あたいは、あたいは、もう!」
怒りに任せ、フロリナは思い切り地面を蹴って飛び上がり、そのまま学院の外へと飛んだ。
「ちょ、ここ飛行禁止なんですが...」
当然青年の声はフロリナに届くはずもなく、フロリナはそのまま青年の視線から消えた。
先日風邪引いてしまい、更新が遅れてしまいました、インフルエンザとかも流行っているみたいですので、みんなさんも体に気をつけてください。