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グラントゥギア 転生聖女放浪編  作者: ジャックス・R・ドンブリ
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第 87 話 

「今日はもう帰ろうか、明日早めに仕事始めたいし。」

 店から出て、特に観光をする気も湧かず、わたしは旅館に戻ろうとした。

「あっ、はい...あのう、お嬢さま、一つだけ伺ってもよろしいでしょうか?」

「うん?もちろんよ。」

「先ほどの女性のこと、もっと調べたりしないんですか?」

「お?」

 ミューゼの言葉を聞いてわたしは立ち止まり、一歩下がったところを歩いてたミューゼの前に立ち塞がって、膝を曲げて顔を覗き込んだ。

「な、なんでしょうか?」

「もしかして妬いてる?」

「や、妬くってなにをですか?わたくしにはわかりません、ユナさんが気になるとおっしゃいましたから、聞いてみただけです。」

 わたしの目線を避けながらミューゼは否定した。

「へえ、ユナがね~、ってか今ユナさんって呼んだ?」

「はい、先祖さまと呼ばれるのはいやだとおっしゃいましたので。」

「なるほど。」

 そういってわたしは踵を返して再び旅館へと歩き出した。

「では...」

 先に歩き出したわたしを足早に追いついた、ミューゼはまた話しかけてきたが...

「そこまで気になるのか?安心して、わたしは人のものを取る趣味持ち合わせてないから。」

 酒を強請ってきたおっさんを座らせたあと、わたしは彼にいろんなことを聞いた。

 どこで魔導書などの魔術知識を得られるのか、この町でどんな強い魔術師がいるのか、その話しの中に例の女も出ていた。

 なぜなら彼女は上級魔術師だからだ。

 女の名はフロリナ、おっさんの話によると彼女はこの町の生まれではなく、他の町から移住してきた狩人らしい。

 もちろん、狩人が狩場に合わせて移住するのは特段珍しいことでもないが、移住された当時のフロリナは十代にして中級魔術師の実力だったため、それなりの話題にはなっていた。しかもその数年後には上級に進級し、奇跡級の座を予約したと言っても過言ではないような天才なので、この町では結構有名人だ。

 しかし、彼女が有名なのはそれだけではない、天才とも呼べる彼女にはかなり変わった趣味を持っていたからでもある。

 その趣味とはナンパだ、彼女はいつも狩りには一人で行っているが、町に帰ったあとは必ずナンパをする、気に入った人に出会ったら、性別種族関係なく部屋に誘っては行為を及んでいた。

 正直ここまでだけでもかなりやばい人だが、さらにすごいのは彼女がそのことを一年続けたある日、一人の男が彼女に声をかけた、そ、お水を売る話だ。そして彼女は二言返事をした、彼女言わば気持ちよくなれて金ももらえるなんて最高だそうだ、で、あの日以来、客は選ぶものの、そのような仕事をちょくちょく受けるようになったと。

 ここまで聞いたら、まあ、欲望の深淵でもがき苦しむ人たちを助ける菩薩のような心を持つ素敵な女性だと感心して終わりだが、なんと彼女は最近どこかの男に恋をしてしまったらしく、ナンパもそういう仕事も一切やめたらしい、それで町中の男が血眼でその男を探してるとかなんとか。

「わたくしは別に...上級魔術師ですし、なにか話を聞いたしないのですか?と思いまして...」

「ふーん、そう?まあ、確かに上級魔術師だけど、狩人、しかも近接戦闘系となると、ユナのことでなにか役に立てるとは思えないな。」

「そうですか。」

「ま、今度ばったりあったら聞いてみるのもいいかもね。」

 正直、性格も価値観もあう気がしないし、いつか客としてお世話になるという考えもなくはないが、もう手を洗うんだったらそれも叶うことない、となれば自分とは無関係なことなので、自分の中ではすでにせいぜい情報として頭の片隅に置いておくぐらいの気持ちになっている。

 自分と無関係だと判断したものは切り捨て、大事なことだけに集中する、地球での三十年の生活でこのライフスタイルはすでに本能のように身に染み付いたので、自然に忘れることができるのだが、ミューゼやユナからしたら不自然だから、気になっていたかもしれない。

「そんなことより早く帰って明日の計画を立てよう。」

 そう言って、わたしはミューゼを引っ張って足早に旅館に帰った。


 アスタ都市同盟、テラー領、キーヴエン山麓。

 ハーヴィー宅内。

 先日入手した聖女の研究筆記をハーヴィーは集中して読んでいる。

「ほう、これは...なるほど。」

 感心しながらハーヴィーは筆を執り、なにかを書き記そうとした。

 しかし、突然その筆をとった手は九十度方向転換し、物凄い速さで前に振った、その勢いで手にした筆も手から離れ、まるで弾丸のように虚空を切った。

「おっとと、あぶねーじゃねえか!」

 筆の行く先に突然一人の男が現れ、ギリギリ筆を避けた。

「魔術師の研究室に忍び込んで殺されても文句は言えないと思うが?」

「忍び込むなんて人聞きの悪いな、ちゃんとした客だぞ。」

 壁に刺さった筆を抜き、男はハーヴィーのところへと歩いてた。

「客なら玄関でチャイムを押すのが礼儀なんじゃねぇのか?」

「マブダチの俺らにそんな礼儀はいらねえだろう?」

 筆をデスクに置き、男はそのままデスクの上に座ってハーヴィーにいい笑顔を見せた。

「あんたみたいなマブダチを作った覚えはないが。」

 ハーヴィーは男の笑顔を無視し、別の筆をとってなにかを記録し始めた。

「何その言い方、寂しそうだからわざわざ来てやったのによ。」

「ふん、あの女ならもうテラーに行ったぞ。」

 男の言葉を無視して、ハーヴィーは言った。

「わかってるぞ、だってこんなもん見てるんだもん、ほう、これが...」

 ハーヴィーがものを書くためにデスクに置いた聖女筆記を男は奪いとった。

「返せ!」

 その怒りの言葉と同時に部屋の隅にまるで彫像のように立っている死体が男のほうに向いた。

「わかった、わかった、返すから怒んなって。」

「ふん!」

「取引は完了したと確認できたし、なんか歓迎されされてないみたいだし、もういくかな~」

 デスクから降り、男は数歩前に歩いたあとまた振り返ると、ハーヴィーは彼のことを見向きもせずに目の前の筆記と戦っていた。

「あーあ、いやになっちゃうわ~」

 男がそのまま進み、ドアに手を掛けたその時。

「ヴァーレン、お前の相棒は?」

「相棒?あー、クロードのことか?あいつならまだ王国にいるぞ、ここにはあんたがいるし、王国にも見張りがいた方がいいってお上が。」

 ハーヴィーの突然の問いかけにヴァーレンはボケたあとまるで思い出したかのように答えた。

「つまりお上は俺とお前二人で聖女を監視しろっと?」

「そうじゃない?」

 ヴァーレンがそう言ったあと、部屋には長い静寂が訪れた。

「はあ、わかった、外で待ってろ。」

 長いため息の後、ハーヴィーはそう言った。

「ふ、へへ、あいよ。」

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