第 82 話
「ここが下町ですか?」
例の約束を果たすため、ナディアーナはローゼシア姫と下町へと繰り出した。
前回の突然訪問の後、なんで約束したのとリリアに詰められたが、師匠の指示だって言ったらリリアはあっさり了承した。
あとはグレンを通して国王の方に事情言ったらこころよくオーケーを出してくれた。
「ええ、そうよ。」
順調に事を運べたように見えたが、あとで肝心の師匠になんで引き受けることにしたの?って聞いたら面白そうだからとだけ返されたので、自分と師匠のこの信頼度の差は一体どこでできたのだろうとナディアーナは考えさせられた。
「せいじょっ。」
「シー、違うでしょ。」
「あ、すみません、お、お姉ちゃん。」
そう、今回のお出かけではナディと姫は姉妹という設定行われるのだ。
前回のエレスのお忍びみたく、男の姿でやるのも一応できるが、ナディ自身の演技問題と姫の気持ちの問題を考慮して、普通に女性のままでいることに決めた。
ちなみにラフィニアとリリア二人は男のボディガードのような感じの姿してる。
「うん、なに?ローちゃん。」
「え?ええと、もっと賑やかな場所だと思ってましたけど、なんか寂れた感じですね、下町。」
それはナディアーナ自身も同じく思った、前回手紙を送るときも人は減ってたけど、ここまでではなかった、道両側の店はほとんど営業してなく、通行人も数人しかいない、広場まではまだちょっと距離があるとはいえ、こんな中央通りは見たことがない。
「そうだな、やっぱり戦争のことでみんな逃げたのかな。」
「そうですか...」
戦争のことで国民が逃げてたことを心配しているのか、せっかくきたのに誰もいなくなったことにがっがりしているのか、ローゼシアはかなり落ち込んだ。
「もうちょっとで中央広場だし、あそこならきっとまだ賑わっているよ、さあ、行こう。」
そう言って、ナディアーナはローゼシアの手を掴み、そのまま引っ張って中央広場の方へと歩き出した。
「え?せ、お姉ちゃん?!」
引っ張られていく姫を見てリリアたちは顔を見合わせて追いかけた。
数分後。
「ほら、ここならまだ結構賑わってるよ。」
屋台などは大分減ったが、中央広場付近は大型デパートや国際的にも有名なブランドの店が多いので、営業を続けているところが多く、そのおかげで人気もそれなりに増えている。
「ここのお店、わたくしでも聞いたことがある名前ばかりですから、資本力が強く、ちょっとの損失ぐらい耐えられるからではないでしょうか?国際ブランドであれば統治者が変わって経営出来なくなるという心配も少ないでしょうし、やっぱりみんなこの戦争は長引かないと予想されているんですね。」
若くといえど、お姫さまであると言うべきか、着いた早々いきなり嫌な分析を始めた。
「そうだろうけど、もっと肩の力を抜いて、純粋な気持ちで楽しもうよ、ローちゃん。」
「あっ、すみません、でも今日は楽しむために来たわけではありません、視察、というのもちょっと違いますか、うーん...」
「まあ、まあ、まあ、別にどっちでもいいじゃないか、下町はそんな見ただけでわかるようなものではないよ、楽しんで溶け込んではじめてわかるものだから。」
「そう...なんですか?」
なにも知らない環境に放り込まれたからなのか、今日のローゼシアはやけに大人しく見えた。
そんなローゼシアをたぶらかすためにナディは畳み掛けた。
「当たり前ですよ、身をもって体験するのが一番だから、ねぇ、二人とも。」
最後に信憑性を増すためにリリアたちにも賛同を強要する。
「え?はい、そうですね」
ラフィニアは黙ったままなにも喋らなかったが、リリアはいきなり話振られることに驚いたものの、ちゃんと合わせた。
「ほら、ささ、ローちゃんはどの店が気になる?」
「ええと、あそことか?」
左手の方にある服屋を指しながら、ローゼシアは答えた。
「いいね、よし、ローちゃんに可愛い服見繕うぞ。」
「わたくしはもっと大人っぽい服の方が...」
「じゃ、大人のお姉さんにするぞ!おお!さあ、一緒に。」
「え?お、ぉぉ...」
いきなりハイテンションについていけない姫を引っ張ってナディアーナは服屋へと向かった。
「本物の聖女さまってこんなんだったのか?」
前を進む二人の背中を見て、わけのわからない状態のラフィニアは小声で隣のリリアに聞いた。
「いや、ただの変なスイッチの入ったナディです、たぶんテンションを高くして勢いで乗り切ろうとしてただけではないでしょうか?」
「なるほど、ならよかったです。」
「うん、よかったです。」
珍しく意見があった二人は出会ってはじめて笑いあった。
数時間後。
「ちょっと疲れましたぁ。」
デパートの休憩エリアで、ローゼ姫は椅子に座り、そのロングスカートに隠された足を伸ばしながらそう言った。
「めっちゃ遊んだなぁ~」
服屋で服を買って、お菓子食べて、遊んで、国王たちへのお土産も買って、いままでそんなことする機会なかったナディアーナはいつの間にか演技とか忘れて楽しんでしまった。
「はい、楽しかったです、でもなにか今日ここに来た目的と違うような気が...」
「そ、そんなことない、わよ。」
突然現実に引き戻され、ナディアーナはちょっとどもった。
「ええと、ほら、ええ、この楽しい経験もこの国、この町を守る理由になるじゃないか?」
脳みそを振り絞って何とか理由をつける。
「確かにそうかもしれません、でもやっぱりほかのところも見てみたいので、すこしだけでいいんです、他のところも連れててくれませんか?例えば地下街とか。」
「地下街?!」