第 80 話
早く詳しく話を聞くためにわたしは結局列車で内城に向かうことにした。
ずっとこの世界の地下交通網とやらを使う機会がなかったが、結構快適でスピードもかなり早く、十分ぐらいの時間でもう例の旅館の最寄り駅まで到着した。
駅周辺の街並みを見るに、旅館の立地はお世辞でもいいとは言えなく、だからあの審査官に頼んで客引きしてるだろう。
まあ、観光に来てるわけでもなければ、目立ちたくもないわたしたちにはむしろちょうどいいから、感謝したいぐらいだ。
「さて、例のラ◯ホ行くか。」
「ラ◯ホ?ラ◯ホとはなんですか?」
「ええと、うーん、男女、ちがう、愛し合う...もちょっと違う、とにかくさっき審査官の人が言った行為をする場所だけを提供する宿屋のことだよ。」
ありがとう、審査官。
直接的な言葉を使わずに的確に形容するの案外難しく、思わず審査官の存在を感謝してしまった。
「そ、そういうことなんですねぇ、あそこはそういう場所何でしょうか。」
「さあね、セバスチャンのほうが知っているじゃない?あの審査官とも気が合うみたいだし。」
「いいえ、決してそんなことは...」
慌てるミューゼからかいながらながら歩くこと十数分、ようやく例の旅館に辿り着く。
「これはぁ、案外まともな旅館かも。」
どっかの繁華街にありそうな雑居ビルの間にひっそりと立てているものを想像してたが、全くもって違った。
かなり広い敷地をこの世界では珍しい木製のフェンスで囲い、入り口のドアもかなり芸術的彫刻をされていて、正直看板がなければどっかのお金持ちの屋敷だと勘違いしてしまいそうだ。
「はい、ここ高そうに見えますが、大丈夫でしょうか?」
「まあ、高いんだろうな、とりあえず聞いてみるか。」
正直金は王宮から持ち出したアクセサリーを売ればなんとかなると思うが、下手すれば足がつくのでできればこんな早い段階でそれに手を出したくはない。
そう考えながら、ドアの横についてるチャイムを押すと、十秒もしないうちに一人の女の子が出てきた。
「あのう、お二人はどういったご用でしょうか?」
すこし開いたドアの間に頭だけ出してきたかなり可愛い女の子は尋ねた。
「ここは旅館であってますか?」
「あ、はい、お客さんですか。」
女の子は慌ててドア全開に、緑色の仕女服を身に纏った姿を見せ、頭を下げた、その勢いで薄い金色のツインテールが肩から垂れて地面に触れてしまいそうだった。
「お越しいただき誠にありがとうございます、ですが、うちは会員制となっておりまして...」
「え?それは聞いてなかったんですが、あのう、城門で審査官からこのカードをもらったんですが...」
そう言いながらミューゼは例のカードを取り出し、女の子に見せた。
「拝借してもよろしいでしょうか?」
「あ、どうぞ。」
カードを手に取り、彼女は何度かひっくり返して確認し、最後は「少々お待ち下さい」といって、旅館の中へと消えた。
「この旅館スピーア人が開いたんだね、どうりで木多用するわけだ。」
「え?そうなんですか?」
わたしの言葉を聞いて驚くミューゼ。
「さっきの子、かなり存在感の薄い精霊を宿してるけど、ちゃんと見れば彼女自身とは違う魔力の流れを感じるからスピーア人だと思う。」
「さすがお嬢さま、自分は全然わからなかったです。」
「そりゃとなりで黙って見てただけだからね、これぐらいは見えてないと。」
そんな会話をしてるうちに旅館の奥から人が現れた。
「お客様、お待たせしまして申し訳ございません、こちら当旅館のオーナーです。」
「お初にお目にかかります、ローレンと申します。」
現れたのはさっきの女の子と一人のイケメンだった。
「大変申し訳ございません、お客様のことを外で待たせるなんて、どうかうちの者をお許しください。」
「別にっ。」
「そういうのは結構なので、泊まれるかどうかだけ先にはっきりしてくれませんこと?」
延々と無駄な会話させられそうなので、ミューゼの言葉を遮ってローレンに問い詰めた。
「ええ、もちろんご利用いただけます、いががしますか?」
「いかがしますもなにも、わざわざきたのに、泊まらなければただの時間の無駄ですわ。」
「それでは、中へどうぞ。」
二人のあとをついて旅館の中に入ると、植物がいっぱいの庭が目に入った。
「この先に隠蔽結界がありますので、お気をつけください。」
庭を鑑賞しながらすこし進むと、二つの石の彫像の前に辿り着いた。
「よくできた結界ですわね、言われるまで気づきませんでしたわ。」
「お褒めいただきありがとうございます。」
そう言って二人はそのまま進み、姿を消した、それを見てわたしたちも用心しながらついていった。
「これは確かに遮蔽する必要ありますわね。」
結界を通り過ぎ、わたしたちの目に映った、いや、わたしの目を奪ったのは人間という生き物の小ささを認識させるほどの巨大な植物群だった。
天を突くほどの巨大樹木の根を下敷きに無数の植物が生息しており、その異様な光景は自分また異世界転移されたのかとさえ錯覚させてしまうほどだ。
「こんなものどうやって、まさか精霊王国の超大型戦争要塞を持ち込んだわけじゃありませんわよね。」
実際で見たことはないが、情報によれば精霊王国の超大型戦争要塞はまさに目の前のものと同じような巨大な魔法植物らしい。
「ふ、まさか、戦争要塞の大きさには遠く及びません、これはただ自分が見つけた種を丹念に育てあげた結果に過ぎません。」
そんなわけあるかい!とツッコミを入れたいところだが、相手は明らかただものじゃないとわかった今、あんまり深く掘り下げるのは得策ではない。
「な、なるほどですね。」
あとのことは極めてシンプルだ、手続きして、料金はかなり高いけれど、審査官の紹介ということで割引してくれて、そのまま了承したら部屋へと案内された。
部屋に入って、ゆっくり長旅の疲れを癒やすというわけでもなく、わたしは尋問大会を開催した。
ベッドに座り、目の前の床で正座してるミューゼを見下ろしてわたしは口を開いた。
「さあ、わたしに隠してたこと全部話しなさい。」