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グラントゥギア 転生聖女放浪編  作者: ジャックス・R・ドンブリ
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第 76 話 

「この中が俺の研究室だ。」

 ハーヴィーについていくと、薄暗い地下室のところまで案内された。

 地下室までの階段も廊下もいつ消えてもおかしくないような弱い照明しかなく、加えてここはネクロマンサーの研究室と思うとかなりホラー感が湧いてきた。

 ちなみにミューゼと蛆虫どもは研究室で暴れられたくないとの理由で上に待機させたからなおさらぞくぞくした。

「お前、家ちゃんと修繕したほうがいいぞ。」

「ボロくて悪かったな、前にも言ったけど町に行けないから材料集めるのも一苦労なんだ、そんな時間あったら魔術の研究したほう有意義と思わんか?さあ、中へ。」

 いや、屍術を扱っているから人手の問題なんて解決方法いくらでもあるのだろうっと心の中でツッコミを入れながら研究室に入ると目の前の光景に驚いた。

 普通だ。

 そう、普通だったんだ。

 ネクロマンサーの研究室だから、てっきりいろんな生物の首やら腕やら内臓やらが散らばっていて、拷問器具がまるでおもちゃのように陳列されてると思っていたが、かなり普通だ、変な生き物のパーツもなければ拷問器具もない、あるのは本や普通の魔導具だけ。

 というかむしろカルシアの記憶も含め、今まで見た研究室の中でもかなり整理整頓の出来ているほうだ。

「案外普通だね、てっきり死体が並んでると思っていたが。」

「こんなところに死体を置くわけないだろう、こんなところに置いた死体が傷んでしまうわ。」

 こいつにも常識があるんだなと感心してしまうところ、やつの次の発言がそれをひっくり返した。

「な、なるほど、そう、なんだ。」

 一瞬なんと返せばいいか分からなくなってしまったわたしは適当に相槌を打った。

「当たり前のことだ、死体はな、繊細なんだよ、清掃、修復、補強、腐敗防止、保管、施術、ちょっとでもミスすれば死体に永久な傷を残してしまうんだ、わかるか、この大変さ。」

 わかってたまるかよ、わたしはネクロマンサーじゃねえし。

「それはわかるからさ、取引の話はじめてくれない?」

「ふん!まあ、いいだろう、言っとくけど、ここに屍術の秘密に関する資料はない。」

「それはどういう意味だ?」

 ハーヴィーの言葉で一瞬で神経を張り詰め、いつでも魔術発動できるように精神を集中した。

「待て待て、君とことを構えるつもりはない、俺が言いたいのはそれを書き出した資料はないから、知りたいなら俺から直接教えるしかないってだけ。」

「はあ?話が違うぞ。」

「仕方ないだろう、俺らにとっては当たり前のことだし、人に教えるなんて考えもしないから、そんな資料わざわざ用意してあるはずないだろう、お詫びとして、自分昔学生だった頃の屍術の研究資料をあげるよ、初心者にとってはちょうどいいはずだ。」

「うん?その研究資料とやらに屍術の秘密とやらは記載されてないのか?」

 研究資料があるなら、そこに術式とかも記載されるはずだが、秘密というのは一体なんなんだ?

「うーん、直接記載はないと思う、まあ、屍術の使用の前提なので、言葉の端からなんとなく察せなくもないが、全貌を知るには不十分だろう。」

 ますます気になってしまうな。

「なるほど、いいだろう、それで手を打とう。」

「では、先に秘密のほう話し、そちらの研究資料を確認してから、こっちの研究資料を渡すというのはどう?」

 わたしが無言で頷くとハーヴィーは続けた。

「うーん、どこから話せばいいのか、我々ヤサリア人は数百年前に突然現れた種族ということは知っているかな?」

「ああ、もちろん。」

 当然だ、なぜなら千年前にはこんな種族なんてなかったからだ。

「他の種族では地底人だの、古代種だのといろいろ噂しているが、そういうのではまったくデマ、我々はヤサリア人は霊界から来たんだ。」

「霊界?」

 わたしと同じじゃねえか。

「ええ、あんまり知られていないが、ヤサリア人は巡りを信仰している、なぜなら我々は巡りから来ているからだ。」

「巡り?!あのすべでの魂の帰る場所と言われている巡り?」

「ええ。」

「つまり死んだ人の生き返ってヤサリア人になったってことか?」

「たぶん違うだろう、少なくとも俺には前世の記憶なんて持っていない、まあ、実際どうなのかは最初の先祖たちしかわからない、我々はただそう教えられただけだ。」

 またとんでもないことを聞いてしまったな、知り過ぎて消されたりしなければいいんだけど。

「つまりそれも噓の可能性があるのでは?」

「いや、たぶん本当だろう、証拠は我々が屍術使えていることだ。」

 あ、そういえば屍術の話だった、いきなりとんでもない秘密を暴露してきたから忘れてしまったわ。

「生物が死んだら、その魂はすかさずに巡りに吸い込まれ、永遠にグランに戻ることはない、神代では一部選ばれた英霊が命神が作った聖霊殿に保護され、地上に舞い戻ることができるという話もあるが、今となっては眉唾物に過ぎない。」

 それは本当なんだが...

「だけど、屍術はその破られることのない鉄則を打ち破った、死んだ生物の魂を巡りの手から奪い、その精神力を無理やり体の中に留まらせ、生ける屍として操った、その不可能を可能にした一番の秘密は...」

 おい、ここでもったいぶんじゃねえよ。

 とツッコミながらその顔をひっぱたきたいが、何とか我慢して乗ってあげることにする。

「一番の秘密は?」

 呆れて付き合ってあげたら、向こうがなぜか満足そうに頷いてやがった。

 何やこいつ。

「言っちゃえば簡単だが、つまるところ、巡りの許しを頂ければいいことだ。」

「巡りの...許し?巡りに意識とかあるのか?」

「さあ、それはわからない、けど屍術を使うには避けて通れない道だ、言っとくが、我々ヤサリア人もみんな屍術を使えるわけではない、学生として基礎魔術理論や屍術理論を勉強し、優れた成績を納め、数多な試験を乗り越えてやっと霊視の儀という屍術を手に入れる機会を得られる。」

「霊視の儀?」

「名前の通り、霊界にいる巡りを直視する、それだけの儀式だ。」

「はあ?なにそれ?」

「俺にも分からん、ただ魂が体から抜けたような感じがして、気付いたら何もない真っ黒な空間に飛ばされて、目の前に渦のような物が現れ、そして耳元になにか囁かれてたようなないような感じがして、でまた魂が体に戻って終わり、ただそれだけだから。」

 渦?そんなものがあったのか?頑張って霊界にいる時の記憶探ったが、そんなものを見た覚えは一切なかった。

「仕方ない、その儀式とやらのやり方は?術式は?」

「知らん、そんな重要なもの俺みたいなやつに教えるはずないだろう。」

 それはそうと妙に納得してしまうが、騙した理由にはならない。

「はあ?また騙したな?!」

「いやいや、そんな人聞きの悪いな、約束したのは屍術の秘密でしょう?必ず屍術を使えるようになる保証ではないよ?俺の知っている秘密は全部話したし、それ以上俺を叩いてもなんにも得られることないよ。」

「本当にそれ以上は知らないのか?」

「ええ、巡りに誓って。」

 うーん、噓には見えない。

 ここでぶっ倒して拷問するのもいいが、正直時間の無駄になる可能性が高い、何よりこいつも弱くはないから、戦いになったらミューゼを巻き込んでしまう。

「はあ、研究資料を...」

「うん?」

「研究資料をもう一冊、学生の時のやつじゃない、実際に屍術の許可を得たあとのその巡りを直視するとやらを研究する資料をくれ。」

「それは...」

「ないとは言わせんぞ、こんな山奥に引きこもってまで研究するやつがあんなもの興味わかないはずがない!」

 言い訳をしようとするハーヴィーの退路をあらかじめ断つ。

「はあ、わかった、言っとくけど、研究はしたけど、成果なんて何にもなかったぞ。」

「それで構わない。」

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