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グラントゥギア 転生聖女放浪編  作者: ジャックス・R・ドンブリ
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第 74 話 

「ミューゼ。」

「あっ、お嬢さま。」

 部屋の中でこもっていろいろ考えて気付いたら一時間以上立ったことを気付いたわたしが慌てて外に出たら、ミューゼがテーブルの前にぼうっとして座っていた。

「朝ごはん冷めてしまいましたので、作り直します、少々お待ちください。」

「いや、いい。」

 慌てて立ち上がってテーブルに並べられているただの朝飯とは思えないぐらい豪勢な食事を片付けようとするミューゼをわたしは止めた。

「ミューゼの料理は冷めても美味しいし、なんなら魔術でちょっと温めればいい、そんなことより、ミューゼ、さっき抱きしめてほしいって言ったよね。」

「あっ、それは...うん、わかりました、どうぞお願いいたします。」

 そう言って、ミューゼは目を閉じ、顔を上げ、まるで死の覚悟は持ってるけど恐怖と緊張で体がカチカチな若い戦士みたいに立っている。

「そんなに緊張しなくても、抱きしめるだけだぞ、別に取って食ったりはしないよ。」

 依然と体を強張らせて、唇を嚙み締めるミューゼをわたしは彼女を自分の胸にやさしく抱きいれた。

 変にベタベタ触ったりもせず、下心も持たずにただただ彼女の頭を軽くなでおろし、お互いの体温を交換した。

「ミューゼ、ありがとう。」

「お嬢さま...」

 警戒心が薄れたのか、ミューゼも強張った体から力を抜き、わたしたちはそのまま数分間無言で抱き合っていた。

「あのう、お嬢さま?」

「うん?」

「そろそろごはんに...」

「あっ、ごめん、つい。」

 名残惜しいと感じつつもミューゼから離れ、わたしはテーブルの前に座った。

「やっぱりハグはいいね、ミューゼはどう思う?」

 たったの数分間のハグだけど、気持ちがガラッと変わり、俄然と力が湧いてくるのだ。

「う、うん、すごく、良かったです。」

 恥ずかしそうにしつつも肯定してくれたミューゼの言葉を聞いてわたしはさらに気分がよくなり、目の前の冷めた料理をがつがつと食べ始めた。

「おお、うまい。」

「お嬢さま、やっぱり温めなおした方が...」

「なにを言っているの、冷めた料理は冷めた美味しさがあるから、さ、ミューゼも座って。」

 ミューゼの手を引っ張って座らせて、わたしはフォークで肉をさし、彼女の口元まで運んだ。

「ほら、あー。」

「え?こんな...あー。」

 戸惑いながらもわたしの動じない態度をみて断れないと悟り、ミューゼは諦めて口を開いた。

「よし、じゃ次はこれを。」

 飲み込んだのを見てわたしはまた次の料理を食べさせようとした。

「そんな、お嬢さまが先に食べてください、わたくしは...」

「じゃミューゼが食べさせてくれ。」

 もう一本のフォークを彼女に渡し、わたしは口を開いて、彼女の餌付けを待つことにした。

「え、ええと、わ、わかりました。」

 毒を食らわば皿までって勢いで、ミューゼは素早くフォークで料理をわたしの口に運んだ。

「あむ、うーん、これもいいね、じゃ、次。」

 もう一度ミューゼの料理の腕に感心し、わたしは再び食べものをミューゼの目の前に運んだ。

「え~、まっ、うーん。」

 ミューゼの文句をいううるさい口を食べ物で封じた。

 ...

「ああ、うまかったぁ。」

「ありがとうございます。」

 食べさせあいっこで腹と精神を満たし、わたしたちは野営地の片付けを始めた。

「お嬢さま、これからはテラーに向こうのですか?もしそうでしたら、念のため山の中で食料を集めておきたいですが...」

「そうだね、テラーに向かう前に一つだけ寄りたい場所がある、食料ならそこでも調達できると思うけど、わたしはそこら辺詳しくないから君に任せるよ。」

「寄りたい場所ですか?」

「ああ、ユノンという川の川沿いに小さい森があるらしい、山を降りてすこし進んだとこにあるから、急がなくても日が暮れる前にはつくと思う。」

「森、ですか、なぜそのような場所に?」

「ああ、あそこの森ちょうどいい強さ魔獣が生息してるから、狩人結構いるらしいよ、魔獣を狩るのも人を狩るのもね、そこに行く目的はもちろん人を狩るほうの人を狩ることだよ。」

 そう、昨日はあんまり乗る気はなかったが、ユナのことがある以上、どんな小さい可能性でも拾っておきたい。

 ヤサリア人はこの世界のネクロマンサーみたいな存在だ、精神や肉体に対する研究なら誰にも負けないでしょう、もしその知識を得られるならきっと大きいな助けになるだろう。

「それってつまりあのはい...ヤサリア人の男と取引をするのですか?」

「ああ、ミューゼ、聞いてくれ。」

 食器と料理道具を片付けているミューゼの方にわたしは近づいた。

「はい!聞いています。」

 手元の食器を置き、こっちに向いてくるミューゼの肩をわたしは両手でしっかり掴んだ。

「いいか、ミューゼ、あとなかにいるユナもちゃんと聞いて、わたしはまだ諦めていない、表に出るなとは言わない、それは君らの決定だし、わたしにとやかく言う資格はない、けど、ただ、このまま何もせずにユナが消えるのを見てるだけなんてわたしはできない、やれることは全部やらせてもらうから、いいな?」

 わたしのお気持ち表明を聞いたミューゼはしばらく黙り込んだあと、わたしの目をまっすぐ見つめて口を開いた。

「もちろんです、せいじょ、ううん、エレスさま!」

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