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グラントゥギア 転生聖女放浪編  作者: ジャックス・R・ドンブリ
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第 69 話 

 アスタ都市同盟 テラー領

 夜。

「ねえ、ミューゼ、わたしたち都市同盟に入ってどれぐらい経ってた?」

 テラー領のどこかの山奥の森の中で、わたしは魔術できれいに切られた切り株に座って篝火の中弾ける火花をぼうっと見つめながらミューゼに話しかけた。

「ええと、五日ぐらいじゃないでしょうか。」

 森で狩ったうさぎとキツネを混ぜたようなフニという生き物をどこかで採ってきた調味料になるらしい野生の植物で調理しているよくわからないけどとにかくすごいミューゼさんもどこか気疲れしているようで、すこし力の抜けた感じの口調で返事した。

「五日か、わたしたちってもしかして道に迷った?」

「そうですね、そうと思います。」

 そう、早く王国から脱出したことに喜ぶ暇もなく、わたしたちはアスタの山奥で道に迷った。

 は?って思うかもしれないが、どうか言い訳をさせてほしい。

 通信魔導器が国境を超えたら使えないなんてことある程度予想つくから問題はないけど、国境に税関はともかく、見張りも巡回の兵士すらないのは誰が予想つくねん。

 当然地球では不法入国とか全く無縁だったわたしも予想がつくはずもなく、人間誰一人会えないまま、五日が経った。

「いや、この国一体どうなっている、国境やぞ、警備ぐらいしなさいよ。」

「確かに普通の国ならお嬢さまの言う通りに警備ぐらい置くのでしょう、けれど、アスタは普通の国ではありませんから。」

 この世界のネット、ネットっていうけど地球のインターネットとは違う、すべての情報が魔導コアで処理される性質上、その魔導コアの影響範囲内でしか情報交換はされないのだ。

 つまりこの世界の魔導ネットは一つ一つのどデカいローカルネットワークに近い、だからラスタリア王国でアスタの情報を収集するのは難しいし、収集した情報の真偽を判別するのも困難である。

 しかし、そんな情報たちのなかで唯一共通するものがある、それはアスタ都市同盟は常識で判断してはいけない国だということだ。

 アスタ都市同盟は名前の通り、8つの都市が同盟を結んでできた国だが、あくまでも防衛同盟であるため、それらの都市はそれぞれの法律と政府があり、お互いに不干渉である。

 そして、一番重要なのは、8つの都市にはそれぞれの都市長が存在し、その都市のなかでは都市長の命令がすべてであることだ。

「テラーの都市長って確かに、ええと、誰だっけ?」

「え?ええと、その、テラーという神獣です。」

「うん、なんか歯切れが悪いね、ってか神獣って大丈夫か?」

 神獣と呼ばれているけど、いわば奇跡級の魔獣だ、そんなものを都市長なんて危険にもほどがある。

「大丈夫と思います、すでに数百年も都市長を勤めていたそうですので。」

「なるほど、魔獣が統治する街か、ちなみにミューゼはどんな街か知っている?」

「え?それは...自分もあんまり詳しくはないのです。」

 ついでに聞いてみたが、ミューゼはなぜか不自然に目を逸らした。

 この反応は詳しくないというより話したくないに見えるが、気のせいか?

「そっか、まあ、行けばわかるだろう、問題はどうやっていくのかって話だけど。」

 ちょっと気になるが、女の子の嫌がることはしない主義なので敢えて触れないでおこう。

 今まで女の子の嫌がることいっぱいしてきたんだろうって?それは...ほら、仕方なかったんだよ、うん。

「そうですね、やはり飛行魔術を使うしかないでしょうか。」

「そうだね、あんまり目立つのは避けたいし、旅の気分も味わいたいけど、流石にもうこだわっている場合じゃないか。」

 それに飛行魔術を使うならわたしがミューゼを連れて飛ぶことになるし、その間にいろいろ得ができそうで良きかも。

「お嬢さま、出来上がりました、どうぞお召し上がりください。」

 いつの間にか、わたしの目の前にはフニの丸焼きとなにかのスープが置かれていた、しかも丸焼きなのに、なぜかすでに食べやすいように切り分けられていてなんか高級そうな盛り付けもされている。

「さすがはミューゼだ、すごいいい匂い。」

 ミューゼの腕前に感心しつつ、食欲に駆られ早速フォークを手にするその時、森からガラガラの声が響いた。

「ああ、もったいない、実にもったいない。」

 声が聞こえたと同時に警戒魔術も反応し、声の主の居場所を示した。

「誰だ!」

 ミューゼはすぐ魔導器を手に取り、立ち上がった。

「おっと、お嬢さん、それおろしてくれないかな、俺は怪しいものではないよ。」

 依然森の影に隠れているやつの言葉などミューゼは聞くはずもなく、場が一瞬凍りついた。

「うーん!うまい!ミューゼちゃんさすがだわ、こんな森で拾った食材でもこんなうまいもの作れるなんて。」

「ありがとうございます、ですが、お嬢さま、今はそんな場合では...」

「まあ、まあ、いいじゃないか。」

 そう言ってわたしは立ち上がり、警戒している彼女の後ろに貼り付け、両手をその肩の上を通し、左手はそのまま伸ばし、右手は肘を曲げ、彼女の左頬に触れた。

「うーん、やばっ、体柔らかく温かいし、頬もすべすべ。」

「お、お嬢さま?!そ、そういうことは!」

 ミューゼはわたしのおかしな言動にかなり動揺しているが、わたしは気にもせず彼女の柔肌を堪能し続けた。

「まあ、そう緊張しなくてもいいともうよ、ミューぜちゃん、わざわざ声出してたし、襲う気はないでしょう、そうだよね?灰蜥蜴さん。」

 こっそり自分の頬をミューゼの髪に当て、その感触を楽しみながら、わたしは森の中の人に問いかけた。

「そうだけど、今の差別発言ちょっと聞き捨てられないね、それ、連邦で言ったら首落とされるで。」

 その言葉と同時に、森の中から一人のヤサリア人が出てきた。

 姿はその別称のように、灰色の肌と闇の中でわずかに光るスリット状の瞳孔が特徴的だが、一般的なヤサリア人が着ないようなボロボロでブカブカのロープを身に纏っているのがさらに印象的かもしれない。

「ふん、ここの連邦じゃないし、わたしたちも連邦人ではない、それに女の子ふたりのイチャイチャ空間に割り込んでくる男などに配慮する気もない。」

「おっと、それはすまなかった、ただ新鮮な死体を焼いて食べてしまうのがもったいなくてつい口出してしまった。」

 こいつ頭おかしいのか?って思ってしまうほどの発言にしばらく思考停止していると、ミューゼが口を開いた。

「あなた達と一緒にしないでください!この死体狂いどもが!」

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