第 6 話
朝 ラスタリア王国 王宮 双蓮宮
千年前の聖女の趣味なのか、はたまた宗教関係なのか、双蓮宮の寝室は朝になると窓から強い日差しが直接差し込まれ、ベッドを含めた部屋全体を明るく照らしてしまう。
いつもの主不在な双蓮宮であれば問題ないが、今日はいつもと違い、ベッドの上には私が眠っていた。
「カーテンしめろよ、もう...」
四肢にぎゅっと抱き締められている布団製抱き枕に顔を埋めていく。
ドッドッド。
部屋のドアの向こうからノックの音が部屋に響く。
「聖女さま、お目覚めになられましたか?」
「う~ん、うるさい。」
二度寝を邪魔され、文句を言いながら目を開く。周りの見慣れない環境を見て、はっとなって起き上がる。
「ここは?あ、そうだったわ。」
見慣れない環境に一瞬戸惑ったが、すぐに昨日の出来事を思い出す。
「聖女さま?」
ドアの向こうからリリアの声がする。
出したことのない速いスピードで布団と髪を整え、喉の調子も確認してから許可を出す。
「入りたまえ。」
がちゃっとドアが開かれ、リリアが優雅な足取りで入室してきた。
「聖女さま、命神イスラティルの...」
「待て待て、そういうのはいい、君らはどうやら何か勘違いをしているようだ」
長ったらしい宗教のご挨拶を展開されちゃいそうなので、慌てて止める。
ここは演技をぶちかますところだったかもしれないが、残念ながらそんなことできる知識量は私にはないので、ここは情報差を利用してたぶらかしてみるしかない。
「わたしの力は確かに命神と関係あるし、聖女とやらに祭りあげられてはいたが、別に命神を信仰してるわけではない。教会建てたのもどっちかというと政治的な理由であってわたしの意向とは違う、だからそういうのはよせ。」
「そう、なんですか?」
自分の常識や信仰が砕け落ちたような驚きと困惑の表情をするリリア。
悪いな、正直本物の聖女がどんな感じでやってたのか、わたしにもわからないが、ここはそういうことにしといてくれ。
「ああ、その通りだ、そもそも神々は神代と共に葬られただろう、死んだ神を信仰したって神術は使えないし、なんのメリットもない信仰なんて誰がするの?」
「でも今でも宗教はあちこちにありますし、グランやノランのような教国などにあたっては教皇が国を治めていますし...」
思わぬところで話題が展開されてしまったが、自分の話から逸れたのでむしろ好都合である。
「そういうのは宗教というより商売だ、宗教という名のメンタルケアサービスを提供して利益を得る商売、まあ、メンタルケアが行き過ぎるところもあるだろうけど。」
「商売...ですか」
「リリアってどこかのお嬢様だろう?そういうの学んだことないのかい?ほら、帝王学とか。」
「いいえ、そういうのは習っておりませんでした、それに、わたくしはお嬢様というわけでもないですし。」
お嬢様じゃない?リリアの立ち振る舞い的に、どう見てもお嬢様だろう。
この国はメイドのしつけがそこまで厳しいのか?
いや、ミューゼを見るにそうではない。三十路の年長ならともかく、どう見ても十代そこらのリリアが同輩のミューゼにそこまで差をつける理由がない。
うーん、あやしい。
「そう?かなり品がある振る舞いをしてるから勘違いしたのかな、出身はどこなの?」
「王都です、小さい頃から王宮で勤めをさせていただきましたので、立ち振る舞いは先輩方からいっぱい叩き込まれました。」
「ふーん、ミューゼは?彼女は新参者?」
「いいえ、ここに配属される前はあった事はありませんが、彼女もかなり長く王宮に勤めていたと聞いています。」
なのにこの差?
「でもミューゼは君のような完璧な振る舞いができてないよ。」
「大変申し訳ございません、ミューゼはずっと聖女さまのことを憧れていて、きっと憧れの聖女さまのそばにいて緊張してしまったと思います。」
「そうか、ならいいが、朝の支度だよね、頼むわ。」
なんかうまく躱された気もするが、そこまで追求しないといけないことでもないし、一旦放置する。
「はい。」
鏡の前に座り、髪の毛をリリアに解かしてもらいながら、彼女の表情を観察する。昨日はいろいろありすぎてリリアの顔をよく見る機会がなかったが、いま見てみるとなんだか昨日の国王親子とちょっと似てる気がしてきた。
うーん、まさか国王の隠し子とかじゃないよな。
ますますあやしくなってきたぞ、あとミューゼにもいろいろ聞いてみるか。
「聖女さま?」
「うん?なに?」
おっと、ちょっと自分の世界に入り込みすぎたか?
「お化粧はいかがなさいますか?」
化粧?なんだか久々に聞いた言葉だな。
地球にいた時は家ほとんど出ないし、家出たとしてもだるくて化粧なんてする気もなかったからな。でも、今の顔で化粧する必要なんてある?
「わたしに化粧が必要だと思う?」
「い、いえ、とんでもございません、化粧などしなくても聖女さまはお美しゅうございます。」
いや、別にそういうつもりで言ったわけではないのですが。
ドン、ドン、ドン
「ミューゼです、よろしいでしょうか?」
「続けて、入りたまえ。」
リリアに身支度を続けさせ、ドアの向こうのミューゼに入室許可を出す。
「朝食の準備ができましたので、手伝いにまいりました。」
「聖女さま、今日の服装はいかがなさいますか?もしすでにお決まりでしたらミューゼに取りに行かせます。」
「そうね、適当でいいわ、あ、ミューゼ。」
「は、はい。」
「ミューゼがわたしに着てほしい服を持って来るといいよ。」
確か聖女に憧れてるって話だよね、うぬぼれかもしれないけど、自分の選んだ服を憧れの相手に着せられるというのは嬉しいことなんじゃない?あくまでわたしならそう思うだけだけど。
「え、わたくしがですか?そんな恐れ多いです。」
え、そうでもない?それとも照れてるとか?
「そう、じゃリリアが選んできて。」
「かしこまりました。」
「ま、待ってください、ミューゼが選びます、いえ、選ばせてください!」
おお、どうやら憧れってのは本当みたいだね。
「わたしはどっちでもいいわ、リリアがいいなら。」
「ふ、わかりました、グレン様から伝言を頼まれましたので、ミューゼさんが行ってきてください。」
許しをもらい、ミューゼは逃げるように部屋から消えていった。
「やった!」
ミューゼが出たドア向こうからうっすらと歓喜の声が聞こえた。
「申し訳ございません、ミューゼが落ち着きがなくて。」
「いや、かわいいじゃないか、リリアもちょっとぐらいははしゃいでもいいと思うよ。」
「いえ、わたくしはその、いいです。」
「そう?ところで、さっきグレンからの伝言があると言ってたよね?」
「はい、確か昨日聖女さまがおっしゃった資料の準備ができましたので、それを説明するため会議を開きたいとのことです。」
これはまた面倒な、戦争手伝う気サラサラないから、会議って言われてもな。
「資料だけ送ってくれ、会議はその後に考えると伝えて。あと、ついでにわたしの昔使ってた装備とか、もしちゃんと保存されてたのなら、その所在も聞いといてくれ。」
あれの存在がどうしても気になる、二度と使うつもりはないが、自分の把握してないところにあると考えると落ち着かない。
ガチャ。
「聖女さま、服をお持ちしました。」
「うん、リリア、今言ったことをグレンに伝えてきなさい、その返事で今日の予定を決めるから。」
「はい、では失礼いたします。」
リリアが退室するのを見送ったあと、ミューゼの方へ手を出す。
「さて、ミューゼちゃんがどんな服を選んだのか見せてもらおうかな。」