第 67 話
「これって荒れているのか?」
準備を済まし、わたしたち例の青色のオーロラの前まできた。
朝の日差しもあり、昨晩と違って薄っすらとしか青色が見えなかったが、この境界線を超えるとまったく別の世界景色が見える。
「うーん、外ではわかりませんね。」
マンティコア原素帯、王国内最大の原素の地であり、その面積はラスタリア王国の国土面積の五分の一を占める、そしてこの原素帯には他の原素の地違う点がひとつある、それはこの原素帯が潮汐のように周期的に拡張と縮小を繰り返していることだ、この特徴こそがこの原素帯には主があるという噂が立つ原因でもある。
「それもそうか、ミューゼは雑原素石持っている?」
原素の地、すなわちひとつの原素だけが集う場所だ、ひとつ原素の過度な集中によって他原素は排除され、複数の原素を必要とするほとんどの生物はこのような場所で生活することが不可能である。
が、このような場所は往々にして宝が眠っている、単一原素の集中によって生み出される高純度の原素石、原素生物から取れるレア素材など、どれも高価なものだ。
そんなお宝を手に入れるため、人間はある魔術を生み出した、それはすべての原素を隔絶する原素障壁である。
魔術のなかで珍しく原素を必要としない完全に精神力と魔力によって構築された原素障壁は障壁内部と外部の原素移動を隔絶し、中で雑原素石で原素を補充し続ければ問題なく原素の地を移動できるという。
「申し訳ございません、持ち合わせていません。」
「そっか、一緒に行動するから大丈夫と思うが、念のため何個か持っておいたほうがいい。」
何個か雑原素石をミューゼに渡し、わたしはすかさず原素障壁を発動した。
「さあ、いこうか。」
青いオーロラを通り過ぎ、わたしたちの目の前に広がるのは文字通りの一面の青だった。
左見ても右見てもまるでパソコンのブルースクリーンのような青、幸い原素障壁のおかげで自分の周りの十メートル範囲内は地面が青い以外は普段通り、でなければ歩くのも一苦労だ。
「これは...確かに荒れていますね、お嬢さま。」
「うん?特に何も...」
視界は真っ青何も見えなかったので、すこし疑問に思ったが、ミューゼを信じて探査魔術で探ってみたら驚愕した。
普段数キロ先まで探査できる魔術が障壁を出た瞬間、原素の欠乏で急激に弱まり、結果的に数百メートルしか探査出来なかったにもかかわらず、十体ぐらいの原素生物がこの近くにいるという結果が帰ってきた。
「さすがに普段はこんなにいないよな。」
「はい、そもそも原素帯が収縮する時に備える必要があるため、原素生物たちがこんなに外側にくることなんてありません。」
「これは愉快な旅になりそうだ、幸い物資は多めに用意しといたし、戦闘を避けながらゆっくり進もう。」
エレスたちが楽しい旅をしてる一方。
王都、双蓮宮。
ぱっ!
「ほら、もっと堂々としなさい!聖女さまはこんな縮こまったりしませんわ!」
「痛っ!リリ姉強く叩きすぎっすよ。」
思い切り背中を教鞭で叩かれたナディが背中をさすりながら文句を口にした。
「頼んできたのはそっちでしょう?あとそのリリ姉というのもやめなさい!」
「確かに協力してって頼んだけど、叩いてとは頼んでないよ~。」
「何を言っている、今のあなたに聖女さまの真似なんて到底無理だから教育して上げたでしょう?」
「でも今リリ姉以外にばれていないし、このままやり過ごし...」
ぱっ!
ナディの言葉が終わるのを待たずに重い一撃が彼女の背中に炸裂した。
「痛っ!」
「そんなわけありますか!騎士会の騒動のおかげでみんなソワソワしてるから気づいていないだけですよ、この双蓮宮わたくしとミューゼ以外のメイド何人いると思いますか?」
「わかった、わかったから、もう叩かないで、リリ姉もしかしてドS?今の絶対腫れたよ~」
「あなたの分厚い皮がこれぐらいで腫れるわけないでしょう?」
「乙女になんてことを!分厚くなんかないよ、ほら、こんなにぴちぴちでぷにぷにだよ。」
そう言いながら、ナディは鏡の前で自分の頬っぺたを指の腹で何回か押した。
「はあ、なんでこんなことに、ミューゼもいなくなっちゃうし、どうやって報告すればいいんだが...」
能天気なナディを見て、リリアは思わずため息をついた。
「そこは安心していいよ、リリ姉、ミューゼさん、いやミューゼさんの代わりになる人なら夜には到着します。」
「は?どういうことですか?」
「自分も詳しくはわからないんで...」
「聖女さまがそう言ってたってことですか?」
「それは...アハハ...」
ナディはあからさまに目を逸らした。
「はいはい、まあ、解決できればそれでいいですわ。」
リリアに協力を仰いだとは言っても、ナディは彼女にすべてを話したわけじゃない、言い付けられた、試練のこと以外にも、エレスとの連絡方法のこと、エレスが国を出ようとしていることも隠している。
「そう、最後に師匠が何とかしてくれるから、そんなに厳しくしなくても...」
ぱっ!
「それはそれ、これはこれよ、さあ、聖女としての風格を見せなさい。」
「ちょ、ちょんなー。」
夜。
一日中リリアに「教育」されて、ぐったぐったになったナディがベッドに倒れ込んで、眠ろうとした時。
「聖女さま。」
自分しかいないはずの部屋の中で突然声が響いてナディはびっくりして飛び上がった。
「はっ、だ、だれ?!」
ナディが声がした方へ向くと、いつの間にかベッドの横に二人の女性が立っていた。
「若聖女さま...と呼べばよろしいでしょうか?わらわは聖棘の荊棘と申します。」
「同じく聖棘の龍牙です。」
もしこの二人が刺客だったら、ナディはとっくに死んでいるだろうけど、幸い二人はただ礼をしながら自己紹介をするだけだった。
「聖棘...ああ、あなたたちが師匠が言ってた...」
「わらわたちはミューゼの連絡でここにきましたので聖女さまがどういった言葉を残されたのはわかりませんが、たぶんわらわたちで間違いないでしょう、では。」
そう言って、赤髪の女性は一歩を踏み出し、そのきれいな顔をベッドで座っているナディの顔に近づかせ、ナディの目をまっすぐ見つめた。
「これは一体どういうことなのか、教えていただけないでしょうか?若聖女さま。」