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グラントゥギア 転生聖女放浪編  作者: ジャックス・R・ドンブリ
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第 66 話 

 監察院が目を光らせているとわかったあと、わたしたちは最速でライアン村を出て、もともと寄る予定だったマドレーも素通りし、直接マンティコア原素帯の近くまで駆け抜けることにした。

 幸い、途中でナディが助けを求めに来たというエビソードはあったものの、面倒な魔獣も人狩りも出会ってなかったので、どうにか夜が更ける前に原素帯の外にある野営地に到着することができた。

 行商人から臨時に借りたテントの中でわたしはテントの入り口の布をすこしめくって外を覗いた。

「ここっていつもこんな感じなのか?」

 テントの外は賑やかというか、酔っぱらいどもが飲んで、はしゃいで、吐いての繰り返しのカオスな光景だった。

「どうでしょう、わたくしもよくここに来ているわけではありませんので、ただ、ここのいる人みんな、明日の夜ここにちゃんと帰れるかどうかわからないので今精一杯楽しんでいるのではないかなと思います。」

「それもそうか、荒野で、しかも明日はより危険な原素の地に入るわけだもんな、頭のネジを一本や二本飛ばさないとやっていけないだろう。」

 野営地から一や二キロぐらい離れた場所でまるでオーロラのように空から垂れる青い光を輝く原素の「幕」を一目見てわたしはテントの入り口を閉めた。

「ミューゼ、悪いけど、警戒魔術頼めるか?」

「はい、もちろんです。」

 防音結界などいろいろ準備を終え、二人は明かりを消し、真っ黒なテントの中で肩を並べて横になった。

「ごめんね、テント一つしか借りられなくて。」

 本当は魔術で小屋を作るということもできるんだが、目立ちすぎるとミューゼに止められ、結局一つのテントで寝ることになった。

 うん?なぜテントを魔術で作らなかったって?作れないからだ、普段りんごしか描かない人にいきなり馬描いてっていてうまく描けると思う?それとおんなじだ、この世界の魔術はなんの予備知識もなしにイメージしたらなんか出てきちゃったみたいな便利な代物ではないのです。

「いいえ、エレスさまと一緒のテントで寝させて頂いてありがとうございます。」

 え?それってどういう意味、ミューゼちゃん、あんまり変なことを言うとおじさん勘違いしちゃうよ。

「コホン、そのエレスさまっていうのをやめて、なんかあれだから。」

「あれ...ですか?ではせい..じょさまはだめでしょうから、ええと、お嬢さま?ご主人さま?」

 ご主人さまは...聞きたい...けど、流石にやばい、わたしの理性ゲージ的に。

「いや、そうじゃなくて、そのさまっていうのをやめてほしいなぁ、なんて...」

「それはダメです!わたくしはエレスさまのものですから、そこははっきりしないといけません!」

「そこはわたしのものだからわたしが呼んでほしい呼び方で呼ぶべきなのでは...」

「...とにかくダメです!いやです!」

 そこまで嫌がることなのか?変なところでこだわりものだな。

「わかった、わかったよ、じゃお嬢さまで頼むよ、さすがにエレスさまは個人情報ダダ漏れだし、偽名とか使うときはボロがでそうだしね。」

「それでしたら、ご主人さまのほうがよろしいのでは?男性に変装された時もあるでしょうから。」

「それはそうだが、わたしの気持ちの問題だ。」

「なるほど、わかりました、お嬢さま。」

「うん、もう寝よう、明日早めに起きて準備しないといけないから。」


 特にハプニングもなく一夜が過ぎ、わたしは双蓮宮で養われた生活習慣のおかげで朝早く起きることができたが、もう一人のかわいい子ちゃんはそうじゃなかった。

 隣のちょっと離れたところで寝ていたミューゼがいつの間にかコアラみたいにわたしの体に絡んでいる、顔に甘い微笑みを浮かべながら、両手でわたしの右腕をしっかりと絡み付いていた、彼女の胸のふくらみも自分の二の腕にみっちりと押し付けられ、その柔らかさと弾力を激しく主張している。

 だが、それは一番の問題ではない、一番の問題はわたしの右手が今ちょうど彼女の太ももの間に挟まれていることだ、しかもかなり付け根に近い部分で。

 すこしでも指を動かせば当たってはいけない部分に当たってしまうというドキドキ感が最高の眠気覚ましになって、わたしの起きたばかりの頭が一瞬で冴えた。

 さて、ここで問題です。

 わたしは今野性な欲望のままにミューゼを強引に押し倒し、しゃぶりつくすべきなのか、それともすこしずつ指を動かし、彼女の体をゆっくりほぐして、温まらせてから優しくいただくべきなのか?

 どっちも結局は食べるじゃないかって?こんな状況食べない選択肢なんてあるはずがないんだろう?!

 しかし残念ながら、わたしが変な妄想をしている間、隣のミューゼが起きてしまった、そして自分の今の状態に気付いた彼女は慌てて飛び上がった。

「あ、も、申し訳ございません、聖女さま!」

 正直本当に食べるつもりはないんだが、それでも内心すこし残念と思ってしまうことを隠し、わたしも起き上がった。

「もう聖女ではないよ、昨日言ったでしょう?」

「申し訳ございません、つい慣れで呼んでしまいました。」

「いいよ、昨日の今日だし、寝起きだしね、さあ、準備をして、今日はなるべく早く原素帯に入りたい。」

 軽く準備を済まし、わたしたちは変装して野営地の中心、行商人たちが集まる場所へと繰り出した。

「しっかし、人多いな、猟師ってみんな警戒心が強いじゃないのか?」

「ここは狩猟組合といくつの商会が共同で作った野営地です、こんなところで狼藉を働いたら、たとえこの場を生き延びられたとしても、後々大変な目にあいますのでここは荒野で数少ない安全地帯といっても過言ではありません。」

 昨日飲んではしゃいでいたからか、自分らみたいに朝早く起きているパーティーは少なく、野営地はえらく静かだった。

 こんな野営地をしばらく歩いていると、わたしはテントではなくちゃんとした小屋が立ち並んだところにたどり着いた。

「よぅ、二人とも見ない顔だな。」

「ええ、戦争起きそうなんで、ここで一稼ぎして国を出ようと思ってきたんだ。」

「ああ、最近お前らみたいな人多いよ、で、なにをお探しで?」

 挨拶代わりの世間話のあと、商人はさっそく切り出した。

「ふ、そうだな、食料、魔導石、あとは雑貨もあれば見てみたい。」

「どれぐらいお求めで?」

「食料を二人一か月ぐらいの量で、魔導石は...1クラットのやつを100個頼む。」

「百個?!お前ら原素帯に住むつもりなのか?!」

「言ったでしょう、この国を出るって、このまま原素帯を通って国境まで向かうつもりだ、国境を通った後のことも考えて多めに用意したいだけだ。」

 わたしの言葉を聞いて商人はすこし怪訝な表情でこっちを見た。

「それでも多い気がするが...まあ、たくさん買ってくれることに文句はねぇ、待っててな。」

 そう言って彼は小屋の中へと消え、しばらくしたらパンパンに詰め込んだデカい麻袋二つを引っ提げてきた。

「食料だ、オマケもしといたぜ、あとはこれ。」

 麻袋をテーブルに置き、商人はさらに懐から小袋を取り出した。

「合計五万ロッドだ、雑貨の方は悪いけど、うちではあんまり扱っていないでね、ほしいなら先に進んだとこでいい店あるから。」

「あったらついでにってだけで、なかったらそれでいい、五万か。」

「ええ、こんなところで商売しているんでね、すこしは値が張るけど、商品はどれもいいものだぜぇ。」

 正直値段に文句がるわけではない、問題はそんなに現金がないんだ。

「わ、俺が払うよ。」

「え?大丈夫なのか?」

「はい、家を出る前に預かっていた金も持ってきたので。」

 ああ、王宮の金なのか、すこしあれだが、まあ、大丈夫だろう。

「毎度!こんだけ買ってくれたお礼に、ひとついいことを教えてあげよう、今年の原素帯は荒れていて、ぬしが目ぇ覚ましたって噂だぜ、入るなら気ぃ付けた方がいいぞ。」

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