第 64 話
「これでわたくしはエレスさまのものになりましたね。」
ベッドに座って乱れた服を整いながら、ミューゼは意味深な言葉を口にした。
「うぅ。」
彼女の言葉にわたしはなにも言えなかった。
勘違いするなよ、わたしは術式の刻印以外何もしていない、服もあくまで作業しやすいように首から鎖骨あたりまではだけてもらっただけだ、やましいことは何一つしていない、が、彼女を自分のものにしたのは間違いではない、今なら彼女になにをしても彼女は逆らえないだろう。
そう思うと、目の前にはさっき彼女の首筋に刻印をする時に見た景色が浮かんでくる、その白くてきめ細かい肌、首筋と鎖骨が描く凹凸、触れた時の感触さえまだ指先に残っているように感じた。
一瞬でいろんな思いが脳裏をよぎり、わたしは思わず唾をのんだ。
「エレスさま?どうかなさいました?」
いつの間にかすでに服を整ったミューゼは目の前に立ち、覗き込んできた。
「い、いや、なんでもないよ。」
突然目の前に現るミューゼの顔にわたしは思わず目を逸らした。
我ながら欲望が恐ろしすぎる、あっ、今思い出したが、ミューゼついてきてしまったから、もともと予定してた欲望発散計画がいきなり頓挫してねえ?やばい、やばすぎるぞ。
わたしが自分の欲望の爆発を心配しながら代替プランを考えてると、ミューゼが話しかけてきた。
「エレスさま、実は一つ報告したいことが...」
「ああっ、なんだ?」
「実は先祖様がエレスさまを追いかけている途中で監察院の人とあってたんですよ、その人たちもどうやらエレスさまを尾行していたようで、先祖様はその二人処理したんですが、この先にも待ち伏せされているかもしれませんので、お気を付けたほうがよろしいかと。」
え?嘘だろう、奇跡魔術師のユナならともかく、監察院の人まで?
「監察院に奇跡魔術師でもいるのか?いや、奇跡級が戦って気付かないはずがないわ。」
「そのう...」
わたしが困惑してると、ミューゼが恐る恐るに手を上げた。
「監察院の人は中級魔術師です。」
マジか。
「恐縮ですが、エレスさまはやはり先祖さまと同じ時代の人でしょうか?」
別の世界から来たんだが、言ったらややこしくなるから...
「まあ、そんな感じだ。」
「やはりそうですね、現代の魔導技術にとって古い警戒魔術はザルと変わりませんので容易に掻い潜られます。」
ああ、なるほど、それもそうか、千年だもんな。
こう考えればやっぱりミューゼの存在はありがたいか、どうせもう後戻りはできないし、もういっそ美少女との生活を楽しもう。
「そうか、教えてくれてありがとう、しっかしそうとなれば前に用意した物資も危険かもしれない、さっき取りに行かなくてよかったわ。」
よく考えたら自分の脱走計画なんて穴だらけだ、この世界に対する知識も、資源も何も無いからそんなもんだろうといったらそれまでだが、これからはもっと気をつけないと今度みたいに運よく行ける保障はない。
「うん、もうこれ以上この村に滞在しても仕方がない、早め出発しよう、ミューゼ、体はもう大丈夫か?」
「はい、いつでも出発できます。」
一方、双蓮宮の寝室にて。
「ナディアーナさま、これはどういうことですか?」
寝室の床にカルシアの姿をしたナディが正座して俯いている、そしてその向かいには珍しく眉を上げたリリアが立っている。
「な、なんのことでしょうか?わたし、ナディアーナじゃないからわかりませぇん。」
「バカにしているんですか?ナディアーナさま。」
ナディの無理があるごまかしを聞いて、リリアはそう言った、口調かなり落ち着いているように聞こえるが、ナディはその下にある静かな怒りを感じ取った。
「い、いや、そんなつもりは...」
「ではなんですか?聖女さまに口止めされているんですか?」
「それは...」
「わかりました、けど、もうバレてしまいましたから、今さら隠しても仕方がないでしょう?」
やさしく諭すもだんまりを決め込むしかしないナディにリリアはため息をつく。
「聖女さまと連絡は取れますか?もし取れるなら、指示を伺ってみてください、わたくしは今からお茶を用意してきます、この時間を有効活用してください。」
そう言って彼女はドアのほうへと向かい、そして彼女の手がドアノブにかけた時。
「このことは絶対に口外しないと約束しますので、安心してくださいと聖女さまに伝えてください。」
ガチャ。
リリアが部屋から出ていったのを見てナディはほっとしてそのまま床へと倒れ込んだ。
「はあ、どうしよう、バレるのが早すぎるよ~」
彼女は懐から一冊のノートを取り出し、ペラペラとめくり始めた。
「師匠怒るのかな...返事してくれなかったらどうしよう...」
真っ白なノートを見てナディは床でゴロゴロし出した。
「ああ、もう、バレちゃったものは仕方がないのよ、ナディアーナ。」
覚悟を決め、ナディは床をテーブル代わりに突っ伏して書き始めた。
「ししょーう、お元気ですか、ええと、うーん、あたしは元気ではないです、実は自分が偽物のこと、リリ姉にバレました、ほんとにすみません、あたしはどうすればいいですか?」
書き終わってナディそのまま床に寝転がって天井をぼうっと見つめた。
「師匠返事してくれるのかな、リリ姉どうするのかな、あたし追い出されるのかな...」
ナディがいろんな思いを脳内で巡らせている時、隣からのわずかな魔力反応が彼女の妄想を止めた。
「師匠!」
条件反射のようにナディの体はびくっと起き上がり、ノートを手にした。
ノートを開くと、ナディ自身が書いた文字のしたに、文字が一つ一つゆっくり浮き上がってきている。
「ナディ、わたしのことなら気にしなくていい、聖女の試練のことは君自身のためにも秘密にしたほうがいいと思うが、ほかのことなら別に何を伝えても君の自由だ、とはいっても指示を求めてきた君にいきなりそんなこと言っても困るでしょうから、一つだけアドバイスをしよう、リリアを信じてみてください。」
「リリ姉を信じる、ですか...」
刻印の過程もうちょっとエ〇く描こうと思ったんですが、18+のラインがよくわからないので、さすがにやめました、気が向いたら18+版のやつ作るかもしれません。