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グラントゥギア 転生聖女放浪編  作者: ジャックス・R・ドンブリ
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第 57 話 

 ラスタリア王国 王都カルセル 下町 イーグス街道国立孤児院

「院長、そのう、ナ、あ、向こうからはなにか返事あった?」

 院長室内、一人の男の子が院長に聞いた。

「向こうとは?」

 しどろもどろにしているガルフを見て、パーロッドは内心笑いながらからかった。

 ちなみに院長というのはグレンが一般の孤児院の院長が庭の子供たちをまとめるのは難しいと判断してパーロッドに当然条件付きでその任を任せたがためだ。

 そんな庭の女の子たちからガルフのナディアーナへの恋心を聞いた新任の院長さんは最近ガルフをからかうのが趣味になっている。

「昨日仕事の報告を送ったよね、その、向こうだよ。」

「昨日の今日で返事なんてくるわけないだろう、それにたとえ返事あったとしても普通に郵便で送られるから、ナディアーナは来ないぞ。」

「べ、べ、べつにナ、ナディアーナなんて聞いてないが...あ、どころで尾行されたことも報告してたか?」

 テンパりすぎるガルフがおもろいと同時に、彼にしてはまともな話題の逸らし方でパーロッドはすこし驚いた。

「そんなこと報告してどうする、あんたらを尾行するやつなんてどう考えても監察院ぐらいだろう、それが例の方が送った監視役ならこっちが気づいているなんて報告しない方がいいし、もし例の方じゃなかったら尚更俺たちが首を突っ込むべきことではない。」

「院長がそういうなら...」

 話題逸らしがうまくいってほっとしたのか、ガルフは一気に肩の力が抜けた感じだった。

「まあ、我々は言われたことをすればいい、それ以上のことは分不相応ってことだ、そんなことより、ナディアーナに手紙とか送らないのか?」

「は?なんて俺がそんな、クソ、用事は終わったから戻るぞ。」

 パーロッドの笑いそう、笑わない表情を見て、ガルフは羞恥心が爆発して逃げ出した。

 はっはっはっはっは、今日も院長室の廊下に笑い声が響いた。


 同じく下町 とある地下集会所

 もともと地下駐車場として使用されたこの地下集会所は今明らかに定員オーバーなぐらいぎゅうぎゅうと人が詰め込まれている。

 みんな互いの足を踏んだり、肩をぶつけたり、加えて駐車場からの改造が甘かったのか、換気システムも大変弱く、汗のにおいやらなんやらでこの集会所は今王都一の不快な空間だと言っても過言ではないであろう。

 そんな不快な空間の壁際に石造りのステージがあり、今その上に数人の男が立っている。

「みんなさん、本日この聖女騎士会の第一回全体集会に参加していただき、誠にありがとうございます。このステージに立ってみんなさん一人一人の顔を見て、聖女さまのおかげで騎士会がいつの間にかこれほどの規模になったと会長として感無量です。思い返せば、数年前、この騎士会の前身、聖女さまペロ...」

 貴族出身のサーゴーがステージの上気持ちよく演説を発表しているが、彼は一つだけ忘れている、それはこのステージの下にあるのは彼の部下でもなんでもなく、欲望にまみれた獣たちであることだ。

「そういうのいいから、さっさと聖女さまを出せ!」「降りろ!くっせえおっさん見に来たんじゃねえんだぞ!」「黙れ!本題始めろ!」

 そういう罵詈雑言と共に汗まみれのタオル、半分水入っているボトル、脱ぎ捨てられた靴下、そして謎の生臭いにおいを発しているティッシュがステージの上に飛んできた。

「ちょ、ちょっと待って!」

 飛んでくる物体を避けながらサーゴーは観客たちを止めようとしたが、当然失敗に終わり、一部フェンスを越えてステージに上がろうとする観客さえ現れた。

「聖女さまの言葉聞きたいなら今すぐ黙ってろ!」

 心の中で烏合の衆と罵りながら、サーゴーは最終兵器を持ち出した。

 魔術で拡大されたサーゴーの叫び声が会場に響き、観客たちの声を抑えた。

 ステージに上がろうとした者たちも顔を見合わせ、大人しく引いて、さっきまで嵐のように荒れた会場が一瞬で静けさを取り戻した。

「はあ、わたくしが聖女さまと連絡を取るのにどれだけ苦労したか、騎士会を大きくするのにどれだけ心血を注いだか、あの日...あ、はい、はい、わかったから登ってくるな!」

 また暴れだしそうな観客たちをもう一度止め、サーゴーはやれやれと隣のスタッフに指示を出した。

「コホン、まず先に言っておきますが、聖女さまは来ておりません。」

「は?ふざけんな!」「死ね!」「騙したな!この野郎!」

「待て待て待て!騙したのは悪かったが、聖女さまのためです、それに聖女さま本人は来ておりませんが、言葉というか、映像を預かっております。」

「ならはやく出せ!」「そうだ、出せ!」

「出すさ、しかしその前に聖女さまの今の状況について説明しなければならない、聖女さまを復活したのはこの国の王家、イーノー家であるというのはみんなご存知だと思いますが、そのイーノー家に聖女さまは軟禁されている。」

 軟禁という言葉に反応して会場は一気に騒ぎ出した。

「みんなさん!」

 呼びかけで観客たちの気を引き、サーゴーは続けた。

「みんなも疑問に思っているでしょう、聖女さまほどの力を持ってしてなぜイーノー家ごときに軟禁されると、それはみんなさんのためです!」

 ここでサーゴーはわざと話を中断し、観客たちの反応を観察した。

 なぜだと疑問に思ってる人、自分のためだと聞いて興奮する人、彼らの反応を映像魔導器で納めたあと、続ける。

「聖女さまが王宮から出ようものなら、王家は全力で止める、さすればラスタリア王国の戦力は大きく削がれ、来る戦争で国民のみんなは死に絶えるでしょうと言われたのです。聖女さまは慈悲深きお方から、みんなさんの命のために囚われることに甘んじたのです。では映像をご覧ください。」

 スタッフが持ってきた設備で会場の周囲の壁に映像が投影された。

「みんなさん、はじめまして。」

 映像の中の人は照明が昏いせいで、輪郭があいまいだったが、ここにいる全員がただ者じゃないので、一瞬で聖女本人であることがわかった。

「まさか千年経ってもなおわたしのことを慕ってくれる人がいるとは驚きもあり、嬉しくもあり、ふ、突然挨拶をと言われたのでわたしもなにを話せばいいかわからなくて、ここは感謝と祝福の念を込めて、みんなさん命神のご加護があらんことを。」

「ありがとうございます!!!」

 観客が各々感謝やら、なんやらで映像の内容を嚙みしめているところ、サーゴーは口を開いた。

「コホン、少々短い映像ですが、聖女さまのおっしゃる通りわたくしが無理を言ってお願いした挨拶なので...」

 たったの二言の挨拶で不満を漏らすかもと観客の顔色を伺ったサーゴーだが、ステージのしたには誰一人彼の言葉に反応を示していなかった。

「えぇぇ、みんなさん!みんなさん!みんなさん!」

 大声で観客たちの目を覚まし、サーゴーはその注目の中で拳をあげた。

「これだけ我々を思ってくださる聖女さまをイーノー家に軟禁されたままにしていいのか!我々はこのまま聖女さまの足を引っ張って生きていていいのか!否!」

 サーゴーの言葉と共に、人混みの中に紛れ込んでいるスタッフたちが会場にチラシをバラ撒き始めた。

「今度は我々が聖女さまを助ける番だ、聖女さまはイーノー家の聖女さまではない!みんなの聖女さまだ!さあ、同志たちよ、チラシを手に取れ!決行日は五日後、わたくしは中央広場でみんなさんを待っている。」

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