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グラントゥギア 転生聖女放浪編  作者: ジャックス・R・ドンブリ
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第 54 話 

すみません、最近vrChatにハマってて更新遅れました。

「左だ、小僧、もっと周りをよく警戒しろ、精神力も使え、精神力を。」

 言われた小僧、もとい田中は反射的に左手を上げ、土虫(トールウオーク)に首を嚙まれるのを防いだが、代わりに左手を嚙まれ、そしてそのまま六本の足とそのミミズのような体に巻き付けられた。「ああああ!」

 腕の激痛とまるで全身の熱が左腕から流れていくような急激な失血で田中の視界が霞み始めた。

「おい、踏ん張れよ、小僧、土虫(トールウオーク)ごときに殺されるほど雑魚じゃないよな、はは。」

「クソぉおお!」

 シーラの煽りが効いたのか、それとも危険時のアドレナリンが効いたのか、田中飛んで行きそうな意識を取り戻し、右手で握っている魔導銃で飛び掛かってくるもう一匹の土虫を打ち抜き、そのあと銃を捨て、腰にあるナイフを抜き取り、自分の左手に向かって思い切り振り下ろした。

「ああああ、クソ、クソ!」「うえあああ!」

 田中の絶叫と土虫の悲鳴が同時に洞窟の中を鳴り響いた。

「はあ、あ、はあ。」

 深呼吸で息を整い、土虫の頭部と自分の左腕に深く刺さったナイフを抜き、まだしがみついてくねくねともがいている土虫の体を引き裂くと、大量の粘液の噴出と共に土虫の動きも止まった。

 巻き付いた土虫の残骸をはがし、田中はそのまま力が抜けて地面に倒れた。

「おいおい、たとえ戦闘が終わっても、倒れ込んではダメだろう、休憩は背中を壁にし、いつでも襲撃に対応できる体勢でするようにと教わってなかったのか?」

「そ、そんあ、ことき、にする余裕ない、よ。って、かたすけて、くれてもいいじゃ。」

 必死に肺を膨らませ、田中は失血でカラカラ喉と口を開かせてシーラの不義を訴える。

「はあ?これはあんたの訓練だろう?それにうちはたすけてやったんじゃない?うちじゃなかったら嚙まれるのは腕じゃなくて首だったぞ、感謝しろや。」

 口をかっぴらいてぱくぱくと反論しようとするが、もはやそんな余力もなく、田中はそのまま意識を失った。


「あ、いたっ、ここは?」

「ふ、ふははは、今の聞いた、こってこってすぎだろう、場所も変えてないのに、ここは?って、洞窟だっつの。」

「もうやめてあげて、シーラちゃん、少年は起きたばかりで混乱しているだけだわ。」

 二人の声を聞いて、田中は自分の状況を思い出した。

 両手で体を起こし、目を覚ますように自分の両頬を叩いてみるとふっと気付く。

「治った。」

「治った、じゃねえよ、うちが治してやったんだよ、このボケ。」

 そういうことかと思いながら、服をめくって傷跡を確認するとまるで噓のように傷跡がきれいさっぱりに消え、服の破けた穴のだけが土虫に嚙まれたということが事実だと語っていた。

「すごいな。」

「だろう、感謝しろや。」

 シーラはドヤっているが、田中が感心しているのは彼女の腕ではなく、魔術そのものだ。

 そもそも田中は治癒術者の腕を判断できるほどの知識はなく、ただ地球の技術では到底無理な奇跡を目の前にして思わず感想を漏らしただけである。

 今すぐそれを口にしてこの煽りチビに恥をかかせたかった田中だが、治療してもらったばかりでさすがにとぐっと堪えた。

「ありがとうございます。」

「ほう、やけに素直じゃん、いいぞ、いいぞ。」

 田中の反応がよかったから、シーラは彼の肩叩いて褒めた。

「さて、小僧の訓練とやらも一応済ましたし、さっさと残りの仕事も終わらせようか。」

「しかし、少年はどうするつもりかしら?」

「連れて行きましょう、さっきほどの訓練で大分消耗されましたし、ここに置いておくのは危険すぎます。」

 ここでずっと黙っていたウォルトが提案してきた。

「そうだな、ゴン、面倒を見てやってくれ。」

「ええ、わかったわ。さあ、少年、あたしから離れないでね。」

 ゴンの差し伸べてきた手を掴み、そのまま引っ張りあげてもらった田中もおとなしく「わかりました」と返事し、ゴンの後ろに隠れた。

「うちとウォルトが先行するから、ゴンたちは離れてついてくるといい。」

 そう言って、シーラはウォルトを連れて洞窟の奥へと向かった。

「少年、怪我はもう大丈夫かしら?」

「あ、まだすこし疲れが残っていますけど、怪我はすっかり治っています。」

「そうか。」

 ゴンは頷きながら携帯していた魔道具から手甲と一体化した短剣のような武器を取り出した。

「そろそろあたしたちもいこう、疲れているところで悪いけれど、念のため警戒魔術だけ張っといてくれるか?」

「あ、はい、わかりました。」

 ゴンの巨体と似つかわしくない武器ですこし驚いたけど、よく考えたらこんな洞窟でドでかい武器を振り回せるはずがないので、これぐらいが限界かもと田中は納得した。

 二人が洞窟の中をしばらく進んでいくと、周りの壁に植物の根のようなものが散見できるようになった。

「これって例の...」

「ええ、情報通りなら大分近いところまで来ているかしら。」

 田中が周りの蔦を見て、思わず手を伸ばそうとすると、よこのゴンに腕を掴まれた。

「あんまり触らないほうがいいよ、伸ばした蔦にも感覚があるらしいから、触れると警戒されてしまうわ。」

「あ、すみません。」

「いいのよ、ここからは、っまって、シーラちゃん、今かなりちょうど根が張られているところに、うん、了解。」

 話の途中でどうやらシーラの連絡が入ったようだ。

「シーラさんですか?」

「うん、これからウォルトと二人で枯死蔦を片付けるだって、あたしたちは後ろから挟まれないように警戒を頼むって言ってたわ。」


 洞窟 中心部

「さて、攻撃はうちが担当で、防衛はウォルト、君に任せるでいい?」

 ゴンとの連絡が終わり、シーラはウォルトと作戦確認をした。

「問題ありません。」

 狭い通路の先にある大空洞の中心から広がる蔦のカーペットを見て、シーラは魔導器を握り締める。

「じゃ、まずは小手調べだ、発火(エトーザーレ)!」

 次の瞬間、真紅の炎がまるで枯死蔦内部から湧き出るように噴きあがった、その攻撃を受け、大空洞を覆った蔦がまるで波のように生き返ったように舞い上がった。

 そしてその蔦の波に呼応するように、洞窟内部土虫たちの咆哮が鳴り響いた。

「うるさいなっ!焔魔(エッセロット・)降生(フィカールザーレ)!」

「ええ?!ちょっとシーラさん!こんなところでそんなもの使わないでくださいよ!」

「話しかけるな、気が散る!」

 自分の至極まともな意見が怒鳴りで返され、ウォルトは呆れた顔で大空洞の天井を見上げた。

 十数メートルの高さある天井は今や赤黄色の霧に覆われ、その霧の付近の空気はまるで空間が歪んだように見えるほどに揺れている。

 その灼熱な雲から死の匂いを感じたのか、枯死蔦もその周りの土虫も一斉にその危険の源であるシーラに向かってきた。

 だがウォルトは恐れる様子もなく、後ろを振り返り、シーラとその後ろの通路の様子を確認した。

「まだか、面倒だな...」

 そうぼやいたあと、彼は肌が焼かれるぐらいの熱気に耐えながら、向かってくる魔獣に向かって武器を構えた。


たぶん次の話で田中回は終わりです。

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