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グラントゥギア 転生聖女放浪編  作者: ジャックス・R・ドンブリ
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第 53 話 

「コホン、作戦会議始めんぞ。」

 田中が自分とゴンをキレイにしたあと、シーラにも声をかけたが、ダメって言った手前頼めなかったのか、それとも男にされるのが嫌だったのか、彼女はしばらく沈黙したあと、断った。

 ウォルト?ウォルトは最初からキレイだった、彼を制限する権利も意思もシーラにはないから、特に自分でやってたんだろう。

「まずは今回も目的だが、ウォルトそろそろ話してくれないか?」

 この探検チームの裏事情で思いを馳せている田中を現実に引き戻したのはシーラの詰問だった。

「今回の目的は主に二つです、一つはもちろんそちらのお客様の訓練です、正直これについてはかなり予定からずれています、シーラさんが先行しすぎた原因で本来彼の訓練用の土虫が大分数が減ったので。」

「それは悪かったな、だがあんたもそれを止めてなかったんだろう?」

 謝るものの、ウォルトのせいにするシーラ。

「それについてはわたくしも反省しております。」

 そしてそれを顔色一つ変えずに受け流すウォルト。

「ふん、二つ目は?」

「二つ目はこの洞窟の調査です。実はこの洞窟の奥に枯死蔦(パテスグイン)があるという報告が...」

「本当なのか?」「まじで言ってんの?」

 枯死蔦(パテスグイン)という名前を聞いた瞬間、シーラとゴンは声を荒げた。

 そして田中がまた二人の反応に戸惑っている時、シーラはウォルトの胸倉を掴んだ。

「貴様、死にたいのか?!」

「ちょ、落ち着いて、あっ、お、おち。」

 シーラがウォルトの胸倉を掴んで揺らしているうちに、田中はゴンに枯死蔦(パテスグイン)とはなにかを聞いた。

「名前のとおり、もともとは精霊王国のパテス地方の植物型魔獣よ、向こうでは大したものではないけれど、連邦にきてからどういう巡りあわせなのか、土虫(トールウオーク)と共生関係になって、本来せいぜい一般の家ぐらいの大きさの枯死蔦(パテスグイン)が町一つを覆うほどの巨大な魔獣になったのよ。そして、その巨体を支えるために、枯死蔦(パテスグイン)が生息した地域ではほかの植物が育たなくなってしまうからこの国では枯死蔦(コシツタ)とも呼ばれているわ。」

 ゴンの説明を聞いて田中がさらに詳しく聞こうとしたところ、シーラはウォルトを離し、荷物をまとめ始めた。

「帰るぞ、ゴン、とんだ時間の無駄だ。」

「ま、まってください。まだ、まだ話は終わってません。」

「まだなにか?」

「安心してください、ここの枯死蔦(パテスグイン)はまだ全然成長できていません、実際ここの土虫(トールウオーク)の密度も低いし、上の植物もちゃんと生きているでしょう。」

「うーん。」

 シーラの態度が少し軟化する兆しが見えたところで、ウォルトはさらに畳みかけた。

「それに、わたくしたちの任務は蔦の駆除じゃない、調査だ、もちろん蔦の駆除もできたら追加報酬が出るけど、できなくても報酬は減ったりしませんので、ね。」

 手にした荷物をまた放り投げ、シーラは座り直した。

「ゴン。」

 しばらく考え込んだ後、シーラは口を開いた。

「あたしのことなら気にしなくていいわ、シーラちゃんのしたいようにしなさい。」


 田中たちが揉めてる一方、洞窟の外は別の揉め事をはじめている。

「あら、レイラちゃん、ここでなにをなさっているのかしら?」

 まるで羽根で肌をつかず離れずにふわっと撫でるような幻惑的な声がレイラの耳に届いた。

 男なら耳元で囁かれただけで堕ちるかもしれないが、レイラにはただ鳥肌が立つほど引いてただけだった。

「知ってるくせになにをほざく、貴様こそ何をしにきた?」

 姿は見えていないがそのあんまりにも特徴的な声を聞いたレイラは突然話しかけてきたものの正体が分かった。

 勇者召喚の儀を大統領に渡し、その後のサポートもしている謎の組織のメンバー、本名は不明、コードネームが幽霊という女だ。

「あら、いやね、かわいいレイラちゃんのために参りましたというのに~。」

 飄々とした声と共に、レイラの目の前の空間から一人の女性がまさにそのコードネームにふさわしく幽霊のように現れた。

 実際女性の姿はまさに大いなる巡りの出現以来、世から消えていた伝説の幽霊と呼ばれても違和感がないぐらいな容姿だった。

 異様なほどストレートにまとまった緑かかった銀髪、真っ白な肌に真っ赤な唇、どう見てもこの場にふさわしくない黒のドレス、加えてその地面から浮いている素足、どこぞの人間と幽霊の恋愛劇のヒロインとして出てきてもおかしくはない。

「わたしのため?ならいらないのでもう帰っていいよ。」

「あら、つれないですわね、この舞台も役者もみんなわらわが用意して差し上げましたのに。」

 確かにこの場所の存在も、シーラたちとここの作業員たちも全部目の前のこの女、いや、正しくはこの女の背後にいる組織が用意したものだが、レイラはちっとも感謝する気はない。

「ふん、自分らの無能さを隠すためだけでしょう。」

「そんな、ひどいですわ、わらわ傷付いてしまいますわ、しくしく。」

 ウソ泣きをする女性にレイラはわき目のひとつも振らず、逆に魔導器を取り出して連絡のチェックをし始めた。

「まあ、まあ、レイラちゃん、もし計画が失敗した時の保険として一芝居かますつもりでしょう?もう一人引き立て役を演じる人いたほうがよろしいと思うけれど、どうかしら?」

 レイラは意外さを感じた目で女の顔を見た。

「あんた、ほかにやることないのか?」

 嫌味のつもりでいったレイラだが、女性の反応はレイラの思った感じではなかった、レイラをからかうほど余裕を見せていた女性は触発されたように悲しみ表情になり、心なしかその特徴的なつり目も垂れたように見えた。

「やることならたくさんあるわ、けれどやりたくないの、今だけでいいから、そんな嫌なことを思い出させないで。」

 女性の言葉と表情に飲まれ、さすがのレイラですら一瞬心臓が鷲掴みされたような感じだった。

「なんてあなたみたいな人があんな組織に...」

「そんなこと、わらわが知りたいわ。」

 女性は聞こえないほどの小声でつぶやく。

「え?」

「ううん、運命、いや、命神の思し召し...かな。」

「命神?」

 女の突然の謎発言にレイラは困惑した。

「そんなことより、そろそろ計画開始の時間ではございませんこと?わらわの演技楽しみしてもよろしくてよ。」

「はあ、わかったよ、けど変なことするなよ。」

 もし立場が違ったら、こいつとはもっと仲良くできたかも。

 レイラは女性のきれいな横顔を見て、そう思ってしまった。

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