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グラントゥギア 転生聖女放浪編  作者: ジャックス・R・ドンブリ
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第 51 話 

 車から歩いて約二十分。

 先頭を歩くシーラが足を止めた。

「ここら辺かね。」

 ここ?っと疑問に思いながら田中が辺りを見回したが、草原は依然としてあの草原で特別なものはなにも見当たらなかった。

「こんな何もないところですか?」

「はあ、これだから、まあ、黙って見てろって、坊ちゃまよ。」

「その坊ちゃまって言うのをやめてもらっていいですか?」

 かなりバカにするような言い方なため、さすがの田中もすこし怒りが湧いた。

「なぜだ?事実だろう、坊ちゃま。」

「事実ではないです、僕はそういうのではありません。」

「ぷはは、はははっ。」

「いきなりなんなんですか?」

 突然笑い出すシーラに田中は声を荒げた。

「僕は坊ちゃまじゃありませーーんって、ははあ。」

 完全にバカにされた田中が怒りと屈辱感で爆発しそうなとき、シーラは振り返ってその唯一露出されている冷たい目で田中を見つめた。

「てめえの狩りごっこでこれだけ大勢が付き合わされてんだ、これが坊ちゃまじゃなきゃなにが坊ちゃまだ?あ?なめてんじゃねーよ、小僧。」

 その目込められている殺気に田中は気圧され、湧き上がったばかりの怒りもまるで氷水ぶっかけられたようにすうっと引っ込んでいった。

 田中が黙り込んでいると、シーラはふんっと嘲笑ったあと、再び背を向けた。

「時間を無駄にしたな、さっさといくぞ、こっちだ。」

「了解!」

 方向を変えてまた歩き出すシーラに優男のウォルトはついて行った。

 田中がどうするかと迷っていると、後ろから肩を叩かれた。

「気にしないで、気難しいところあるけど、根はいい人だよ、シーラちゃん。」

「あれが、いい人、ですか?」

「確かに怒るとちょっと怖いかもだけど、いい人わよ。さ、もう行きましょう、二人を見失ってしまうわ。」

 背中を押されて、しばらく二人のあとを追うと、とある穴のそばにたどり着いた。

 覗くと、中は斜面になっていて、地中深くまで道が続いている。

「二人はもう中に入ったかしら?」

「かなり狭いですが、ゴンさ、ちゃんは大丈夫ですか?」

 穴の中は決して広くなく、田中ぐらいの体型なら問題なく通れるが、ゴンのような巨体となるとかなり厳しいだろう。

「うーん、大丈夫...わよ、けど、君が先に入ったほうがいいかしら。」

「え?」

 さすがにこんな危険そうなところで先行するのはと躊躇する田中。

「そんなに怖がらなくていいわよ、二人は先に入ったし、危険は先に排除したはずよ。」

 確かにその通りだ、しかしそれが分かったとしても怖いものは怖い、かと言ってゴンを先行させて、田中自分一人がこの草原に留まるのも安心できない。

「仕方ないか。」

 田中は勇気を振り絞ってゆっくりと穴に入った。

「えらいわ、そんなに深くはないと思うから、底についたらこれで連絡お願い、終わったら先に行ってもその場で待っても構わないわ。」

 なんか子供扱いされたような気がしなくもないが、大人しく渡された魔導器を胸のポケットにしまって、田中はゆっくりと手探りながら穴へと降りていった。

 穴の中は思ったよりも狭く、照明の魔術を使っても、角度問題で足元が見えないところが多数いた。

 田中は慎重に手も足も使って安全確認をしながらゆっくり降り、約十分後、狭い通路がやっと終わり、田中はかなり広い空間に到着した。

「うぅ、うええええぇ、コホン、こ、なにこれ?」

 バスケコートぐらいの大きさの空間のあちこちに正体不明な褐色な液体が悪臭を漂わせながら散乱している。

 不幸にも田中が降りた先にもその液体は落ちていて、田中はまんまとそれを踏んでしまった。

「くそ、何なんだこれ。」

 慌てて離れて、地面に靴を擦り付けて落とそうとするが、液体が粘り気が強くなかなか落ちなかった。

「もう!最悪だ。」

 これ以上やっても無駄だと悟り、田中は一旦諦めて、懐から魔導器を取り出した。

「ゴン、え、もう底着きました。」

「了解!」

「あ、この下になんかっ...あ、切られちゃった。」

 切られた通信を見て、もう一度かける気になれない田中は魔導器をしまい、唯一この悪臭空間から出られそうな通路に向かった。

 謎の液体を避けながら、通路口に到着し、中を照明魔術で照らすと狭い通路の中にあっちこっちにその謎の液体が飛び散っていた。

 地面、壁、一番酷いのは天井にもあり、ポツン、ポツンと垂らしている。

「うわぁ、どうすんのこれ。」

 辺りを見回し、通路の手前でしばらく躊躇ったら、突然頭上から地鳴りのような音が響いた。

「え?なに今の。」

 ドン。

「また?なんなんだよ。」

 さすがにこんな状況の中で一人で進む勇気がない田中は謎液体のついていない壁を見つけ、それに引っ付いてゴンの到着を待つことにした。

 地鳴りに怯えながら、待つこと数分、どんどん大きくなる地鳴りの音と天井から落ちる塵と小石で田中は壁にのめり込みそうな勢いで必死に壁に引っ付いた。

「ああ、クソ、土の塑形魔術を刻印しとけばよかったっ。」

 ドあォオン。

 突然、先ほど降りてきた穴が巨大な轟音と共に爆発した。

「コホン、コホン、今度はなんだよ。」

「くっさ、臭いわ、なんなの?」

 爆発で舞い上がった煙塵の中からゴンの野太い声が響いた。

「ゴン、なのか?!」

 やっと待ち人が来たれりと、田中は爆発が起こったほうに叫んだ。

「あら、待ってくれたの?優しいわね。」

 爆発で舞い上がった土煙は徐々に落ち着き、中にいる服がかなりボロボロになったゴンの姿が現れた。

「きったないわね本当に、これ土虫(トールウオーク)の血か?あの人たち本当いつもだらしないわね、まったくね。」

「これ魔獣の血だったのか?」

「ええ、土虫(トールウオーク)という気持ち悪い虫のね、うーん、田中の少年は清潔魔術使える?あたしそういうの使えないから。」

 土と魔獣の血で汚れた服を手ではたきながら、ゴンは田中に尋ねた。

「すみません、生活魔術の刻印石を持って来てなくて。」

 当然田中は刻印石なしで魔術使えないので、何の助けにもなれない、そもそも、そんなの使えてたらとっくに使ってた。

「なら仕方ないか、さっさと進んでシーラたちに追いつけよう。」

「はい、でも...」

「でもなに?遠慮しなくてもいいわよ。」

「これが魔獣の血ならその死体はどこに?」

 田中は素直に自分の疑問をぶつけたが、ゴンはその質問を聞いてすこし呆れた顔になった。

「少年は本当に狩人か?魔獣の死体は持ち帰るに決まっているでしょう?魔獣を狩ってその死体を売り物にする、狩人とはそういう仕事だよ。」

「あ、そういえばそうだったわ、忘れてました、はっ、は。」

 猟師の試験に合格してないし、免許ももらいものだと言えない田中はとにかく乾いた笑をしながら誤魔化すしかなかった。

「もっとしっかりしなさいな、荒野での油断は命取りになるわ。さあ、行きましょう、汚いけど、この血を辿ればシーラたちに会えるはずよ。」

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