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グラントゥギア 転生聖女放浪編  作者: ジャックス・R・ドンブリ
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第 50 話 

 カゼッタ連邦 パオラトン州 荒野

 果てのない広大な草原の上に数匹の獣が数台車が集団で走っている。

 その先頭を走る車の窓から一本の手が差し出され、向き抜ける風に手のひらを向けてなにかを鷲掴むように指をぎゅっぎゅと数回動かしたあと、また窓から引っ込んだ。

「うーん、やっぱり都市伝説かな、本物触ったことないからわからないけど...」

 車内、一人の男は引っ込んだ手を見つめて呟いた。

「勇者さま、どうかしましたか?」

 まるで秘密の一人運動に勤しもうとした時、親に部屋のドアノックされたように、男はスッと素早く手を下ろし、目を逸らした。

「いやぁ、荒野と聞きましたから、荒れ果てた大地だと想像していたんですけど、意外と景色のいいところだなと。」

「確かにそういう印象を持つ人多いですね、魔導器の発明でほとんどの人が魔法使えるようになったとは言え、荒野で魔獣と戦えるほどの実力を持つ人はまだ一握りですので。」

 バックミラーを通して後ろを走る車たちを一瞥し、レイラは話を続ける。

「そして荒野の情報も基本その一握りの人たちの間にしか流通しませんし、もちろんメディアも学校も一般人には荒野は危険なところとしか言いません。」

 自分のバカな行動を誤魔化すために適当に口にした言葉が広がってすこし意外だったが、ここで黙るほど田中はバカではない。

「狩人たちが情報公開したくないのはわかりますが、メディアはなんでそんなことをするんですか?」

「禁止されているんですよ、連邦政府に。今でさえ魔獣狩りという愚か者たちが虫のよう湧いてきているのに、こんな景色があるなんて知られたらどれだけの命知らずの狂人が荒野を荒らしにくるか分かったものではありません。」

 確かに地球でもスリルのためなのか、自分の限界への挑戦のためなのか、自ら危険な場所に行ったり、危険な行動を行ったりする人がたくさんいるが、そこまで嫌悪するものなのか?それにレイラの言い方にもすこし引っかかるところあると田中は思った。

「荒らし?荒野なのにですか?」

「そうですね、レイラたちにとっては間違いなく荒野ですが、この地に住まうものたちにとっては家です、その家に狩人という侵入者たちが入り込んで、自分の家族友達を殺して、その死体やその他の資源食料持ち去られたら、それは荒らし以外の何ものでもないでしょう。」

 レイラさんってもしかして環境保護主義者とか?という疑念を抱きつつ、田中は脳内で言葉をよく選んでから口を開いた。

「でも、それが自然の摂理というか、ええと、普通のことでは?」

 田中の言葉を聞いて、レイラはゆっくりと背中をシートに預け、車の窓を開けて遠くを眺めながら口を開いた。

「そうですね、もし我々が圧倒的な強者であれば、そうかもしれませんね。」

「うーん...」

「ねえ、勇者さま、この草原でどれだけの魔獣が住んでいるかわかりますか?」

「え?十万とか?」

「具体的な数字はわかりませんが、百万は下らないでしょう。」

「百万?!」

「だから荒野は荒野のままでいられたんです、でなければこんな草原、とっくに農場や工場、町に埋め尽くされてますよ。」

 地球で各国政府がわざわざ自然保護区なんて設立しないといけないと思うと田中は頷くしかなかった。

「こんな魔獣の巣窟に人が入り込んで勝手に荒らしをするんです、当然魔獣の間のバランスが崩れされます、それが蓄積されていくと魔獣災害が起こります。」

「でも狩人たちは一応プロですし、それぐらい気を付けるんじゃ...」

「プロ?確かに一部はそうかもしれませんが、大半はただちょっと力があるぐらいの命知らずのバカです、知ってますか、勇者さま、毎年新しく狩人免許をもらった人が免許獲得の一年以内で死亡する確率は70%で、三年以内は90%、五年狩り続けてまだ生き残れる人は5%をも下回ります。こんな人たちが環境配慮なんて器用なことできると思いますか?」

 あんまりにもやばい死亡率で思わず自分の心配し始める田中。

「そこまで危険な仕事なのか?」

「思わないでしょう?幸い神獣たちは基本人の領域には住まわないから、まだ良かったものの、神獣の住処が荒らされたらもうおしまいですよ。」

 普段なら田中の心配をかき消すためになにか慰めの言葉をかけるはずだったレイラはなぜか田中の言葉を無視して、話題を逸らした。

 そしてその態度が田中をさらに恐怖へと落とした。

「ええと、今回の訓練って本当にだいじょうっ。」

「あっ、そろそろですね、ここからの車は藪蛇になりかねませんから、歩いて行きましょう。」

「まっ。」

 田中は慌てて呼び止めようとしたが、返されたのはいつもの笑顔と車から降りていく背中だった。

 不安を感じつつも仕方なく車を降りると、田中はついて今回一緒にこの凶地を探検する「仲間」たちと対面した。

 先頭を立つのはいかにも癖のある三人だった。

 一人目は全身マントで顔も覆われているチビ、ちなみにこのチビは蔑称というわけではなくただの事実の陳述、何故ならこの人は背が高いとは言えない田中の腰ぐらいの身長しかないからだ。

 二人目はその逆をいった巨人だ、三メートルすら超えそうな巨体を持つ男が今までどこに隠れていたのか疑問に思ってしまう。

 三人目は片目眼帯の傷跡つきのおっさんというわけではなく、片目眼帯のいかにも優男みたいな顔をした青年だ。

「では紹介します、まずはリーダーのシーラさん。」

 レイラがチビっこを指して紹介し始めた。

「どうも、シーラ・ドールスだ、せいぜい足引っ張らないように頑張るんだな、お坊ちゃま。」

 こんなチビっこがリーダー?しかもこの声、女なのか?

 驚愕する田中をよそに、レイラは続けた。

「ええと、この大きい方は戦士のゴンらぷ、ええと...」

「いやね、大きいだなんて、あたしのことはゴンちゃんって呼べばいいのよ。」

 野太い声であたしとかゴンちゃんとか言い出す巨人から溢れだす違和感に田中は鳥肌は立った。

「そしてこの方はウォルトさんです。」

「初めまして、ウォルトです、短い間ですがよろしくお願いします。」

 またなにかあるのかと構えた田中だが、ウォルトは極めてまともかつ普通の挨拶をしてきた。

「あ、初めまして。」

「この三方が今回田中さまと同行する仲間です。三人とも経験豊富な狩人なので、困った時は頼ってください。」

「ええと、他の人は...」

 三人の後ろにいる十数人を見て田中は疑問を口にした。

「そちらの方々は支援チームの方ですので、同行はしません。」

「なるほど。」

 支援するのにこんなに人数が必要なのかと田中はすこし疑問に思うこともあるが、自分は素人なのでプロのやり方に口出しするべきじゃないと胸の中にしまった。

「終わったかい、そんじゃいっこうか、そこの坊ちゃま、ちゃんとついてくるだよ。」

 そう言ってリーダーのシーラは率先して歩き出し、残りの二人も流れるようについて行った。

「え、ちょ、レイラさん、行ってきます。」

「はい、ご武運を。」

 走りながら遠のいていく田中を見送り、レイラは振り返って支援チームの人に向けてこう言った。

「さて、君たちにもそろそろ仕事を始めてもらいましょうか。」

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