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グラントゥギア 転生聖女放浪編  作者: ジャックス・R・ドンブリ
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第 46 話 

 夜、双蓮宮。

 聖女の退場により、王宮の宴会も終わりを迎え、宴会客の存在で賑わった王宮もいつもの静けさを取り戻した。けれど、聖女の復帰告知で興奮した国民の心は簡単には冷えない、音こそ聞こえないが、下町の明かりはいつもよりまして眩しく、その光の流れに通じて向こうの喧騒がこっちにも感じ取れそうだ。

「今のこの喜びがあとあと憎しみに変わってわたしに向けてくると思うとゾッとするな、はっは。」

 自分が脱出したあとのことこいつらの変わりようを想像すると末恐ろしすぎて乾いた笑い声しか出なかった。

「考えるな、考えるな。」

 自分のほっぺたを軽くたたき、注意力を分散できるものを探すように部屋を見まわす。

「そういえばこれがあったな。」

 机に置いてあるネックレスの箱を手に取る。

 宴会でもらったプレゼントはもちろんこれだけではないが、ほかのプレゼントは王宮の人たちが先に受け取って安全チェックを行ってからこっちに届くので、正真正銘手渡されたプレゼントはこれだけ。

「きれいはきれいだけど、派手すぎてあんまりつける気にはなれないな。ってかさすが貴族社会だな、宴会の発表なんて昨日今日のことなのに、よくこれほどの品をとっさに用意できたわ、ほかのやつのプレゼントも楽しみだ、わたしの脱出の路銀になって...うん?うーん。」

 なんか違和感が...

 思い立ったら動く、さっそくリリアに通信をかけた。

「リリア、今日の宴会の参加者からのプレゼントの受付は宴会前?宴会後?」

「宴会前です、宴会後だと待たせてしまいますし、大きめなプレゼントを持参した方もいらっしゃいますので、宴会後ですといろいろと不便があります」

 だよね、それが普通の流れだよな、なのに、このネックレスを受付で渡さず、わざわざ持ち込んであんな茶番をしてまで手渡した、単純にあこがれのアイドルを間近で見たかっただけなのか、それとも別の何かがあるのか。

「わかったわ、今日はもう疲れたから、すぐ寝るわ、ミューゼにも伝えといて。」

「はい、かしこまりました。」

 通信を切り、注意力を再びネックレスに集中する。

「さて、なにがあるのかね、箱はさすがにチェックされてたから何もないだろうから...」

 ネックレスを手に取り、あらゆる角度から繰り返して観察するが、なにもみつからなかった。

「さすがに彫刻で暗号を入れるとかはないか、わかりにくすぎる。のこりは...」

 物の価値をさげるようなこと、本当はしたくないが、仕方がない。

 いつもの作業机に移動し、引き出しから薄刃のナイフを取り出し、ナイフの先をペンダントの隙間から差し込む。

 ぱったん。

 力を込めると宝石は案外あっさりと飛び出し、地面に落ちた。

 慌てて宝石を拾いあげ、カーペットのおかげか特に欠けることもない宝石を見て、すこし安心する。

「とりあえず路銀は無事か、さてこっちは...王宮か?」

 宝石がなくなったペンダントには一枚の紙が入っており、それを取り出して広げると地図が書かれていた。

「これは今日の宴会会場に近いな、うーん。」

 ...

「聖女さま。」

 どうやったら目立たずに近づけるのか考え込んでるところ、突然部屋から声が響いた。

「え?ミューゼ?なんで?」

 声に反応して振り返るとミューゼが部屋の端に立っていると見えたら、すぐこっそり手のひらの中で握りつぶし、ミューゼに問いかけた。

「聖女さまが呼んだのでは?」

「はあ?呼んでないが」

「そうですか?わざわざリリアに伝言を頼んでましたからてっきりそうと、申し訳ありません。」

「いやいや、なんでわざわざこんな回りくどいことするねん、呼びたいなら直接よんでるわ。」

「だって、聖女さま最近全然よんでくれませんもの、泥棒猫ばっかりくっついちゃって...」

 泥棒猫?まさかナディのことか?

 たしかにナディを弟子にしたあとほぼ毎日授業してたが...

「泥棒って、別にわたしはあなたのものではないけれど?」

「はい、でもわたくしは聖女さまのものですから、安心してください。」

 どこに安心できる要素が?

「君をものにした覚えもないんだが...はあ、もういい、来たならなにか報告してくれ、この前言い付けた調査、そろそろ何かしら情報を掴めてもいいと思うが?」

「はい、途中ですが、ラスタリア国内での他国、主に連邦と共和国の動きについての情報のいくつかを頂いています。」

 そう言いながら、ミューゼはポケットからいくつかの書類を取り出した。

「ほう、用意がいいね。」

「ありがとうございます、では報告いたします。まずは連邦、最近一年連邦の間者からラスタリア貴族たちへの接触が活発化したとの報告が上がっています、こちらが判明している接触対象のリストです。」

 ミューゼから畳まれた一枚の紙を受け取り、広げるとびっしりと書かれた貴族のリストが見えた。

「こんなに?」

 その数に驚くと、ミューゼは当たり前のよううなずいた。

「はい、あくまでもこちらで判明した部分ですので、実際はこれの倍以上はあると推測します。ただ、その大半は簡単な情報収集が目的な接触なので、留意すべきは最初のほうに書かれている貴族たちです。マークを付けていますが、それらの貴族は連邦と大量な金銭のやり取りがあった、または頻繫に接触を行った人物たちです。」

 リストの初頭に目をやり、そこには十字マークを付けられた貴族は十数人ほどいた、中央貴族から地方貴族まで。うん?ちょっと聞いたことあるような名前が視線に入った。

「サーゴー?今日会ったあの?」

「はい、その通りです、なので今日の行動は連邦の指示を受けたからの行動ではないかと思います。」

 連邦の指示でわたしに接触してきた?いや、さすがにないだろう。本当にそんなことしたら連邦の情報官の知力レベルを疑うわ。

「連邦の人はどういう目的でこの人に接触してるのかは判明したのか?」

「申し訳ございません、具体的な目的はまだ不明です、最近度々大金がサーゴーのところに流れている以外は、特に怪しいどころはございませんので...」

「大金?」

「はい、連邦だけではなく、国内、共和国や都市同盟などからの金も。」

 十分にあやしいんだが...

「それほどの大金が動くなら監察院が知らないはずがない、なのに動かなかったのはなぜだ?」

「それは...申し訳ありません、監察院内部に入るには白銀龍の血筋が必須なため、外部での動きならまだしも、内部決定の原因までは究明することは難しいです。」

「そうか、ならいい、このサーゴーの調査は一旦中止にして、人員を引き上げろ。」

「中止、ですか?原因をお聞きしてよろしいでしょうか?」

 向こうから連絡してきたから、お前らにこれ以上探られると問題になりかねないから。

 なんーて言えるわけがない。

「いろんなところから金が来ているということはつまりいろんな人に睨まれているということでもある、あんまり近付きすぎると火傷するかもしれない。監察院がにらみを利かせている以上君たちまでリスクを冒して近付く必要はない。」

「しかし...」

「ミューゼ、君たちの使命はなんだ?」

「聖女さまをお守りすることです。」

「ならばそれ以外のことで命を落とすのはその使命を裏切ることになるではないか?」

「聖女さまの命令ならば...いいえ、わたくしが愚かでした、申し訳ございません。」

 聖女さまの命令ならどんな地獄でも喜んで赴くとかでも言いたかったんだろうが、その考えが命令違反だということを気づいたんだろう

「献身的になるのは悪いこととは言わないが、先走りすぎると自分のためにも相手のためにもならないよ。」

「肝に銘じます。」

「うん、もう下がっていいよ。」

 一礼をして姿が闇に溶け込んでいくミューゼの存在が感知の中から消えてゆくのを待ったあと、わたしはベッドにダイブした。

「疲れたああ、早く逃げてえええ。」


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