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グラントゥギア 転生聖女放浪編  作者: ジャックス・R・ドンブリ
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第 45 話 

 数分前。

「待って!戻って来なさい!」

「いやだもーーん。」

 本来このような宴会では決して出現するべきではない甲高い声、走り回る子供の足音が参加者たちの注目を集めていた。

「どなたか、あの子を止めて!」

 子供の後を追う母親らしき女性が周りの賓客たちに助けを求めるが、もちろんその願いが叶うはずもなく、参加者の誰一人とて動くことはなかった。使用人たちは動きだそうとしたが、俊敏に勢いよく参加者たちの間から通り抜けていく子供に、礼儀作法に気を付けながら賓客たちの存在も気にしないといけない使用人が追いつけるはずなどない。

 こうして子供とその母親はどんどん宴会ホールの奥へと近づいていた。


「そうね、ポルブスタとかが結構美味しかったわ。」

「娘もよく使用人によく作らせました、わしはあの食感がどうも苦手でしてね、娘によくポルブスタの美味しさがわからないなんて、父上はバカ舌ですわって言われてますよ。」

「ふふ、でもわたしも正直昔じゃ考えられなかった料理が多くてびっくりよ、アテンヌの肉とか千年前では食べようなんて思う人なかったよ。」

「たしかにあの見た目ですからね、わしも最初に食べた人に一体なにがあって口にしたのか、大変気になりますな。」

「それはきっとよっぽど切羽詰まっ。」

「陛下!」「聖女さま!」

 老紳士の王都執政官と楽しく世間話をしてる時、突然視線が二つの人影に遮られた。

 リリアとミューゼだ。

 そして、横のマルセルの前にも近衛隊の人が剣を握って立っている。

 なになに、刺客か?

 さすがに頭を出して覗くのは危ないので、次元の眼の魔法を使おうとしたどころ、リリアが口を開いた。

「聖女さま、子供です。」

「子供?」

「はい、子供が一人こちらに向かって走ってきましたので、近衛隊の方に抑えられました。」

「どれどれ、見さしてくれ。」

「申し訳ありません、今ボディーチェックを行っていますので、安全確認できるまで少々お待ちください。」

 ボディーチェックってこの世界にも自爆テロとかがあるのか、こわっ。

 でもこんな厳重護衛されてる感じはかなり新鮮だ。

 地球にいた頃はもちろん、カルシアの記憶の中でもまだそんな重要な立ち位置になっていなかったので、護衛される記憶はなかった。

「陛下、せ、聖女さま、大変申し訳ありません!お騒がせして大変申し訳ありませんでした、すべてはわたくしの不手際なのでこの子には、どうか、どうかお許しを!」

「誰だ、止まれ!」

 女の許しを乞う声とたぶん女の接近を制止する近衛隊員の声。

 一体なにが起こっているんだと好奇心がうずうずしてるが、隣のマルセルが全く動じてなかったものでこっちも動きにくい。

「リリア、またなにか?」

「子供の母親らしき人物が現れました、今近衛隊の方が対応しています。」

「ちなみに執政官はまだいる?」

「はい、まだいらっしゃいます。」

「そっか、じゃ先に戻るわけには行かないね。」

「いいえ、聖女さま、先にお戻りになられたほうがよいかもしれません、執政官閣下もご理解いただけますかと。」

「うーん」

「聖女さま、報告を聞いてから決めるのはいかが?」

 悩んでる間、隣のマルセルに声かけられた。どうやら調査は済んだようだ。

「うん、そうね。」

 と肯定をしたら、近衛隊の人が報告を始めた。

「接近した二人はマドレーの執政官オルト・サーゴーのご家族みたいです、子供の方は次男のライントで、女性の方は妻のフィオーレです、二人とも危険物は所持されておりません。女性の話によると聖女さまの話を子供にしたら、聖女さまと会いたいと暴走してしまいましたとのことです。」

「聖女さまの魅力は子供でも抗えないようですなー。」

 このじじい、嫌味か?

「そうか、ならもう戻るわ、処分は君たちが決めるといい。」

 そう言ってわたしは席を立とうとした。

「待って、聖女さまのイメージ的にその子供と会ってみるのはいかが?」

「前から思ってたけど、君たちはわたしをなんだと思ってるの?この手で奪った命の数軽くこの王都の人口を超えてるのよ。君たちもその力が目当てで呼びつけたんだろう?」

 正直カルシアがどれぐらい人を殺したのかわからない、けど持ってる記憶の中でもそれなりにやってたから、その後の何倍も惨烈な戦争で主要戦力として活躍してたのなら屍の山を築いてきたと言っても過言ではないだろう。

 いきなり血生臭いことを言ったせいか、近衛隊の人はだれも頭をさげて目を合わせないようにしてるし、マルセルも数秒言葉が詰まった。

 まあ、まさかこんな公の場で自分のイメージを損なうようなことを言うと思わないだろうから、対応に困っているんだろうな。

「それはもちろん我々も深く理解しております、が国民のみんなさんは違います、国民にとって聖女さまはこの国の守護神であり、そのイメージをできれば維持していただきたいです。」

 そこまで言ったのにまだ引き下がらないのかよ。

「まあ、いいわ、だがこれが最後だと思うことね。」

「はい、ご理解感謝します。」

 頭を下げるマルセルを一瞥し、椅子から立ち上がる。

「リリア、ミューゼ、どいて。」

 二人が開けた隙間から階段を降り、拘束されてる女子供に近づける。

「せ、聖女さま!どうかお許しを!」

 わたしの接近を気づいた女は案の定許しを乞いてきた。子供の方は十歳ぐらいの子で、こっちも案の定わたしの顔を見つめてぼうとしてる。

「お姉さん、きれい。」

 昔のわたしなら例え相手が男でもその言葉だけで嬉しくて舞い上がっちゃうだろうが、ここに来てから毎日のように言われるし、そして心のどこかでわたしじゃなくカルシアを褒めてるだけだと感じて、喜びどころか嫌悪感さえ覚えた。

「離してあげて。」

 わたしの命令に従い、二人を離したが、近衛隊員たちは二人四方から囲うように警戒を怠らなかった。

 さすがプロだな、脱出の時何人か連れて行きたいぐらいだ、女隊員はいるのかな。

「ありがとうございます、ありがとうございます。ほら、あなたもお礼を。」

 フィオーレは子供の頭を下げさせようとするが、子供の方はずっとわたしから目を離したくないのか、ずっとこっちを見つめて下げようとしない。

「お礼はいい、わたしに会いたくてここに来ているんだよね。」

「それは、この子が...」

「申し訳ございません、陛下、聖女さま。わたくし、マドレー執政官のオルト・サーゴーです!」

 近衛隊による警戒線外からの声でフィオーレの言葉が遮られた。

「わたくしの夫です、聖女さま。」

 入れるようにっと近衛隊に指示を出し、その妻子の元までくることを許した。

「わたくしの監督不行き届きでお騒がせして大変申し訳ございません!」

 はあ、めんどくせぇ、何度言うねん。

「かまわない、今回は不問にするから、今後は気をつけるといい。」

「はい、必ず。」

「うん、もう下がっていいよ。」

「えっ、あ、ええと。」

 なにその反応、ガキだけじゃなく親父までもかよ。まさか、わざとじゃないよね。

 呆れつつ席に戻ろうとしたところ、後ろから呼び止められた。

「聖女さま、お待ちください。」

「うん?」

 振り返ったところ、男は懐から何かを取り出す素振りをした。

 当然その行為は衛兵たちを緊張させた、一瞬で二人の兵士はわたしの前を塞ぎ、残りの二人は男を制圧しようと動き出す。

「待って、そういうつもりはありません、お詫びの品を捧げようとしただけです。」

 言い訳をするも大人しく捕まるオルトの懐から衛兵たちは一つの箱を取り出した。

 そしてしばらくして、厳重にチェックされた箱はリリアの手に渡り、わたしの目の前に開かれた。

「ネックレスでございます、聖女さま。」

 箱の中にはチェーンまでキラキラした宝石の入った眩しいぐらいのネックレスだった、特にペンダントのパオラド石がもう宴会ホールの照明の下で目を細めないと見れないぐらいだ。

 こういうの好きじゃないんだよな...まあ、金にはなりそうだから、脱出する時持って行くのもありか。

「君たしかマドレーの執政官と言ったよね?」

「はい!」

「マドレーって確か王都から遠くはないよね。」

「はい、地下交通で二時間程度の距離です」

 マドレーは王都の西にある街で、もし都市同盟に逃げるなら最初に通る街だ。

「どんな街なんだ?」

「マドレーは主に鉱業を生業にしている街で、その原因で魔導器や魔道具などの製造業も栄えていて、あとは酒も美味しいし、住民もおおらかな性格が多いのでぜひ一度訪れてはいかがでしょうか?」

「鉱業?」

「魔導石です、マドレーの近くには国内最大の原素の地が存在していて、我々は主にそこから魔導石を採掘をしています。先ほどの献上したネックレスの宝石もそこから採掘されたものですが、どれも一級品です、特にペンダントの宝石は世界中探しても見つらないほどの逸品ですので、あとでよく手に取って鑑賞してみてください。」

「なるほど、じゃ用は済んだんで、もう下がっていいよ。」

 三人を無視して席まで戻り、マルセルに軽く挨拶をしたらそのままリリアたちを連れて双蓮宮まで戻った。

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