第 44 話
目の前にじじい一人とその妻と子供と思われる人が跪いている。
「偉大なる聖女さま、お呼びいただきまことに恐悦至極でございます。」
いや、わたしは呼んだわけではないんだが、でこいつは誰?っと思ったら隣のリリアが耳元で囁いできた。
「この方は監察院長のロンベル・オブ・イーノーです、聖女さま。」
さすがリリア、気が利くね、あと、ささやきボイスグッド。
心の中でリリアを称えながら目の前のじじいに世間話をしてみる。
「礼は不要、監察院の働きは王宮のなかでも度々耳にするでね、院長とは一度あってみたかった。」
「は、光栄です。」
いや、なんかもっとしゃべれや、こいつも陰キャなんか?
「後ろの二人は、紹介してくれないのか?」
「失礼いたしました。こちら妻のイーリスでございます。」
ロンベルの紹介に合わせてイーリスが一礼をする。
スタイルはそこそこ、ただずっと下に向いてて顔がよく見えない。
顔を上げてと言おうとしたところ、ロンベルの声に遮られる。
「こちらは愚息のイスターでございます。」
こっちは逆に頭をあげてガン見してくる。
なんだ?こいつもカルシアの顔に魅せられる口か?
と思ったらイスターは頭を下げた。
「この度ラスタリアにご降臨いただき、一国民として誠に感謝いたします、聖女さま。」
まとも...なのか?
「礼には及ばない、国民のためにより一層励めばよい。」
実際助けるつもり微塵もないのにお礼言われてもこっちが気まずくなるだけだから正直やめてほしいね。
どうしょう、監察院は情報いろいろ持ってるだろうけど、その手プロだからこそ逆に迂闊に聞けん。
かと言って世間話をするってのも相手は堅苦しそうだし、自分も陰キャだから何言って一言で終わってしまう。
そんな時にこっちの心情を察したのか、国王が助け船を出した。
「ロンベル、そう堅苦しくなるな、聖女さまを困らせてしまうではないか。」
「申し訳ございません、陛下。」
もちろん、言われていきなり変われるものでもなく、結局はわたしが黙ってロンベルと国王の他愛のない会話を聞いただけで面会は終わった。
「聖女さまはどう思いますか?」
「どうとは?」
「ロンベルのことです。」
この場で言う事なのか?それ。隣に妃や近衛隊、ちょっと距離はあるけど貴族みんな見てるなかだぞ。
それにどうって、一言二言しか喋ってないし、どうと言われても。
「監察院の働きはわたしでもよく聞いてる、ちょっと寡黙ではあるが王国にとって必要な人材だと思う。」
「そっか、そっか、それはよかった、ハハ。では次始めましょうか?」
一体何なんだ?
「ああ、できるだけ手短く頼むよ。」
「ハハハ、実は聖女さまがこういうのお好きではないと聞いて三組にしたんですよ。」
「三組?」
「ええ、一組は王家の分家の代表、この次には中央貴族の代表、最後は地方貴族の代表という。」
「王家の分家?ああ、そういえば同じイーノーだっだな。それで監察院か...」
「ええ、二百年前から王位継承権をもつ人は王に選ばれた人以外のものは監察院で王の目と耳になるというしきたりが続いていて。」
「へえ、重要な役割を信頼できる血縁者に果たしてもらう感じか。」
「それもありますが、王位争いを減らす目的もあったそうです、まあ、実際効果あるのか少々あやしいではありますが。」
匂わせ...なのか?だがさっきのロンベルを見る感じクーデター起こすようなやつには見えないが。
「話しが逸れましたね、では、次いきますか。」
国王が側近に指示を出すと、ずっと待っていたか、ずぐに三人が出てきた。
三人とも男性でそのうち二人はいつしか見た顔だっだ。
「ご機嫌麗しゅう、聖女さま。わたくし、ウスマン·ラモス·ディアスと申します。」
「ロストフ・クリロフと申します、聖女さま。」
今こそ礼儀正しく貴族らしい振る舞いをしているが、いつしか街での小学生喧嘩を見たわたしには滑稽にしか見えなかった。
「ダニエル・イープスと申します、伝説の聖女とお会いできて光栄の至りです。」
そして残りの面識のなかったダニエル、はっきり言うと印象に残らないような見た目でした。普通な顔、普通な格好、普通な立ちふるまい、だが一等貴族という普通じゃない地位にいるという。
「三人ともラスタリアの重鎮だ、今この国の大事な時期に一丸となってより一層の奮闘を期待している。」
「聖女さま、お言葉ですが、このクリロフ、売国奴のディアスと一丸になるのは無理でございます。」
「聖女さまの御前でなにを言い出すかと思えば、またその蛮勇を見せびらかすつもりか?早くしまいたまえ、その空っぽの脳みそをみたら聖女さまも驚愕してしまいますよ。」
「はあ?」
ちょっと適当にそれっぽい無難なことを口にしただけなのに、なんでそっから喧嘩に発展できるんだこいつら。
「二人ともそのへんで。」
また小学生喧嘩に発展しそうなので、すぐに止めに入った。もちろん聖女のイメージ的に大声を出すわけには行かないので、すこしばかり精神力で威圧をした。
「「失礼いたしました。」」
そのおかげか、二人ともここはすぐ喧嘩する場所じゃないと悟った。
「お二人の主張は魔導ネットを通してだが、すこしばかり聞いておる。けれど、ここ議会ではないし、わたしもどっちが正しいなのか判別できるほどこの国に詳しくはない。」
「「大変申し訳ございません。」」
「なので...」
わたしの目はさっきからずっと黙り込んでいるイープスに止まった。
「イープス、君はどう思うかね、二人の主張どっちが正しいか?」
突然な振りですが、イープスは驚く様子など微塵もなく、軽く礼をしたあとに口を開いた。
「わたくし目の意見に耳を傾けていただき感謝いたします、正直に言いますと、お二人の意見はそれぞれの理由があり、わたくしからしますとどちらも一理あるに思えました。」
「思えました?」
「はい、ですが、それはあくまでも聖女さまのご降臨を知る前の話です、聖女さまのご助力を賜れるのなら、聖女さまのご意見を伺うべきかと、ですので、聖女さまに一つお伺いたいでございます。」
「ふーん、言ってみるといい。」
「聖女さまの力で我が国を勝利へと導くことはできるのでしょうか?」
「さあね、わたしはただの時代遅れの老いぼれ、あんまり期待されても困るわ。」
「そんな...聖女さま。」
そこまで期待していたのか、国王以外の人は明らか失望した顔になっている、売国奴と言われてたディアスですら。
「先の演説にも似たようなこと言ったはずだ、この国を守りたいなら自分の手で守れ、この戦争の主役は君たちだ。」
「聖女さまは我々を見捨てるおつもりですか?」
しつこいな、こいつに話題振るべきじゃなかったわ。
「主役は君たちだが、呼ばれた以上、わたしはわずかな補佐はする。けどわたしだけで勝ってるなんて思わないことだ。」
「そう、ですか。」
そう言いながら引き下がるイープス。気のせいなのか、ちょっと笑ってた?
「はあ、下がってくれ、そろそろ時間だ。」
三人が下がり、わたしはため息をついた。
「中央貴族ってのはどいつもこいつも傲慢なやつで本当に気を悪くして申し訳ありません。」
よくいうよ、さっきはだんまりなくせに。
「もういい、次を呼んでくれ。」
「次は紳士的な人なのでご安心ください。」
「そうだといいんだが。」
身を構えていたが、意外にもマルセルの言うことは嘘じゃなかった。
次に来たのは王都の執政官で見た目はまさに老紳士という言葉にふさわしい人で、話してると前のやつらと違って、その長年実務を携わっていた老練さが見て取れる。
だが、そんな老紳士と快適な交流を終わらせ、下がってもらおうとした時、事件が発生した。