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グラントゥギア 転生聖女放浪編  作者: ジャックス・R・ドンブリ
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第 43 話 

 ラスタリア王国の王家宴会は中央貴族、特に若者にとって非常に大事なイベントである。例え経済的に余裕がない貧乏貴族でも着飾ってそれなりのプレゼントを用意して積極的参加するようにしている。

 なぜなら王族、特にまだ王宮に住んでいるリック王子とローゼシア王女に会える滅多にない機会だからだ。

 毎回宴会を開催される時、適齢期な男女は王子や王女に群がって自分をアピールしまくり、そうでない貴族はジル王子や国王陛下、または一等貴族の人に群がる。とにかく、それぞれの目的はあれど、みんなこのチャンスを逃すまいと必死なのだ。

 だが、今回は状況がまるで違った、みんな家族か交友関係の深い友人数人で集まり、それに歓談される様子もない。いつも話題の中心にある王子王女たちも珍しく三人一緒にいることができて、久々の兄弟団欒を叶えた。

「兄上は聖女さまとお会いしたことあるんですよね?」

 宴会開始からソワソワして好奇心が抑えられなかったこの国の第二王子、リック・ディ・イーノーは我慢できずに兄に聞いた。

「え?ああ、降臨された日に一度だけだけど、君は会ってないのか?さっき放送に出てただろう。」

「ホールに出させてもらえなかったから、放送で見ただけですよ、で、どんな感じてした?やっぱり映像と同じ感じでした?」

「うーん、見た目だけなら映像と変わらない、だがなんというか、本物にはもっとこう、人を魅了する?惹きつける?オーラみたいなものがある。」

「魅了?伝説の霊界悪魔のように人を惑わす感じなんですか?」

「いや、まあ、霊界悪魔にあったことないからはっきりは言えないが、多分違う、もっとこう神聖的な感じだ。あれだけ美しい女性目の前にしても、不思議と邪な感情は湧いてこない、むしろ神々しすぎて直視することすら冒涜だと感じてしまう。」

「お兄様聖女さまに邪な感情抱こうとしたんですね、あとでお義姉さまに報告しておこうかしら。」

「勘弁してくれ、ローゼ。また一晩中小言言われてしまう。」

「では、今度また外でなにか面白いものを持ってきてよ、兄様。」

「はあ、分かったよ。」

 揚げ足取られて渋々妹のローゼシアの要求を飲んだように見えるが、実はこうしたやり取りはジルが王宮から出たあと、度々起こるものだ。ずっと王宮に閉じ込められたせいか、ローゼシアの外への憧れが半端ではなく、最近は特になにか理由をつけては外のもの要求してくる。

 もちろんジルもかわいい妹の些細な願いを断るはずもない。

「今年で何回目だが...」

「まあ、いいじゃないですか、兄上。それより聖女さまの話をもっと詳しく聞かせてほしいんですけど。」

「はあ、こっちは聖女さまにご執心か。詳しい話ねー、ああ、さっきのオーラの件だが、実はあのあとでグレンさんに聞いてみたんだよな。」

 回りを見回し、近くに人がいないこと確認して、ジルは続けて言った。

「あれはグラントゥギアの祝福と膨大な精神力の合わせ技だと。」

「グラントゥギアの祝福ってあの奇跡の...」

「ああ、あくまでも推測の域を出ないが。」

 グラントゥギアの祝福、とはすなわち世界の祝福だ。なにか洗礼や儀式でもらえるバフのようなものに聞こえるが、実態は全然違う。世界の祝福は世界に与えられた権能そのものを指す。

 そしてその権能は超位魔術師から奇跡魔術師へと進級するための唯一の条件である。簡単そうに聞こえるが、無数の才能にあふれる超位魔術師が一生かけてもその唯一の条件クリアできなかったと考えるとどれだけ困難なことが伺える。

「でも奇跡魔術師なら会ったことないわけではありませんし、他の人からはそんな感じなかったと思いますが...」

「それだけ聖女さまと普通の魔術師のレベルが違うということだ。」

「たしかに、聖女さまが一般の奇跡魔術師を見る目は奇跡魔術師が俺たちを見る目と同じかもしれませんね。」

 もっとも神域に近い奇跡魔術師、伝説によればその強さは当時の全大陸の奇跡魔術師が束になっても相手にできないほどらしい。当然、その祝福の数と精神力の強さは普通の奇跡魔術師の数十倍があってもおかしくはない。

「ちょっと、お兄様たち大袈裟すぎではありませんこと?たしかにお強いかもしれませんけれど、みんなして持ち上げすぎますわ。」

 その言葉を聞いたジルとリックはお互いの顔を見て笑い始めた。

「ふ、なに?すねたのかい、まあ、そうよね、普段なら男に囲まれてチヤホヤされてるもんな。」

「そこは言わないであげてくださいよ、聖女さまが来た途端寂しく兄弟とおしゃべりだなんて、かわいそうじゃありませんか、ふはは。」

「いや、俺はそこまで言ってないんだが。」

「兄様たちのバカ、嫌い、もう知らない!」

 そう言ってローゼシアは地団駄を踏んで兄たちから離れようとしたが、次の瞬間、会場の雰囲気が一変し、賓客たちが一斉にざわついた。

「いらっしゃったのか、行こう、リック。」

「はい。」

 自分のことをほっといて去っていく兄二人を見てローゼシアは悔しそうに唇を噛む。

「もう!」

 だがこのまま一人で退場するのも癪なのか、彼女は二人を追いかけた。



 わたしは今赤い絨毯を歩いでいる、というのは比喩で実際はモノクロの絨毯だが。

 両側に美少女のメイドを侍らせ、臣下どもに手を振って、羨望の眼差しの集まる中で気持ちよくなりたかったけど、実際は貴族たちからの気持ち悪いぐらい熱い視線に焼かれてわたしは萎んでいる。

「聖女さま、しっかりしてください、みんなが見てますよ。」

「いやぁ、なんか見世物みたいでだるいんだよね、こういうの。」

「それはわかりますが我慢してください。お好きなボルターシュとカルータジュースを用意させておりましたから。」

「リリアもしかしてわたしが食べ物で釣られるような人間だと思ってる?」

「違いますか?」

「違うよ、わたしはきゃわいい女の子のほうが好みだ、食べ物なんて二の次だ二の次。」

「そうですか、じゃ終わりましたらミューゼを好きにしていいですよ。」

「はい、わたくしならいつでもどこでも好きにしていただいて構いません!」

「やっぱいいよ、食べ物で。」

「そんなぁ~」

 二人と冗談言い合ってたらあっという間に席までたどり着き、席の隣には国王と見たことない女の人が座っていた。

 妃ってやつなのか、若い頃はさぞきれいだろうな。実際今でもそこらへんの若い子よりきれいに見える、だが残念ながらわたしは熟女まして人妻にはあんまり興味がない、まあ、荊棘のようにピチピチに見えるなら行けなくもないが、この人は奇跡級になれるほど魔術才能に秀でてるようには見えんしな。

 失礼なことを考えながら席に着いたら、となりのマルセルが話かけてきた。

「聖女さま、この度はご足労いただいて申し訳ない。」

 心にもないことをよくすらすらと出てくるな、さすが王たるものというべきか。

「そういうのはいい、今日は何人と面会するんだ?」

「一等貴族の数人ぐらいです、そんなにお時間は取らせないので安心してください。」

「そうしてくれれば助かるよ、じゃ、早速始めてくれ、みんなも待ちきれないようだ。」

 マルセルと話してる間もこっちをチラチラ見てくる人がたくさんいた、正直正々堂々見てくるなら平気だが、こうやってコソコソ見てくるとなんか悪口言われてるみたいで陰キャの闇の記憶が蘇ってよい気分にはなれない。

「そのようね、じゃ。」

 あたりを見回し、マルセルも頷いて側近になにか伝えた。



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