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グラントゥギア 転生聖女放浪編  作者: ジャックス・R・ドンブリ
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第 39 話 

 ナディはしばらくわたしの胸で泣いていた。

 両親に捨てられた孤児としての生まれ、人攫いに攫われた不運、荒野を一人で何年ももがき生き抜く苦難、そして自分の帰る場所だと思っていた庭に受け入れもらえない失望、どれが彼女の涙腺を崩壊させたか、それともずっとため込んだそのすべてが彼女の堤防を崩したかはわからないが、きっとこの時間は彼女にとって必要な時間だろう。

 わたしにできることはただ黙って彼女を抱きしめ、彼女がすべての不安を流し切るまで待つことだけだ。

 わたし自身の気持ちと言えば珍しく年頃の少女を胸に抱きしめながらその背中をなで下ろしているにもかかわらず、心の中には邪念が一切湧くことはなかった。これもカルシアのおかげなのか、それともわたしは自分が思うほどのクズすけべ人間ではなかったのだろうか?

「ありがとう、師匠、あ、もう師匠って呼んでもいいですよね?」

「もちろん。」

 泣き止んだナディはわたしの胸から離れる素振りがないどころか、しっかりと服を掴んできた。

「し、おう、のこと、ま、ってよ、ていいですか?」

「え?なんって?ごめん、ちょっと聞こえなかった。」

「し、師匠のことママって呼んでいいんですか?」

「え?」

 耳を疑った、今ママって言った?

「師匠のことママって呼んでいいんですか?」

 また聞こえなかったと思ったのか、ナディはもう一度大きな声で叫んだ。

 顔はわたしの胸に埋めて見えないが、耳を真っ赤にして彼女は叫んでいた。

 今の私には地球での親に関する記憶は一切なかった、そもそも親いないのか、親に関するの記憶は欠如しただけなのかすら不明だが、一応カルシアから受け継いだ親の記憶ならあるので親の意味はわかってる。

 わかってはいるが、子供を産んだことはないどころか、恋人すら作ったことがなく、人をちゃんと愛したことがない自分に親の役割を務められるとは思えなかった。

「それはどういう意味?」

「え、っと、ずっとママがほし、かったというか、ごめんなさい!」

「待て!」

 あんまりの恥ずかしさで逃げ出そうとするナディの手をとっさに掴み、引き止める。

 正直どうして引き止めたのか自分でもわからなかったが、やっちゃったもんは仕方ない。

「ちゃんと真意を確めたかっただけだ、君はわたしの養子になりたいのか?それともただママのように甘えられる大人がほしいのか?さっきの言葉をわたしの養子になりたいと受け取ってもいいのか?」

「ええと、その、聖女さまにママのような優しさを感じたというか、感じたいというか、本当にすいません!」

 ふう、なんだ、そういうことか、つまり、わたしからバブみを感じたってことかね。バブみならわたしだってよく感じてたわ、ゲームキャラだけど。ロリママと爆乳ママとか。

 しっかしわたしにバブみを感じるとはずいぶん変わった子ね。

「それなら構わないよ。」

「え?」

「養子になるとなるとちょっとややこしくなるから迂闊には約束できないけど、甘えたいだけなら全然問題ないよ、あ、でも人前だとちょっと立場的あれだから、二人きりの時だけね。」

 自分に母性とかあるかどうかはわからないが、一応師匠になったし、短い間ではあるが、これぐらいはしてあげるべきでしょう。

「ほ、本当ですか?」

「こんなことで噓ついどうする?」

「今からでもいいですか?」

「おう、どんとこい。」

 わたしがこう言った次の瞬間、わたしの体に強い衝撃が襲った。

 ナディの飛びつき攻撃でわたしはぶっ飛んだ。

 幸い、後ろがベッドなので衝撃は緩和されたが、それでもかなり痛かった。

「ちょ、今の飛びつき、わたしじゃなきゃ死んでたわ。」

「ママ、ママ。」

 一応文句を言ったが、言われた相手は聞いちゃいなかった。

 ママ、ママとつぶやきながら、顔を胸に強く押し付けてきてさすがのわたしでも少々恐怖を覚えたので軽く押して遠ざけようとしたが、そのささやかな抵抗は興奮しすぎたナディちゃんに対して逆効果しかならなかった。

「うーん~。」

 と不満を示すうめき声を発しながら、両手でがっしりとわたしの腰を抱きしめ、動きを封じてからさらにおっぱいを求めてきた。

 さすがのわたしでもそのすでころ専門家として腕力と赤ちゃんのようにおっぱいを求める意味不明なうめき声に命の危険を感じた。

「ナディちゃん?やり過ぎよ、ナディ?!」

 背中を叩いても手を剥がそうとしてもナディちゃんは一切やめる気配がなく、このままじゃ本気で服脱がされ吸われちゃうじゃないと心配してしまう。

 助けを呼ぶか?

 こんな姿をミューゼとかに見られたらどうなるか想像しただけで寒気がする。

 もう自分で何とかするしかないと悟ったら早速魔術で手の中に子供の拳ぐらいの大きさの氷を作った。

 そして氷をナディちゃんの首筋にあて、さらにそのまま服の中へと滑り込ませる。

「うわあああ!」

 びっくりしたナディちゃんは飛び上がり、ジャンプしながら服の中の氷を落とそうとした。

 正気を取り戻したナディちゃんを意味深な笑顔で眺めていると彼女の顔がどんどん赤くなり、やがて気まずい雰囲気に耐えきれずうずくまった。

「ほんっとうにすみません、師匠。」

「へえ、なにが?何が悪かったんだい?」

「それは、う、うー、師匠のいじわるー。」

「いやー、まさかそこまでとは思わなかったわ。」

「ほんとうにすみません、は、破門にしないでください、師匠。」

 ナディちゃんの暴走には驚いたけど、理解できないことでもない、生まれてこのかた親の愛というものを知らずに生きてきた子の目の前に突然強くて美しく、まさに理想の女性像のよう人間現れて、しかもその人が母親みたいに甘えていいと優しく受け入れてくれたら、そりゃおっぱいちゅっちゅもバブバブもしたくなるんだろう。

「このぐらいで破門にしたりはしないよ。安心して、でも今度はいまみたいに理性を失っちゃダメだからね。」

「はい、ありがとうございます。え?こん、ど?」

「うん?なに?一回だけ満足したかい?」

「また甘えていいんですか?!」

 よっぽど嬉しかったのか、うずくまってたナディの体がそのまま前に倒り、四つん這いの体勢になってこっちに寄ってきた。

「いいよ、もういらない?」

「いる、いります!めっちゃくっちゃいります!」

「なら約束してくれる?節度を守って甘えるって。」

「はい、頑張ります、できるだけ。」

 なんだかめっちゃ不安なんだけど、ま、いいか。

 目の前に四つん這いになっているナディちゃんの頭を撫で、そのまま下に流れて、顔を撫でてあげたら、まるで子犬のように目を閉じ、顔を擦ってきた。

 なんだかかわいいように思えてきたな、こいつ。

 彼女の顔から手を離し、いつになく真面目なトーンで言った。

「では、甘えるのは後にして、ナディアーナ、わたしの弟子になるにあたって、君に大事な話がある、ちゃんと座って聞きなさい。」

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