第 3 話
「聖女さま、こちらへどうぞ。」
先導するグレンの後ろをついて廊下をひたすら歩く。
宮殿の内部は外部の派手さとは真逆にかなり質素なもので、彫像や絵画などの貴族の屋敷っぽい飾りは一切なく、逆に教会や寺などの宗教的場所のように壁画がところどころ描かれている。
床には植物、壁には動物の模様がびっしりと描かれていて、どれも形態や細部まで細かく描画され、加えてこまめに修繕されているのか、千年という割にはまったく劣化が見られず、今にも壁や床から飛び出してきそうなクオリティだった。
壁画の描き方や色彩もいかにも宗教的な雰囲気を醸し出していて、この廊下を歩いていると何だかサン・ピエトロ大聖堂や敦煌莫高窟にいる気分になってしまう。
「こちらのお部屋です、聖女さまが昔使用されたと言われているお部屋を少々リフォームさせていただいたものです。」
床と壁の絵に描かれている動植物を見ているうちに目的地に到着したようだ。
位置としては宮殿の真ん中ぐらいだろうか、木製の扉の両側の壁画の動物はどれもこの門に向くように描かれていて、そして床の植物は門の前の床の絵、絡まる二輪の蓮華のような植物に向くように描かれている。
返事を伺っているグレンに許可を出すと、グレンはローブの中から棒状の何かを片手で取り出し、もう片手で空中で何かを操作するような動きをしたあと、口を開いた。
「聖女さまがお待ちです、早く準備をしたまえ。」
え、なに今の、なんかの装置?ちょっと気になるんだけど。
聞く暇もなく、目の前の扉がゆっくりと開いた。扉の向こうには二人の女の子が礼を取り頭を下げている。
二人とも自分と同じ黒い服を着ているけど、こっちのビッグサイズの服と違って引き締まっていて体のラインがはっきりわかる。
思わず二人の豊満なお胸に視線が行ってしまう。
うん、これは、蓮華か?一部が手に隠されているが、二人の左胸のところに白い蓮華の刺繍が綴られていた。
「このふたりは?」
見た目からしてメイドかなんかだが、一応グレンに確認する。
「今日から聖女さまに仕える者です、お二人自己紹介を。」
「はい、リリアと申します。精一杯務めさせていただきますので、どうぞよろしくお願いいたします。」
「え、は、はい、ミューゼと申します。よ、よろしくお願いいたしますぅ。」
ふーん、金髪で美人系のしっかりしてそうなリリアと黒髪で可愛い系のふわふわしてるミューゼね。
こんな美味しい二人をこの飢えた狼のそばに置くなんて、なんって罪なことを。
いかん、いかん、よだれが。
「ああ、頑張りたまえ」
わたしのベッドの上でな、なんちゃって。
いや、我ながらキモ過ぎるぜ。鎮まれ、我がエロスよ。
「一応二人とも命神教の聖職者としての訓練も受けておりますので、ご安心ください、では、わたくしはこれで失礼いたします、何かご要望がございましたらこのふたりに伝えればすぐ手配いたしますので何なりとお申し付けください。」
命神教か、うーん。
去っていくグレンを無視して部屋の中に入る、パーテーションらしきものを迂回したあと目に入るのは部屋というよりオフィスみたいなところで、思わず口に出す。
「ここは?」
「こちらはわたくしたちの待機室になります、聖女さまのお部屋はこの奥になります。」
なんだこのつくり、出入りは必ずメイドの待機室を通らないといけないってこと?なんか変だな。
疑問を持ちながらも奥の部屋へと入る、部屋の中はいかにも王宮って感じの部屋で高級そうな家具とここの三人が一緒に寝ても余裕でゴロゴロできる巨大ベッドが並んでいる。
まじか、こういう部屋アニメとかでしか見たことないわ。
ドでかいベッドにメイド二人とかもうあれやんあれ。
「風呂の準備を頼む、あとなにか食べ物を用意してくれないか?」
「はい、かしこまりました。」
おのれの欲望を抑え込み、二人に最初の指示を出す。
命令を聞いたミューゼは部屋から出ていったが、リリアはその場でポケットからなにかを取り出し、さっきのグレンと同じく空中で何か操作し始めた。
食べ物用意させてその間に一人になりたかったんだが。
ってかあれは一体なんだ。さっきのグレンのやつとはまた違うような、めっちゃ気になる。
「あのう、聖女さま?何かございますか?」
あ、気になって見つめすぎちゃったか。
「いや、さきほど使ってた物体とその動きのことをな」
「あ、大変申し訳ございません、今から説明いたしますので、少々お待ちください。」
慌てたリリアは足早に待機室へと消えると間もなくして箱を持って戻ってきた。
「こちら聖女さま用に特注した魔導器になります。」
「魔導器?」
あけられた箱の中の腕輪のようなものを取り出しながら彼女へ問う。
「はい、魔導器とは約二百年前に発明された魔法補助装置のことです、これによって本来魔法の使用が困難な人でも魔法の使用が可能になって、社会に大きな変革をもたらしました。数十年前には、通信専用の魔導器も発明されて、それによって人々の生活がだいぶ変わりまして、今や生活必需品となっています。」
魔法版スマホみたいなものなのか。
「ふーん、で、これもその通信専用?」
「いいえ、こちらは聖女さまのために用意された特注品でして、魔法補助と通信両方の機能も備わっていて、且つ両方の性能も最高級となっています。」
魔導器の腕輪を回転しながら観察するが、いくつか穴が空いているだけで、特にボタンなどのものはない。
「で、これはどうやって使うの?」
「まずは精神力を魔導器と繋げて、そのあとに魔力をゆっくりと注げば起動できます。」
「精神力に魔力...」
記憶の中で精神力と魔力の使用方法に関する記憶を探す、幸い、混じり込んできた記憶の中で魔法の使用に関する記憶はたくさんあるので、すぐに見つかった。
その記憶を頼りにやってみると、あっさりと成功した。
脳内に響くような短い音楽のあと、目の前にSF映画でよく見るようなARパネルが出現した。
おお、すげー、まじ激やばなんだけど。
おっと、あんまりにもハイテクすぎてギャルが出ちゃったわ。
「これは...」
「起動できましたでしょうか?」
「ああ、たぶんね」
「もし起動できましたら、目の前に画面が出てくると思います。その画面にメッセージや通話などいろんなボタンがありますので、それぞれのボタンを押せば、その機能が起動されます。あ、実際に手を動かす必要はないんです、精神力だけでも操作は可能です。」
「うん?でもさっき君なんか手動かしてなかった?」
「それは何と言いますか、なんとなくと言いますか。わたくしも含めて手を動かす癖がある人結構多いんですよね。」
なるほど、手を動かさないと操作した実感がないって感じか。
しかしこれ完全にスマホの進化版みたいなやつだな。面白いな、この世界、こんなハイテクなら転生しても悪くないかも。
っていうか中世ヨーロッパみたいな排泄物まき散らして街中悪臭漂う世界じゃなくて良かったわ。
あんな世界に転生したあとの生活を想像しただけで寒気がする。
「さっき魔法補助機能もあると言ったよね、それはどういう?」
「はい、魔法補助は主に増幅と刻印の二つの機能によって構成されています、使うにはまず刻印機能を使って、使いたい魔法の術式をあらかじめ原素石に刻印する必要がありますが、刻印された魔法なら無詠唱かつ低い魔力消費で魔法を発動することができます。」
つまり先に刻印というものが必要ってわけか?
「先に準備が必要ってことか、結構めんどうな機能ね。そういうことなら、また別の日にしよう、風呂の準備もできたようだしな。」
そう、いつの間にか、ミューゼがすでに部屋に戻っていて、端っこで会話が終わるのを待っていた。
「ミューゼだったっけ、案内頼む。」
「はい、こちらへどうぞ。」
ミューゼの後をついてちょっとした通路を歩いたあと、更衣室のようなところにたどり着いた。
棺から起きてからずっと体がベトベトしてて気持ち悪かったので、さっそく服を脱ぎ始める。
「あ、お手伝いいたします。」
ミューゼの手伝いのもとで服を脱ぎ、浴室へと歩み出そうとしたとき、ミューゼが自分の体を見てぼうとしてると気付いた。
「わたしの体になにか?」
「あ、い、いいえ、なんでもございません、え、えっと、入浴のお手伝いもさせていただきます!」
それはつまり一緒にお風呂ってこっと?!
すっごく、魅力的すぎる提案だが、ちょっと一人の時間がほしいので断らせていただきます。
決して自分の暴走が怖いからではないぞ。
「いや、それは結構だ」
「でも、設備の使い方とか...」
「わからなかったら聞くよ、君はここで待機すればいい。」
「は、はい、かしこまりました」
うっ、これでいい、可愛い美少女とイチャイチャ洗いっこしたいが、今はまず一人で状況整理する時間がほしい、ごめんね、ミューゼちゃん、あとでたっぷりと可愛がってあげるから。
心の涙を拭きながら、私は浴室へと進軍した。