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グラントゥギア 転生聖女放浪編  作者: ジャックス・R・ドンブリ
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第 37 話 

「う~ん。」

「お目覚めになられましたか?聖女さま。」

「うーん、うん?」

 いつものように枕に触るとおかしな感触でした、ぷにぷにで、すべすべで、すこしひんやりしてて...

 思わず目を開けると目の前が真っ黒で、寝返ってみたらそこには二つの山があった。

「あれ?わたしミューゼの膝枕で寝てたっけ?」

「は、はい、そうですよ、覚えてらっしゃいませんでしたか?」

 うん?確か普通に寝たはずだが...あっ、そういえば寝る前の警戒魔術を忘れてた、一応ミューゼがいるから大丈夫だろうけど、すこし気を緩みすぎちゃったな。

「まあ、いいか、わたしどれぐらい寝てた?」

「一時間も寝ていません、もうすこし寝ますか?」

「ルカスのほうの準備はできているよね?」

「はい、30分ぐらい前に報告がありました。」

 仕方がない、もうすこしミューゼの太ももを堪能してもいいが、さすがにこれ以上待たせるのはよくない。

「なら起きるよ、寝るのは終わってからでも遅くはない。」

「でもそれでh...」

 ミューゼの言葉を待たずに左手でミューゼの太ももを鷲掴みして、それを支えに起きた。

「それでなに?」

「いいえ、なんでもございません。」

「そう?じゃ行こうか。」

 スッと立ち上がって仮眠室から出ようとした時、袖が引っ張られた。

「待ってください、聖女さま、服が乱れています。」

「ああ。」

 そう返事して、わたしはそのまま両手を広げ、ミューゼが整理してくれるのを待った。

 わたしもこういう生活すっかり慣れちゃったな。

 丁寧に服を整ってくれるミューゼを見てそう思ってしまう、それと同時に王宮の外に出たあとの生活が心配になりはじめた。

「はい、終わりました。」

 笑顔で見上げてくるミューゼ。

 うーん、ミューゼも連れて行っちゃうか?ああ、でも聖棘のこともあるしな、クソ。

 そんな悩みを抱えながら、わたしは部屋から出た。


 王宮訓練場 室内訓練室

「これはどういう?」

 ミューゼと一緒に知らされた場所に来てみたら、入口部分が完全にカーテンで仕切られていて、カーテンの内側にはリリアたちがいた。

「こちら側が見られないようにするためです。」

 一応お面つけてきたし、あんまり意味ない気もするが...

「まあ、いいか、はじめるので、リリアとミューゼは一旦外で待っててくれ。」

「不躾なお願いですが、この場で滞在することをお許しいただけないでしょうか?」

 珍しくわがままを言うリリアにすこし驚いていたところ、後ろのナディがちゃちゃを入れてきた。

「リリア姉さん調子乗りすぎですぞ。」

 その言葉を聞いて顔の表情が崩れかけるリリアを見て、思わず笑ってしまった。

「ふはは、はあはは。」

「あの~、聖女さま?」

「ああ、ごめんごめん、いやあ、面白くて。コホン、ここにいたら巻き込まれるわよ、ルカス隊長との会話聞いてただろう、あれはウソではないよ。」

 リリアの怒りメーターがぐんぐん上がってるの感じたので早速話題を変えた。

「承知しております、ですがこの国にはもうリスクを恐れている余裕がないのです。」

「はあ、覚悟があるならわたしから言うことはない、ほんと戦争は人を狂わせるねえ、でミューゼは?残る?」

「いいえ、わたくしはもうちょっと聖女さまのおそばにいたいので遠慮しておきます。」

「一番まともじゃない人が一番まともな選択をしたのか、本当狂った世の中だぜ。」

 退室していくミューゼの背中を見てわたしは呟いた。

「聖女さま?何かおしゃいました?」

「ううん、なんても、さあ、はじめよう、ナディ、そこに座れ、リリアは外の兵士どもに準備するように言ってくれ。」

「はい。」

 リリアがカーテンの向こうへ消えたあと、椅子の上に胡坐をかいているナディが口を開いた。

「師匠、リリア姉さんの安全を守ったりする方法はないの?」

「なに?心配してるのか?」

「うん、ほんのちょっとだけ。」

「ふ、うふふ、素直じゃないね。」

「本当にちょっとだけだもん!」

「はいはい、ちょっとだけね。」

「もおおお!」

 ナディをからかって楽しんでるうちに、リリアが返ってきた。

「聖女さま、兵士たちの準備ができました。」

「リリア、これつけとけ。」

 そう言って、わたしは手に持ってたものをリリアに投げた。

「え?これは...首飾りですか?」

「保険だ、あなたがいなくなったら誰かさんが困るんでね。」

「誰かさん?わかりました。」

 少し考え込んだら、リリアはなにかを納得したようにネックレスをつけた。

「じゃ、行くぞ。」

 深く息を吸い、そして吹き出す空気とともに、体内にある精神力も噴水のように吹き出し、訓練場内を充満した。

「おおう」「これが...」

「どうだい、平気か?」

「全然平気!」「はい、これぐらいなら...」

 生意気ね、二人ども、でも、仕方のない、精神領域とは本来精神力を大量放出し、一気にコントロールすることで精神力の強度と制御技術を鍛える訓練方法として使用されているものだ、こうして他人の精神力を制圧し、ましてや肉体まで圧迫するものではない。

 なぜなら、発動が遅い上に簡単に防がれちゃうからだ。たとえわたしほどの化け物級の精神力を持ってしてもこんな下級魔術師を一瞬で無力化することができないぐらい実戦では何の役にも立てない技術だが、長い時間をかけてかつ精神力を放出すれば、自分より一階級弱い相手までなら、その精神力完全に制圧し、意識を失わせることもできちゃったりする、まあ、そんな暇があったら魔術使ったほうがよっぽど早いが。

 強気な二人を煽ることもなく、ただひたすらに精神力を放出させる。

 一分後。

 訓練場の空気はまるで泥沼のようになり、さっきまで生意気なこと言っている二人も言葉を発することができなくなり、呼吸すら困難になり始めた。

 ちなみに仕切りのカーテンの外の兵士たちはすでに大半が倒れていた。

「そろそろかな。」

 この言葉と同時に、わたしは精神力の放出スピードをさらに上げ、そして訓練所を充満する精神力領域範囲をぎりぎりまだ耐えている人を囲える範囲まで収縮させはじめた。

 突如激増する圧力のもとに、受験者たちは次から次へと脱落した。

 次第にリリアが限界に達し、身につけていたネックレスが自動的発動し、防御魔術起動され、気絶しかけたリリアを守った。その数秒後、ナディも意識が飛びそうになってたので、彼女からも精神力を引き上げ、最後に残ったカーテンの外にある二人の兵士に集中した。そして二人の魂が押し潰されそうになった時、深い海のような精神力はまるで引き潮のように一瞬で訓練場から消えた。

「リリア、ナディ、終わったぞ、立てるか?」

「はい、聖女さまのおかげで何とか。」「も、もちろん。」

 そう言いながら、汗だくで顔の血色も引いた二人はふらふらと立ち上がった。

「そう?なら二次テスト始めようか。」

「「ええ?」」

「ふはは、うそうそ、冗談だよ、二人ども帰って休憩していいぞ。」

「師匠、冗談きついっすよ。」

「二人ども強がるからね、それぐらい...」

「聖女さま、あっ、お邪魔して申し訳ございません。」

 兵士たちの面倒を見終わったか、ルカス隊長が入ってきた。

「いや、二人とも先に帰って休憩しな。」

「「はい。」」

 体が限界だったからか、二人とも特に何も言わずに帰っていた。

「で?どうだった?」

「最後まで残った二人の精神力強度が上がりました、戦争が始める前には中級に上がれるでしょう。これも聖女さまのおかげです、部下たちに代わって感謝申し上げます。」

「本人たちの努力の賜物だ、本当に感謝したいなら一つ約束をしてくれ。」

「何なりとお申し付けください。」

「ナディ、あの青髪の子だ、あの子を弟子にすると考えている。だから、わたしがいない時はあの子の面倒見てやってくれ。」

「はい、もちろんです。」

「なら約束だ、忘れないでくれよ。」

 そう言い残し、わたしは訓練場から出た。

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