第 36 話
「さて、どうしようか、直接ここで始める?」
「え?なにを?」
「なにって、テスト以外なにがあるっていうの?まあ、疲れたというなら一日待ってあげてもいいよ。」
「大丈夫っす。」
「じゃー。」
「待ってください、聖女さま。」
椅子から立ち上がり、始めようとした時、リリアが割って入ってきた。
「ん?」
「申し訳ございませんが、できれば休憩室を壊さないでいただきたいと言いますか...」
「壊さないわよ、わたしをなんだと思っているの?ちょこっと精神力を外に出すだけだよ。ああ、君らも巻き込んでしまうかもだから、一旦外に出てもいいよ。」
「精神力?」
「下級魔術師じゃわからないか、君らにはまだ早いもんね。」
説明してやるかどうかを悩んでる時、ずっと端っこで黙ってたルカス隊長が突然口を開いた。
「聖女さま、もしよければそのテスト、うちの隊員たちにも参加させてもらえないでしょうか?」
「うん?」
「精神領域の耐久を行うおつもりですよね、聖女さまほどのお方の精神領域を体験できる機会なんて二度とありません、ここでお願いしないでは上司失格です、今後の危機で生き延びる可能性をすこしでも増やすためにもどうかお願いいたします。」
はあ、だるっ、正直野郎どもが死のうか死ぬまいか知ったことではないが、聖女の体裁上断るわけにもいかない。
ああ、いやな思い出がっ、クソ。
「なにを狙っているかはわかるが、止めたほうがいいと思うよ、成功率低いし、一歩間違えば廃人になる危険性すらある。」
「リスクは重々承知です、彼らにも正直に伝えますので、どうかチャンスだけを。」
頭を下げるルカスにわたしは冷たい目で見下ろしながら詰めた。
「言っておくが、わたしのコントロールをあてにしてるならそれは見当違いだぞ、やるのも久しぶりだし、あそこのバカの面倒を見るが精一杯だ、君のところの部下の面倒を見る余裕はない。」
「承知しております、たとえ最悪な状況になったとしても、聖女さまを恨むようなことは決してないと保証いたします。」
ああ、ここまで言って引かないとかなんなん?石頭かこいつ。
「はあ、そこまで言うならいいだろう。場所は君が用意しなさい、注意事項とかは知っているよね?」
「ありがとうございます、もちろんです。」
再び椅子に座り、肩を軽く叩きたら、ミューゼが察したようにわたしの肩を揉みはじめた
「ならちゃんと伝えておくように、勝手に自滅されても困るからな。」
「はっ。」
すでに目をつむり、頭をミューゼの膨らみに寄りかかっているわたしがその返事を聞こえたら、まるで虫を追っ払うように軽く振り、退室するように指示した。
ルカスが退室したあと、部屋は一瞬で静まり返った。
わたしが自分の髪とミューゼの服の摩擦音とミューゼの手が肩に触れる音のハーモニーを堪能してる時。
「師匠!そういえば注意事項ってなんですか?」
うるさいな。
やかましいナディを無視し、頭をすこしずらし、谷間ではなく左側の山頂へと移動し、なにかを探るように円を描く。
なにを探ってるって?それを語るにはまずこの世界の深い深いブラジャー事情を語らねばなるまい。
この世界のブラジャーは基本的に二種類に分けられる、一つは運動用、言わばスポブラだ、基本的ポニーの皮膜で作られて、通気性は少々劣るが、かなりの弾力性を誇っていて、しかも肌にぴったり張り付くので、しっかりと女の子の揺れを抑えている、ちなみに自分が着ているのもこのタイプの上級版でより通気性のいい、かつひんやり冷却機能付きという優れもの。
そしてもう一つは一言で言えば布、とにかく薄い布、普段用で支え性能は低く、とにかく通気性重視のもの、パットとかももちろん入れないので、服の上でも十分に形を感じることができる、つまりもし今ミューゼがこのタイプを着ているのであれば...
うん?ちょ、なんか力強くない?ミューゼ?
残念ながらわたしがまだミューゼの紅一点?二点?を感じ取っている間に、無視されたナディはおとなしくするはずもなく、わたしのとなりまで来て体を揺らしてきた。
「師匠!師匠ってば!」
さすがにこれ以上の探索はもう無理だと悟り、名残惜しいがミューゼの体から離れ、座り直る。
「なんだ?」
「注意事項のことを、うん?ミューゼさん顔なんか赤くないっすか?」
ナディの言葉を聞いて振り返って見るとミューゼはすでに背を向けてきた。
「な、なんでもないです。」
ミューゼはそう否定しているが、わたしはその後ろから見える耳に帯びた赤らみを見逃していなかった。
ちょっとからかってみると口を開こうとしたが、よく考えたら自分のせいそうなったのに、それをからかって楽しみを見出すとかさすがに鬼畜すぎるのでやめた。
「コホン、注意事項のことならナディが気にすることではない、あなたには無関係なことだ。」
「ええ~、教えてよ。」
「はあ、精神力を体外に出してはいけないことだよ、あなた精神力を体外に出したことあるのか?」
「むう、それぐらいあるよ。」
頬を膨らませながら反論してきたナディの顔を手で両側から挟み、唇を尖らせる。
「はいはい、でも精神力探査や探査魔術を行うような習慣はないだろう?いや、そもそもできないか。」
「うぅ、う、おう!もう、師匠嫌い!」
ナディは自分の顔を抑え付ける手を振りほどき、また頬を膨らませながらリリアのところに行った。
「リリア姉さん、師匠が意地悪~。」
「ね、姉さん?ナディアーナ、調子に乗りすぎです。」
抱きつこうとしてくるナディの頭に重い手刀を一発かまし、そしてそのまま二歩下がり、ナディの抱きつき攻撃を躱した。
「姉さん、痛いっす。」
「痛いぐらいがちょうどいいです、聖女さまが優しいからって不敬がすぎます。」
優しいか、冷たいとか、人の心がないとか昔じゃよく言われてたけど、優しいって言葉使われたのはいつぶりだろう。これは身分が変わったこと周りの基準も変わったのが原因なのか、それともカルシアの記憶を取り込んで丸くなったのが原因なのか。
「ふけいなんてない、めっちゃくちゃ尊敬してるっすよ。」
「はあ?その口調がそもそも不敬なんです!あと、聖女さまのお体をベタベタ触るの不敬...」
延々と説教を始めるリリアを見て何だか眠くなったので、後ろのミューゼに声をかけた。
「ミューゼ、眠い、仮眠室にいこう、すこし寝る。」
「あ、はい。」
リリアの説教とナディの反論を背景音にわたしはミューゼの肩を借りながら仮眠室へ行った。