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グラントゥギア 転生聖女放浪編  作者: ジャックス・R・ドンブリ
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第 34 話 

 普段兵士の叫び声や魔術の飛び交う音に埋め尽くすされてた訓練場はいま風の吹き抜く音のみ鳴り響いている。すこし前まで訓練に汗を流していた兵士たちも今は観戦台の近くで集まり、訓練場の中心を眺めている。

 そこには青い髪の少女と魔導装甲で全身を纏った男が対峙している。

「確かに人払いはしてないが、これはこれで悪目立ちすぎでは?ルカス隊長。」

 一部の若い兵士がちらっとこっちに飛んでくる視線を感じながら、わたしはその近衛隊長のルカスに文句を垂らした。

「申し訳ございません、新兵どもにはあとでしつけておきますので。」

「いや、別に彼らを責めているわけではないんだが...」

「寛大なこころ感謝いたします。ですが、お偉い方はみんなが聖女さまのようなお方ではございません。この王宮内で見てはいけないものを見てしまったことがどれだけ恐ろしいことか今のうちに体に叩き込むのも彼らの身のためです。」

 こわっ、どうりで古株の兵士たちはまるでわたしがアザトースやニャルラトホテプみたいに視線を避けるわけだ。

「なるほど、それが隊長の方針ならとやかく言うつもりはない、だがさすがに魔導装甲はやりすぎでは?」

「魔導装甲ですか?ああ、対戦相手のことですか、リリアさんの話では中級に限りなく近い下級魔術師の相手と聞いていますので、下級になったばかりの新兵に魔導装甲を付けさせましたが、まずかったでしょうか?」

 まずかったでしょうか?まずいに決まっている、確かにナディの精神力や魔力の実力はあと一歩で中級だ、普通ならそれで釣り合うだろう。だがナディは普通じゃない、彼女はパワー一点押しの筋肉バカだ、装甲兵との相性は最悪と言って過言ではない。

「そろそろ始めましょうか?聖女さま。」

「あ、うん、始めてくれ。」

 まあ、ただのテストだし、合格の基準はわたしの一存で決まるので、勝っても負けても別にいいか。

「はい、はじめ!」

 ルカスの合図と同時に、まるで張りつめた布が引き裂かれたように、静けさに包まれた場の空気も一気に流れ出した。

 最初に動いたのは青髪の少女、まるでイノシシのように装甲兵士へと突進しながらお得意の魔術たちを自分に掛けた。

 そして相手の方も王宮衛兵の名に恥じぬスピードで反応し、防衛態勢へ入り、魔力障壁と衝撃緩和をかけ、すかさずに三つ目の魔術を発動しようとしたが、すでに間合いに入ったナディがそれを許すはずもなく、重い一発を兵士の胸に見舞った。

 ドン。

 拳と装甲の衝突音が訓練場の外まで響くほどの重い一撃だが、すでに防御を固めた兵士はわずか一歩下がっただけ。さらに攻撃を耐えた兵士はすかさずナディの攻撃後の隙を狙い、攻撃して来たナディの手を掴み、そのまま懐へと引きずろうとした。

 このまま引きずりこまれたら装甲の利で押し込まれるを悟ったナディは身をくるませ、両足で兵士の腹を思いっきり蹴りを入れたと同時につかまれた腕のグローブの固定具を外し、片手のグローブを犠牲に縛りから解放された彼女の体はそのまま蹴りの反動で宙を舞い、空中を数回転して着地した。

 一方蹴りを喰らった兵士は数歩下がり、掴んでたグローブを地に捨てた。

「やっぱり相性最悪だな。」

「彼女ってもしかして...」

「もしかしてしなくてもいい、彼女は力のゴリ押ししかしないタイプだ。」

「やっぱりそうですか、これは申し訳ございません、今でもやめさせましょうか?」

「ほう、魔導装甲に詳しくないが、そこまで厳しい戦いなのか?」

「はい、魔導装甲は戦場でのあらゆる状況を即時対応できるように刻印石を大量に埋め込めています。戦闘だけでなく偵察から治療まで全部一人でこなせる万能さ、加えて重装甲による物理攻撃への高い耐性、きっと彼女にとって苦しい戦いになるでしょう。」

 物理攻撃しかできないキャラで物理耐性90%かつ自己回復もできるボスに挑むような感じだ。わたしだったらコントローラー投げつけてしまうような無理ゲーだ。

「ええ、某の予想では彼女の地力の強みを生かして消耗戦に持ち込んで決着を付ける構図ですが、今はそれも難しいでしょう。」

 ルカスの予想通りに、訓練場にいるふたりは数回ぶつかり合ったが、ナディは明らかにお手上げ状態だ。

 機動性の高さを生かして何発か相手に入れたが、どれも決め手にはなれず、逆にウンターを狙われて何度つかまれかけた。

 もう決着はすでに着き、あとはナディ自身が諦めるのを待つのみだと判断したその時、装甲兵と対峙していたはずのナディが急にこっちに走って来て大きな声で叫んだ。

「師匠お!このグローブ使わなくてもいいですか?」

 おい、まだ戦闘中だぞ、このばかが。

 兵士のほうを見てみると、突然のことで戸惑ってるのか、追いかけても無駄と判断したのか、まだその場で動かずにいた。

 ため息を吐きながらも指を喉に近づかせた、そして魔力光の閃きのあと、わたしは訓練場を響き渡るほどの中性的な声で喋り始めた。

「好きにしろ、戦闘中に相手に背を向けるな。」

「あ、はい、すみません。」

 そう謝りながら、ナディは残ったほうのグローブを脱ぎ捨て、ポケットから汎用型の魔導器を取り出した。

 そして、今すでに掛かってた魔術を解除し、その魔導器でもう一度かけ直した。

 うん?なんか特別な刻印をしてたのか?

 武器型の魔導器は特注なので、当然その刻印石も武器の形状に合わせる必要があるので、汎用型の刻印石は大抵使用できない。

 なので彼女に渡したグローブにはすでに彼女の使用する魔術の基本型の刻印石が入ってた。

 ただ、同じ魔術でも人によってアレンジされたりする、いや、むしろアレンジをしてはじめてその魔術を掌握したと言えるだろう。

 しっかし、下級魔術師であるナディが今この不利な状況を覆せるほどのアレンジができるのか?

 再び対戦相手と向き合ったナディの背中を見てわたしは思わず疑った。

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