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グラントゥギア 転生聖女放浪編  作者: ジャックス・R・ドンブリ
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第 28 話 

 カゼッタ連邦 首都ウーゼンルブ郊外 第六農園

 田中の朝は遅い、これは地球にいたころからの習慣である。

 いや、正確にはいじめでひきこもった時からの習慣である、その習慣は異世界にきても変わることなく、今日も昼頃に起き、朝食と昼食を一緒に食し、ベッドでネットサーフィン、いや、異世界情報収集活動を行っている。

 今はこのようにゴロゴロする田中だが、最初のころはちゃんと転生者らしく心ウキウキだった、魔法で無双したり、地球の知識で商品発明してがっぽり稼いだりと妄想もしてた。

 だが、現実はそんなに甘くなかった。魔術の才能は皆無、いや、まったくないわけではないが、無双どころか、自分を守るすら厳しいと酷評されちゃうようなレベルだった。発明はなおさら無理だ、この世界はよくあるファンタジー小説のような中世設定ではない。地球でバリバリ最先端研究をされている科学者ならともかく、ただの高校生、しかも成績中の下ぐらいの高校生の知識など見せびらかすほどの価値もない、むしろいろいろ勉強しないと生きていけないぐらいだ。

「なんか引きこもった時の生活とあんまり変わらなかったな、まあ、親とか学校とか考えなくてよくなったか。はは。」

 乾いた笑いを引きずりながら田中は自分の人生を嘆いた。

 田中はお金持ちの家の生まれだった、もちろんお金持ちって言ってもフォーブスにのるような家ではなく、ただのちょっとした資産、ちょっとした収入をもつちょっとしたお金持ちの家。本来ならそんなお金持ちの家に生まれてハッピーだったはずだが、問題は生まれてきた田中の顔は両親とまったく似ていなかった、父親は当然浮気を疑い、興信所を雇い、母親のことを調べ上げた。

 結果は白、だった、母親は浮気をしていなかったが、整形はしていた、そして田中の顔はその整形前の顔とそっくりだったらしい。つまり、田中の父親は騙されたってわけだ、ただ世間体を気にしてか、二人は離婚しなかった。

 そこからの田中の家庭環境は最悪だった、父親からは騙されたことを思い出すからと見向きもしてくれない、母親は昔の自分を思い出すからと嫌な顔される。さらに、夫婦喧嘩するたびに自分の容姿をネタとして持ち出され、尊厳を踏みにじられる。

 こんな家庭環境で育てられた田中はもちろん学校でもうまく行くはずがなく、小さいごろからいじられることはあった、ただ、父親の金のおかげで、田中の通う学校はどれも厳しい校風なため、いじりは言葉止まりで、それ以上の行動に発展することはなかった、高校までは。

 トン、トン、ガチャ。  

「勇者さま、レイラ秘書官のお呼びです。」

 事務的に二回ノックして返事も待たずに勝手に入室したのは女性の使用人のユニーさんである。

 蔑むような冷たい目でベッドに寝転がっている田中を見下ろし、催促する。

「早く起きてください、レイラ秘書官がお待ちです。」

 そんな視線で見られるのを慣れたように田中は寝返りをしながら文句を垂らした。

「またあれか、もういいでしょう、あんだけやってましたし。」

「あれぐらいしか価値がないくせに、このごくつぶしがっ。」

 田中の文句を聞いて、ユニーは思わず小声で呟いた。

「え?いまなんて?」

 本当はバッチリ聞こえていたが、敢えて聞こえないふりをする田中。

「何でもありませんわ、勇者さま、秘書官の話によれば、今日は別の目的で来られたらしいですよ。」

 田中が敢えて触れないであれば、ユニーももちろん自ら職を捨てるようなことはしない。

「え?マジで、じゃ行く、着替えるから出てて。」

「はい、早くしてください。」

 ゆっくりと閉じられたドアに隠されるユニーの背中を見て田中は思わずため息漏らす。

「なんか、最近どんどん冷たくなってるな、最初はあんなに優しかったのに。」

 召喚された日、レイラに案内され、この部屋で二人が最初に紹介された時、ユニーは彼に対し、普通、いや、非常にいい態度だった。容姿が原因で、初対面から嫌な顔をされることが多かった田中に、ユニーはそんな態度一切見せることなく、ごく友好的だった。

 そんなユニーが最近冷たくなる理由はバカな田中でもわかる。引きこもって、毎日負のオーラを撒きちらしてたら、ごくつぶしと罵られても不思議ではないだろう。

「よし、いくぞ。」

 服を着替え、身たしなみを整い、鏡を見て確認をする田中。

 もちろんだらしない体型のせいで、いい服を着ていても決してかっこいいとは言えないが、すこしぐらいはマシになると、田中は自分を慰めた。

 ドアを開き、田中はそのまま外で待っているユニーを通りすぎ、先頭を歩いた。

「レイラさんはどこに?会議ですか?」

「第一会議室にいらっしゃいます。」

 せっかく仲良くなったつもりであるユニーさんに愛想つかされたが、田中にはまだ希望がある。

 そう、レイラ秘書官だ。

 召喚された日、田中はレイラ秘書官に一目惚れした、もちろんそれは無理もない、スタイル抜群な美人秘書官に田中ごときがかなうはずもない。それにただ見た目だけではない、対応も何もかもが素晴らしかった、常に笑顔で、田中のどんなくだらない話でも興味津々に聞いてくれて、否定するような言葉は一切しないし、田中がへこたれた時も優しく励ましてくれる、もはや女神そのものだ。

「コホン!勇者さま!」

「あっ。」

 田中がレイラのことで妄想を膨らませている間、いつの間にかすでに第一会議室の前に到着した。

 慌てて身なりをチェックを行い、田中はドアを軽くノックした。

「どうぞお入りください。」

 部屋の中からの女性の声を聞いて田中は一層ウキウキになった、そして心なしか背中から感じるユニーの視線がより一層冷たくなった。

 たるんだ表情を引き締め、田中は入室した。

 秘密施設だからか、第一会議室と言ってもよくテレビで見るような長い長いミーティングデーブルが置かれただだっ広い会議室ではなく、せいぜい十人が入るかどうかぐらいの小っちゃい部屋だ。

 そして今この小さくて素朴な部屋の窓際に、レイラ秘書官が優雅に座っていた。片手で頬杖をし、もう片手は指先でデーブルにあるコップの縁をなぞるように撫でていて、退屈そうにしている彼女だが、窓から射す朝の日光のもとでまるで輝いてるような彼女のその金色の髪と白い肌が田中の中の憧れをより一層焦がれさせた。

「勇者さま!」

 田中の入室を見て、レイラはふと立ち上がり、眩しいほどの笑顔を見せた。

 その動きにより激しく揺れるなにかと共に田中の心も激しく揺れた。

「おっ、おはようございます、レイラさん。」

「おはようございます!」

 頭を下げながら元気よく挨拶してくるレイラの向かいの席に田中は座った。

「ええと、今日レイラさんがきたのは検査のためではないと聞いていますが...」

 検査というのはそのまま体の検査のことです、地球から持ち込んだ微生物の安全性の確認、また逆にこっちの世界の環境に適応できるかの確認という名目で、様々な検査を受けてきた。ただあくまでも名目で、なにせ異世界人が来たわけで、実際は研究のためにそれ以上の検査を行っていたでしょう。

「うーん、今日は検査のためではないと言いますか、今後はもう検査はないと言いますか。」

「え?もう検査はないんですか?」

「はい、そういうことになります。」

 その言葉を聞いて、田中はほっとしたと同時にすこし失望を感じた、なぜなら、検査の時はいつもレイラが付き切りで見守ってたが、それがなくなったということはつまり、これからレイラと会える機会が消えたということです。

「そう、ですか、今日これを知らせるために来たんですか?」

「それだけじゃない...かな。」

 煮え切らない返答に田中がすこし疑問に思うと、レイラの視線が自分の後ろに向いていることに気付く。

「ええと、ユニーさん、ちょっと喉が乾きましたので、飲み物持って来てくれませんか?あ、ボルディッシュ?という飲み物ちょっと気になってましたので、お願いできません?」

「ボル、ディッシュ?わかりました。」

 聞いたことなかったのか、ユニーさんはすこし眉を顰めながら退室した。ボルディッシュがなんの飲み物なのか正直田中自身もよくわかっていない、ネットですごい手間のかかるものだと見ただけだ。

「レイラさん、これで大丈夫でしょうか?」



しばらくの間田中の話になりますが、実は田中の下の名前がまだ決まっていないです、もしみんなさんにいい案があれば教えてください。ただ、自分の名前をというのはあんまりおすすめしません、そんなにおいしいキャラではありませんので。

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