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グラントゥギア 転生聖女放浪編  作者: ジャックス・R・ドンブリ
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第 27 話 

「おいおい、これは一体どういうことだ?」

「知らんわい、あいつらついに国王でも殺ったのか?」

 普段見ちゃいけないものを見てしまわないようにの野次馬はしない主義の地下街住人たちでも今日は野次馬をせずにはいられなかった。なぜなら今この地下街で鳴り響く音が住人たちにとってあんまりにも異様、そして、聞きたくない音だったからだ。悲鳴や叫び声を聞きなれた住人たちにとって、今この地下空間全体に響く重い足音と魔導装甲の鳴音は淫魔の囁きに等しく、聞いただけで呼吸が荒く、鼓動が早くなる、別の意味で。

「おい、庭の方に行ったぜ、見に行くか?。」

「はあ?死にたいなら一人で死ね、俺はごめんだぜ。」

「ちぇ、腰抜けが、俺は行くぜ、俺みたいなコソ泥なんざつかまってもせいぜい何年かブタ箱にぶち込まれるだけだしな。」

 遡る十数分前。

 地下街 庭 

 エレスたちが管理会の人に絡まれた時。パーロッドは庭の子供たちと合流した。

「パーロッド、大丈夫か?」

「ああ、大丈夫だ、ガルフ。」

 パーロッドは自分を囲んでくる仲間たちを見渡し、ちょっと離れているひとりの女の子に声をかけた。

「フィーネ、今すぐ帰ってみんなに知らせてくれ、自分の私物を片付けていつでも移動できるようにしろって。」

「え、あたし?」

「ああ、はやく行ってこい。」

「あ、はい。」

 呼ばれた女の子はそのまま何も聞かずに南側の大きな建物、寮に向かって走っていった。

「パーロッド、どういうことだ、荷造り?まさか、管理会の連中に追い出されるのか?」

「違う、取引のためだ。」

「はあ?子供たちを売るってことか?てめえ?」

 パーロッドの言葉を聞いたガルフはすく激昂し、彼の胸倉をつかんできた、ほかの仲間たちも疑いの視線を向けてくる。

 湧き上がる罪悪感をぐっと抑え、弁明する。

「違う、売ったのは情報だ。」

 ガルフの手を振りほどき、さっき大男に言われたカモフラージュの取引内容を説明する。

 内容を聞いた仲間たちはみんな黙り込んだ、一人を除いて。

「取引はわかった!けどなんでナディを連絡係にする必要があるんだ?俺が行けばいいだろう。」

「向こうの要求だ、理由は教えられていない。安心しろ、安全の保障は約束してもらった。」

「そんなのわからないだろうが!わざわざ女の子を要求するなんて、どんなことされるかわからないぞ、もしナディが...」

「俺の目を信じろ、あの人がそんなことするやつには見えない、それにナディアーナ自身も納得をしている、ナディは庭随一の魔術師だ、俺は彼女を信じるし、お前も信じろ。」

「でも、彼女は、ああああああ。」

 言葉に詰まらせたのか、ガルフは叫びながら寮へと逃げて行った。

「どうしたんだあいつ?」

「お前は相変わらず鈍いなパーロッド。」

「は?まあ、いい、君らも準備始めてくれ、上にいったら今までのように好き勝手にはできない、今でしかできないことは今のうちにやっておけ。」

「「はいー。」」

「さあ、俺たちも帰っ。」

 パーロッドたちが庭の門をくぐろうとした時、例の音が響いた。

「どうやら俺はまだここにいた方がいい、お前たちは先に帰って準備しろ。」

 庭。

「この音、そろそろ到着ですね、せい、兄貴。」

「もう別に言い直さなくてもいいだろう、もうここまで来たし。」

「兄貴にとってはそうかもしれませんが、わたくしたちはそういうわけには参りませんので。」

「そう?君たち大変だな。」

「ご理解ありがたく存じます。」

「感謝するなら、グレンをなんかいい感じ言いくるめる方法考えといてくれる?」

「え、ええと、その、うーん。」

「冗談だよ、冗談、そんなに悩まなくていいよ、さすがのわたしでもそこまで鬼畜じゃないわ。」

「そうですか、冗談ですか、ハハハ、面白い冗談です。」

「え、もしかして怒った?」

「とんでもございません。リリアが兄貴に怒るなんて、ええ、怒ってなどいません、いきなり屋敷を出ると言い出したことも、いきなり地下街に行くと言い出したことも、その地下街に来てなにをするのかを教えてくれなかったことも、こんな大事に発展させたことも、しまいに責任をリリアに押し付けようとからかったことも、リリア全然、これっぽちも怒ってませんよ。」

 え、こわ、怒ると第一人称が自分の名前になる人初めて見た。

「あ、はは、それはなんというか、あ、見えたよ、グレン。」

 どうやってリリアを宥めようか苦慮しているとき、助け舟が天(王宮)より降臨してくれた。

 数百名の魔導装甲を着込んだ兵士が土煙を撒きながら物凄いスピードでこっちに向かって来ている。

「こっち、こっち。」

 その群れに向かって手を振ったら、さらに加速して突っ込んできた。

「せ、カルシアさまで、あってます?」

「この程度の偽装も見破れないのか?グレン?」

「あ、申し訳ございません、急いで参りましたので気が動転してしまいました。」

 すこし落ち着いて来たグレンは周囲を見渡し、リリアたちと会釈してこっちに向き直った。

「申し訳ございませんが、ここに呼び付けたのは一体どういう御用向きでしょうか?」

「ああ、ここの地下街管理会?がわたしのやることに文句があるそうで、あの禿のおっさんが怖い声で脅迫してきて、わたしもう怖くて、怖くて~」

 せっかく面白い状況なので、精一杯スイーツ女子やってみた。まあ、下手すぎてスイーツビッチになってるかもしれんが。

「おやめください、演技だとわかっているとは言え、あなたさまがやると破壊力は半端ないのです。」

 わたしの下手な演技に対し、グレンは顔を赤らめながら速攻で目をそらしたが、この場にいる他の人、特にナディアーナは別の意味で目を覆った。説明すると、グレンの目にはわたしはカルシアの姿で映ってるけど、他の人からは筋肉おじさんが甘えているしか見えないからだ。

 そしてグレンはその筋肉おじさんに発情しかけている、うはは。

「ふ、面白いもの見れたからよし、では用件を言おう、まず下町に孤児院を作ってこの庭の子供を全員上に移す、あと、この子。」

 後ろでぼうっとしているナディアーナをとなりまで引っ張る。

「この子を双蓮宮に住まわせるわ。」

 わたしの言葉を聞いて、グレンはしばらく考え込んだ。

「この子の件は問題ありませんが、孤児院は一朝一夕でできる話ではございません。まず王都の執政官にも話を通さないといけませんし、それに地下街から人を出すとなると中央貴族の人からも文句が出るのは容易に想像できます。」

「ほう、王宮の命令でも?」

「はい、残念ながら、今のラスタリア王国では王と言えど一言ですべてを押し通せるほどの力はありません。」

 立憲君主、というわけでもなさそうだが、単純に王族と貴族の力関係なのか?最近魔術の勉強ばかりで、この国の政治とかあんま調べてないからな、まあ、ええわ。

「じゃわたしの言葉でも押し通せないのか?」

「うーん、あなたさまの名前を出せば押し通せるかもしれませんが、ただそうしてしまうと予定と大きく外れてしまいます。できれば避けたいと言いますか。」

 うーん、正直わたしの中でもちょっと悩んでいた、このまま存在を隠せば後続の脱出計画で見つかる可能性が大分減少できるが、表舞台で動けない分脱出のチャンスを作る手段も減る、一利一害だ。けど、もう決心した、脱出のチャンスも作れないと脱出後のことを考えても仕方がない。そして、今わたしの計画で一番重要なピースを手に入れるためなら、多少のリスクは付き物だ。

「もうこれ以上隠しても仕方がないだろう、君ちたは連邦に不意打ちをかます魂胆だろうが、ラスタリアはそんなこと考える余裕あるのか?知ってると思うが、王都の民は戦争のことでかなりざわついている、王都でこんな感じだから、辺境とかはもうかなりやばいだろう。今すぐわたしの名を出して民のこころを安定させるほうが得策だと思わないか?」

「それはそうかもしれませんが...」

「それに、君たち本当に開戦、いや、適した戦機が訪れるまでわたしの存在を隠し通せると思ってるのか?それほど情報戦に長けているとは思えないが。」

 実際、今わたしのすぐそばにでも他人の密偵がいるわけだしね。

「おしゃる通りですが、隠した理由はそれだけではありませんので。」

 お?他にも事情があるってわけか?

 まあ、どうせ内部の事情だろう、今議会で開戦と投降で揉めてるわけだから、わたしの存在を明かせば、天秤は開戦派に大きく傾ける。それがいやなのか?それともそれに伴って何かが動き出すのがいやなのか?ああ、めんどくせー、こういう探り合いが嫌いだから喪女になったってのに、異世界に来てまたこんなくだらんことさせられるなんていやああああ!

「あれよこれよと文句ばかり、あなたたちの思惑などどうでもいい、わたしの名前を出すだろうが、他の方法を使うだろうが、とにかくやり遂げろ、それができなければすべてがパーだ。」

「そんな...」

「ふん、言っとくが、君がこんな大勢を連れてここに来てる時点で、わたしの存在はもうバレた同然だよ。」

「あっ」

 気付くの遅いよ、首席さん。

「可哀想だから、一つアドバイスしてやろう、こういう時は上司に相談して、責任を押し付けるんだよ。」

「じょう、しに相談?」

「ええ、君の場合は国王だね、安心しな、君は上位魔術師だ、この国にとって大切な戦力だよ、特に今この時期はね、重い罰下されることは絶対にない。」

 そう言って、わたしはナディアーナの手を掴んで高く上げた。

「パーロッド!この子を連れて先に帰るから、あとのことはこいつが担当する、いいね?」

「え?あ、はい。」

 状況をまだいまいち飲み込めてないのか、パーロッドの返事が適当な感じだった。

「リリア、ミューゼ、行くわよ、あ、君、何人か連れて王宮まで護衛してくれ。」

 グレンの後ろにいる隊長っぽい人に指示を出し、グレンの肩に軽く叩いた。

「ま、頑張れよ、グレンくん。」

 そう言い残し、わたしは地下街を去った。

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