第 26 話
「管理会?」
聞いたことのない名前なので、素直に疑問を口にした。
「地下管理会、この地下街の統治組織だ。」
「裏社会のトップにしてはまともそうな名前だな、もっと血塗れな感じだと思ったが。」
わたしの言葉を聞いて、知らせに来た少年を含めて地下街住人の三人が微妙な表情になった。
「まともそうなのは名前だけだ、それ以外は血塗れどころか屍山血河だ、で?管理会の連中がなぜここに?」
パーロッドの問いかけに少年はこっちを見て言い淀んだ。
「それは...」
この感じはわたしたちが原因っぽいな
「どうやらその管理会って連中はわたしたちに用があるみたいだね、自分がまいた種は自分が刈るよ、パーロッドは荷造りでもしてな。」
「大丈夫なのか?」
わたしの言葉ですこし安堵した表情になるパーロッドだが、それでも一応建前的に心配のふりをする。
「大丈夫じゃないから、お前らでなんとかしろ!」
一瞬でこわばるパーロッドの顔を心の中で笑いながら言葉の後半を口にする。
「なーんて言ったらなんとかできるのか?」
「からかわないでくれ、旦那よ、これで心臓病にでもなったら旦那に治療してもらうからな。」
「ふ、本当になったら治療してやるよ、さあ、さっさと仕事しな、ナディアーナはついてこい、あと、リリア。」
「え?はい!」
本名呼びに戸惑いながらも元気に返事するリリア。
「グレンを呼べ。」
「グレンさまをですか?」
「ああ、衛兵でも宮廷魔術師でも集めてこい、とでも、いや、いいわ、わたしから連絡する。」
そう言ってわたし即座に魔導器を起動し、グレンに通信をかけた。
「聖女さま?リリアを通さずに直接連絡してくると珍しいですね、如何なさいましたか?」
暇してるのか、グレンはすぐに出た。
「グレン、今すぐこい、衛兵でも宮廷魔術師でもとにかく人を集めてこい、今地下街の庭にいるから、待ってる。」
「え?それh。」
グレンの返事を待たずにパッチンと通信を切って、そのまま小屋の外に出た。
小屋の外の人は先ほどの監視塔から見えた庭の子供が数人、地下街に入った時遭遇した見張りの二人とその仲間、あとはミューゼ単独一人、という三つのグループに分けて立っていた。
迷うことなく、真っ直ぐにミューゼの方に直行すると他の二つのグループが近づいてきた。
庭の子供たちは後ろのナディアーナの存在が気になってるのか、こっちをチラチラ見ながらもそのまますれ違い、あとから出てきたパーロッドたちの方に向かったが、管理会の方は遠慮もなくこっちの進路を遮断してきた。
「あんたが責任者か?」
「そうだが、何か用か?」
話しかけてきたのは禿のおっさんだ、身なりは高級とは決して言えないが、この地下街ではかなり整っているほう、たぶんそれなりの身分の人だろう。
ハーベスト商会の名前が効いたのか、管理会とやらもどうやら最初から乱暴なやり方でくることはなさそうだ。
「そっちこそ、ハーベスト商会がこんなところに来て何の用だ?」
どう返事しようと考えてるところ、こっちの状況を見て駆けつけてくるミューゼは耳元で囁いた。
「安心してください、この人たちにハーベスト商会の人をどうこうする度胸はありません、ただ問題は、そのう、急なご外出なため、ハーベスト商会の人だと証明できるものを持ってきてないです。」
全然安心できねえじゃねえか、何やってんだ?こいつ。
まあ、すでにグレンを呼んだし、ちょっと時間稼ぎすれば問題はない、それに目の前のこの数人程度ならたとえ喧嘩になっても特に問題はないだろう。
「我々は商会だ、なら当然ここですることは取引の商談以外ないだろう。」
「取引?こんな子供たちと何の取引だ?」
眉をひそめるおっさんの問いに当然素直に答えわけがない。
「それは当然商業秘密だ、取引の内容を他者に漏洩するなど商人として一番やっては行けない行為だと言うことを知らないのか?」
「この地下街は我々の管轄だ、この地下街で商売するなら我々を通さないと困る、ましてや我々の下組織である庭とならなおさらだ。」
「ふーん、そんなルールあったっけ?」
おっさんではなく、わざとらしく振り返ってミューゼに確認する。
「いいえ、聞いたことありません。」
ミューゼもわたしの意図を察して合わせてくれた。
「うちの部下はそう言っているが?」
おっさんはさらに眉をひそめ、今度はドスの効いた声で脅しにきた。
「ハーベスト商会と事を構えるのは不本意だが、ルールを守ってもらえないならこっちも強行手段を取るしかない。」
「まあまあ、落ち着きなって、そう言われてもこっちそんなルール聞いたことなかったし、こっちも大事な任務があってここに来てるから、このまま従うわけにはいかない、こうしょう、今から上に確認を取るから、その結果を聞いてから話し合いの続きをするのはどうかね?」
「はあ、そうしてくれ、ただあんまり待たせるなよ。」
深いため息を吐いきながらも了承してくれるおっさん。
「なんで俺がこんなことしなきゃならんのだ...」
わかる、わかるよ、おっちゃん、人の下で働くのはストレスが溜まるよね。
おっちゃんに共感しながら魔導器を取り出し、上に連絡するふりをしておっちゃんから距離を取る。
「兄貴、どうしますか?」
「ミューゼ、君本当に頼りなるのかならないのか時々わからないわ、まあ、安心しろ、すでにグレンを呼んできている。時間稼ぎしてあいつが来たら全部あいつ丸投げすればいいよ。」
「兄貴も人が悪いね。」
「なーにを~、こいつ!」
ミューゼの頭を両手で固定し、ぐりぐりしてじゃれあったら、リリアが割り込んできた。
「せっ、さま!遊んでいる場合ではありません、まだあの人たちが見ていますよ。」
あっ、そうだった。
すんとミューゼを離し、もう一度グレンに通話をかけた。
「聖女さま!ご無事ですか?!」
「もちろん無事だ、ただちょっと面倒なことになっていてな、わたしは別に構わんが、君らの計画とやらに支障をきたしたくないなら、早めにきた方がいいぜ。じゃないとわたしが暴れないと行けない状況になってしまうから。」
「え、ちょ、最速で参りますから、絶対に暴れないでください!聖女さまが暴れ出したら王都は滅んでしまいます!」
いやいやいや、わたしはゴ〇ラかなんかかよ。
「滅ばないって、とにかくそういうことだから、早く来いよ。」
通話を切り、思わずため息をする。
「はあ、こいつの中わたしってどんなイメージだよ、なあ、リリア、ミューゼ、わたしってそんなに怖い?」
「怖くなんてとんでもないです。」「怖くありません!」
二人の返事に満足げに頷いてたら、横のナディアーナがボソッと呟いた。
「あたいはめっちゃこわいやけど。」
「うん?ナディアーナちゃーん、今なんて?」
わたしの問いかけにナディアーナがびくっと震え、後ろに半歩下がた。
「な、なんでもないよ、あ、そう、そのグレンは誰なのかなーって。」
「ふーん、あいつ、首席とかなんとか言っていたから、名の通った魔術師だと思ったが、もしかして案外そうでもない?」
「そんなことはないと思います、自分がまだ物心ついてないごろですけど、聞いた話しでは魔術学院にいた頃からかなり派手にやっていて、結構有名だったらしいですよ。」
この国では5歳の時から学校に通い、そこで基礎教育を受け、そして10歳の時は魔力や精神力などの魔術素養のテストをし、才能のあるものは魔術学院、そうでないものは一般学院に進み、そこからまた十年の教育を受けるというかなり才能差別システムを採用している。
もちろん、あくまでもこの国のシステムで他の国はまた別の教育システムわけだが、どの国も多かれ少なかれ魔術師優遇である。
自分には関係のない話だが、魔術学院というのはすこしばかり興味がある、この国では無理だろうが、別の国で通ってみるのも悪くないかも。
「え?そんなに有名な人なのか、あたいあんまり地下街出たことないので、はは。」
「一応宮廷魔術師の首席らしいぜ。」
「宮廷魔術師?!」
「ああ、魔術以外なことは半人前だけどな、いや、魔術の腕もそんなに一人前とは言えないか、はは。」
「この国であの人をここまで酷評できる人なんて兄貴ぐらいっすよ。」
ミューゼのツッコミを聞いて、ナディアーナはさらに困惑の表情を見せた。
「あのう、あなたたちって一体何者?」
「さっきも言ったろ、わたしは聖女カルシアだって、この二人はその付き人?そんな感じ。」
「でも...」
ポン、ポン、ポン。
ナディアーナはまだなにかを言おうとしたとき、急促だが整然とした重い足音が地下街全体を鳴り響いた。
「あ、来た、なかなか早いじゃないか。」