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グラントゥギア 転生聖女放浪編  作者: ジャックス・R・ドンブリ
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第 24 話 

 百年前の新市街計画で旧市街が地下に沈められた時代から庭は存在してたと言われているが、庭の前に佇む小屋もその庭と同じぐらい、いや、そのさらに前からあったものと見て取れる。ガタガタ言うドア、踏む度にギシギシと鳴る床、そして度重なる修繕によって形成されたまだら模様の壁、どれもその歴史を物語っている。

 そんな年季の入ったボロい小屋の中に今は屈強な大男と栄養不良なんじゃないかと疑いたくなるような少年が相対して座っていて、二人を隔てるようにテーブルが置かれ、その上にはすでに虫の息の女の子の体が横たわっている。

 老化なのかはたまたもともと劣質なのか、本来白く輝くはずの魔導照明が弱弱しく黄色い光を放ち、もともと血色のない少女の肌はその光のもとでより一層死に近づいているように見えた。

「でははじめようか。」

 防音や障壁結界などの魔術数個発動させたあと、大男は口を開いた。

「あのう、本当に大丈夫なのか、治療しながら話すって、まずは治療に集中した方がいいのでは...」

「ほう、俺程度じゃ話しながら治療なんてできないと?」

「そういうつもりでは、ええと、俺、いや、僕がです、僕が彼女が心配で商談に集中できないのです。」

 少年の言葉を聞いて、大男はわずかに口角を上げたが、薄暗い照明のせいなのか、少年の目にはその笑みが恐ろしく見えた。

「そんな畏まった言葉使わんでいいぞ、まあ、いいだろう、先に治療をする、君は、そうだな...」

 大男は周囲を見回し、テーブルから二歩離れたところの床に指を差した。

 この瞬間、指さされた木製の床がギシギシと音を立て始め、そして、ぱんという音と共に床が破裂し、まるで吹き出る温泉のように土、石、木の混合物が破裂した床から噴出した。

 その噴出された混合物は周りに飛び散ることもなく、空中に集まり、変形し、最終的一つの机となり、ゆっくりと地面に置かれた。

「出来れば床は壊さないでほしいのだが...」

「それは悪かったな、でも俺からの取引の内容を聞いてたらこんなボロ屋どうでもよくなるから安心したまえ。」

 そう言って大男は立ち上がり、その机のそばに移動したら空間魔道具からお茶セットを取り出し、机に並び始める。

「さあ、君はここで座ってお菓子でも食べながら見てな、俺は君らと違っておもてなしは丁寧でね。」

「うん、見てる。」

 大男は皮肉を言っていたが、少年はそんな皮肉をまるで聞いていなく、その視線は机の上に並ばれた王宮のお菓子に釘付けだった。

 人間を見つけたゾンビのようによだれをたらし、お菓子を見つめる少年を見て大男はクスッと笑いながらもテーブルの上の女体に向かった。

「じゃ治療始めるぞ。」

「お、おうじょ。」

 すでにお菓子にかぶりついてる少年を見て大男思わず失笑したが、結局何も言わずに目の前の女に集中することした。

 ......

 野人女の怪我は酷かった、小屋の外で一旦内出血の止血をし、混乱した魔力を整理して、自身も魔力修復による延命措置を取ったが、実際すべてを元通りにするとなるとかなり手間がかかる。

「はあ。」

 本当に我ながら恐ろしい、あの一投げでここまでとは、自分のためにも他人のためにも、もっと実戦経験を積むべきだな。ここを出たら荒野のどっかでしばらく魔獣狩りでもするか。

 そう考えながら、わたしは精神力を目の前の野人女の体のなかへと侵入した。

 この世界の治癒魔術は地球のファンタジー作品のように呪文を唱えばどんな生物のどんな傷でも自動的治してくれるような便利な代物ではなく、非常に繊細かつ複雑な作業だ。

 そして治療魔術の最初難関は精神力の侵入だが、この難関というは治癒術者に対するものではなく患者に対するものである。治癒術者に治療してもらうには自分の精神防護を解除し、治療術者の精神力の侵入を許し、体の状態を調べてもらわないと行けないんだが、それは患者にとって非常に危険なことだ、精神力の侵入許すと本来防ぎやすい精神系魔術が防御できなくなる。

 つまり治癒術者に治療させることは自分の体のみならず、魂まで預けることとなる。だからよっぽど信頼のおける人か、よっぽど切羽詰まった状況でもない限り治癒術者に治療をお願いすることはほとんどない。そしてこれがこの世界にいまだ薬師という一般的医者が存在しているわけだ。

 精神力を野人女の全身に張り巡らし、彼女の内臓の位置構成、骨の形状から細胞の状態、遺伝子の情報まで調べ尽くす。

 やっぱりきついなこれ。

 千年前の聖女カルシアは最初のごろから治癒魔術をメインに研究をしていたから、その記憶のおかげでなんとなく勝手は分かるが、いざ目の前に重傷人が横たわっているとプレッシャーの大きさで体がこわばるし、いちいち記憶と照らし合わせる必要があるから判断が遅くてバタバタするしでめちゃくちゃだった。

 幸い傍観の少年はお菓子に夢中でこっちの状況を気付いてる様子もないみたいなので、何とか威厳は保たれている。

 約一時間後。

「ふう。」

 なんとか初手術に成功することができた、病気や魔術のよるダメージではなく、単純な物理損傷とはいえ、重傷の患者の命を救えた自分を褒め称えたい。

 まあ、自分がつけた傷だけどね、はは。

「治療おわったのか?ナディアーナは助かったのか?」

「ああ、しばらくしたら起きるだろう。」

 魔術で汗を取り払いながら、パーロッドの方に視線を向くと彼の後ろの机が目に入った。

 その机の上あったはずの大量のお菓子はすでに跡形もなく消えていた。

 あれだけの量、マジかよこいつ、どうりで寄ってくるの早いわけだ。

「よかった~。」

「じゃ、早速取引の話始めようか。」

 野人女は寝ているテーブルから離れ、魔術でつくった机のとなりに座り、机を指先でポンポンと二回叩いて催促する。

 野人女の状況を心配しつつもパーロッドも机の向こうに座る。

「さて、まずこっちの要求だな。」

 机の上のティーポットを手に取り、水分補給しようとしたら、お菓子と同様にその中身もう誰かさんの腹の中へと消えていったみたいで、思わずため息吐いてしまう。

「はあ、(シーエ)。」

 仕方なく魔術で水を生成する。

 それを見たパーロッドは恥ずかしそうに俯く。

「なんかごめん。」

 こんなことで目くじら立てるのも馬鹿馬鹿しいので、あえて触れずに水を一口飲んでそのまま話を続けた。

「一つ目、君たちには俺の指示に従っていろいろ仕事をしてもらう。」

「いろいろ?とはどんな仕事?」

 わたしの言葉を聞くとパーロッドも気を引き締まり、仕事モードに入って真剣な顔つきになった。

「安心しろ、大した仕事じゃない、パシリみたいなもんだ、配達したり、聞き込みしたり、買い物したり、そんぐらいのことだ。」

「そのぐらいなら問題はないが、なぜわざわざ俺たちに?」

 国王や聖棘の目を盗んでこっそりやらなければならないことがあるからとは当然言えるはずがない。

「ついでだ、二つ目の条件のな。」

「じゃその二つ目の条件は?」

「ふ、ここの子供を一人引き取らせてもらうと言いたかったが、今はちょっと事情が違ったね。」

 そう言ってわたしはテーブルの方に視線を移した。

「え?それってつまり。」

「ええ、あそこで寝たふりをしてる野人女を引き取ることにするよ。」

「はああああああああああああ?どうしてあんたなんかに?はああああ?ふざっけんな!」

裏話ですが、実はナディアーナの設定もともとこんな荒っぽい感じではなく、おとなしい感じの子だったんですが、先日夢のお告げでこうしろという指示が下されたので、従ってみようと思い、急遽変えたんです。まあ、変えたのはいいものの、話の中心になるキャラの一人の性格が変わるとこれからの話の流れ的影響が出るので、いまその辻褄あわせに苦戦しています。結論、気まぐれはほどほどにすべし。

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