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グラントゥギア 転生聖女放浪編  作者: ジャックス・R・ドンブリ
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第 23 話 

「これが君たちのおもてなしか、非常に残念だ。」

 襲撃者のド派手な攻撃によって舞い上がった土煙もだいぶ落ち着き、薄れた煙の中から二人の姿が現れ始めた。

 一人は体や服に付着した土振り払っている大男、もう一人は魔獣のように四肢着地し、まるで魔獣が獲物を狙っているような感じで大男を見つめる女の人だ。

「ご、ご、誤解です、我々は決してそんなつもりは、ナディアーナ、お前なんてことを...」

 近づこうとするリリアたちをジェスチャーで阻止し、死の恐怖と理不尽に攻撃された怒りを嚙みしめながら言葉を発する。

「誤解ねえ...」

 その誤解で死ぬどころだったが?

 あのスピードでの不意打ちに驚いて何にもできなかった、幸い前もって発動しておいた防御魔術があったから無傷に済んだが、もしそれがなかったらと思うとゾッとする。

 やっぱり戦闘経験は積んでおかないとこの世界を生きるのは厳しいな。

「そうだ、な、ナディアーナ、お前も...」

「あそこの野人さんはそう思ってないみたいだが?」

 ガチの命の危機に晒されて、はい、そうですかって許せるはずがない、なーなーと済まそうとするパーロッドの言葉を遮り、目の前のいかにも短気そうな野人女に挑発する。

 そして、相手は当然のように乗ってきた。

「誰が野人じゃあ!」

「ふ、そのぼさぼさな髪、ボロボロな服、薄汚い肌とその魔獣のような動き、野人でも気を遣ってやったつもりよ、まさに野獣だよ野獣。」

 わたしの言葉が口から出るだびに、野人女の顔はみるみるうちに歪み、しまいにはクソが、死ねと叫びながら突っ込んできた。

 想像通りの脳筋タイプだな、野人だと痛いどころ突かれて切れてんのに、クソとか死ねとかこっちには何にも刺さらないカードしか切ってこない、そして言葉で勝てないと自覚したら今度は暴力を振るってくる。

「弱い!」

 相手は遥かに格下な相手だ、不意打ちでなければ負ける要素なに一つない...はずだ。

 カルシアの記憶の中の数少ない戦闘シーンを思い出しながら、突っ込んできた野人女の拳を片手で止め、そしてそのままで手首を掴み、そして勢いを乗せて後ろへ引っ張り、背負わない背負い投げのように彼女を後ろの地面に叩きつけた。

「ぐぁあ、コオ、コホン。」

 本当に弱かった、いや、弱すぎた、背中を地面に叩きつけられ、血を吐いている野人女を見て思わずやりすぎではと思ってしまう。

 いきなり命の危機に晒されてすこしパニックになってしまったから、さっき対峙してた時、思いつく限りの強化と防御魔術をかけまくってしまった。

 彼女の攻撃を止め、その体を地面から引っ張り上げた瞬間、あれ、このままやったこいつ死ぬじゃないと一瞬脳裏を過って、力をかなり抜いたけど、それでも血を吐くほどの重傷を負わせた。

「ええと、大丈夫?」

 敵ながら思わず心配になってしまった、野人女って言ってるけど、よく見たら顔はそれなりに整っている、もしうっかり殺してしまったらちょっともったいないと感じてしまうかも。

 これでも一応花は摘むじゃなくて愛でるタイプだから。

「コオぅ、コホ、はあ、は、ちくしょぅ。」

 野人女はかなりのケガを負ってるはずだが、それでも負けを認めたくないのか、ふらふらと立ち上がり、拳を振り上げて攻撃してきた。

 無論そんな攻撃は何の効果ももたらさず、防御魔術貫通するところか、わたしの魔力を消耗させることすらかなわない。

 わたしも当然そんな足搔きに反撃するはずもなく、ただただ立って彼女の攻撃を受けていた。

「もう諦めろ、強化魔術の維持すらできなくなっているのだろう。無駄な足搔きはやめるのだ、貴様を殺すつもりはない。」

 この世界の魔術師の戦闘において、地球の少年漫画でよく見る血反吐吐きながら戦うような状況は基本ない、なぜなら、大怪我を負ったら意識は朦朧とし始め、精神力の操作がままならなくなるからだ、いつもなら難なく発動できる魔術でも失敗しまくるし、すでに発動した強化や防御魔術が維持できなくなったりする。

 もちろん、命のやり取りをする戦いならドーピングして戦い続けられなくもないが、殺し合いでもない限り、防御魔術破られた時点で決着はついたことになる。

「ちくしょ、ちくしょぅ。」

「ナディアーナ、もうやめるんだ。」

 すでに意識が飛んでいて、言葉を交わせる状態ではないのか、わたしの言葉もパーロッドの言葉も届くことはなく、野人女は依然攻撃を続けた。

「はあ、仕方がない。」

 左手で野人女のふにゃふにゃな拳を振り払い、右手でその腹に一発腹パンを喰らわせる。

「うっ!」

 もちろん、かなり力を抑えたので、この一発で彼女は飛んだりとかもせずにただガックリと崩れ落ちた。

 彼女が倒れないようにその背中に手を添えたら、パーロッドがすっ飛んできた。

「彼女は、あの、大丈夫か?」

「安心しろ、死にはしない。」

「そうか、ならよかっ...」

 わたしの言葉を聞いて彼は安堵したようだが、それも束の間、わたしは続いて言葉を発した。

「今は、な。」

「それは、どういう...」

 彼のこわばった顔を見て、わたしは笑った。

「わからんのか、これだけの重傷だ、放っておけばすぐにでも死ぬ。」

「じゃ、今すぐ手当を...」

「は、ふはは、手当?全身28箇所の骨折、脾臓破裂、その他にも内臓出血多数、加えて無理矢理の魔術発動による魔力紊乱、お前らにこれを治療できるやつがいるのか?」

「そ、それは...」

 ないだろうね、こんな孤児院、いや、この地下街の中でもいるかどうか怪しい。

「この野人を治療できる人、治癒術者だろうが、薬師だろうが、王都中探し回っても十人は見つからない、そしてたとえそんな人を君ら見つけてきたとしても、その時はこいつはもう巡りに帰ったのだろう。」

「そんな...じゃナディアーナはもう...」

「だが俺がいる。」

「え?」

「聞こえんのか、俺なら治療できる、すぐにでもな。」

「治療してくれるのか?お願いします!」

 もちろんする、ってかもうこっそり治療を始めているが...

「俺がここにくる目的まだ覚えているか?」

「取引...か、わかった、我々の命に害さない限り、取引は何でも応じる。」

 よし、すこし予定を違ったけど、結果オーライだ。

「そこは安心しろ、さっきも言ったけど、君らにもメリットがあると。」

 そう言ってわたしは野人女をお姫様抱っこで持ち上げた。

「じゃ、あの小屋でこいつを治療しながら話そう。」

 わたしははじめての人をお姫様抱っこする新鮮感を味わいながら、率先して小屋へと向かった。

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